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炎獄の娘(旧版)  作者: 青峰輝楽
第二部・陰謀篇
45/129

2-19・都警護団本営にて

 ダグ・ダリウスは、ファルシスのもとを辞したあと、まっすぐに警護団の本営に向かった。予期していた通り、アトラウスの姿があった。

「おはよう。ファルの所へ寄ったのかい?」

「は、アトラウス様」

「僕の言った事は伝えてくれた?」

「はい。若は、その、しばらく会いたくないと……」

 そう言いながら、僅かに首を振り、これはここに陰ながらある金獅子の耳に聞かせる為の言葉で、真意ではない、と目で伝える。アトラウスは理解したようだった。

「そうか、まだ怒っているのか。まあ、仕方ないな」 

 適当な相槌をうって、

「他には?」

 と促す。

「自分の事はいいから、姫様を護るように、と……」

「もちろん、彼女は僕が護る。そこのところは、もっと信頼してくれるように、明日また話しておいておくれ」

「は、わかりました」

 ダリウスは小さく頭をさげた。あるじは、取り立ててくれたルーン公。もとは傭兵の身ではあるが、忠信は揺るぎない。だがいまは、軟禁されて力のない嫡男ファルシスより、この『ブラック・ルーン』に従うしかない。ダリウスは単純な男であったので、武芸の腕前をあまり披露しないこの公子を心中軽んじてきたが、この局面に来て、ファルシスの目を奪われる華麗な剣芸よりも、アトラウスの知能のほうが、生き残る上で重要なのだと思い知らされつつあった。

 実際、今までアトラウスに心服していなかった者の多くが、かれを頼りにしつつある。もしもアルフォンスがいなくなれば、ルーン家はバロック家の傘下に入った上で、カルシスが当主となるであろう。だが、カルシスの短慮、無能は皆知り抜いている。穏やかな知性を備えたこの嫡男、黄金色もバロック家の加護も持たず、いずれは排斥されるとしても、いまは何より頼るべき存在と、たった一日のうちに騎士や護士たちは、悟りつつあったのだ。昨朝、謹慎を解かれてからの彼の行動は、目を瞠るものがあった。騎士団や警護隊の本営を忙しくまわり、いつ暴動が起きてもおかしくはないほど不穏なアルマヴィラ都の治安を守る為に的確な指示を与え続けた。

 金獅子騎士たちは、仮に暴動が起きれば、武力でそれを制圧するのみ、と考えている。民衆の暴動など、国王直属の騎士精鋭をもってあたれば、難なく鎮圧できる。

 だが、アルマヴィラの騎士や警護士は、民衆とぶつかりたくない。その思いを同じくした上で、アトラウスは、暴動を止めるべく奔走した。まだルーン公の罪は確定した訳でなく、大神官ともども、何者かに陥れられている可能性が強い、だが、聡明な国王は恐らくすべてを明らかにし、罪ある者を裁くだろう……そんな風に、噂を流布し、民衆をなだめたのだ。


「アトラウス様! 面会を求める貴婦人がいらしております」

 警護士の一人が駆け寄り告げた。

「貴婦人?」

「それがしはこれで」

 ダリウスは席を外そうとする。

「レディ・ローゼッタ・ドースがおみえです」

「……会おう」

 ローゼッタはファルシスのかつての恋人で、アトラウスとは親しい仲ではない筈だ。ダリウスは好奇心を刺激されたが、アトラウスは頷いて退出を許したので、その場に止まることはできなかった。

 目立たぬような装いながらも柔らかな香水を纏った令嬢の姿は、男臭くものものしい空気の本営にはまるで似つかわしくなかった。すれ違いながらダリウスはなぜか、場違いなその存在に不吉な予感を覚えた。

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