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炎獄の娘(旧版)  作者: 青峰輝楽
第一部・揺籃篇
4/129

1-1・幸福な家族の肖像

 ここに、幸福な家族の肖像があった。

 家族は4人。

 黄金の髪と瞳を持つその家族のひとびとは、可笑しいくらいに互いによく似通っていた。

 山間の穏やかな都市、しかし、領内の金鉱からの富と、光神ルルアの大神殿への絶えぬ参拝客とによって、豊かに栄える地方、アルマヴィラ領主アルフォンス・ルーンと、その妃カレリンダ、二人は同年の36歳。

 夫妻は実際の年齢よりかなり若々しく、特にカレリンダは、17年前に双子を出産した後、結局子供を身ごもらなかったこともあって、まだ若い娘と言っても通りそうな艶やかさで、絶世のと賞されるその美貌に、気さくで柔らかな笑みを絶やさず、崇拝する夫を見上げていた。

 聖炎の神子と呼ばれ、民と都を守護する魔力を持った美しい妻を、激しい恋に落ちた18年前と何ら変わらぬ愛情を持って見つめるアルフォンスは、人を惹きつけてやまぬ明るい眼差しを持った凛々しい青年貴族だった。黒髪黒目の民が大多数を占めるこの地方で、統治者一族の証である同じ瞳と髪の黄金色のせいもあり、従妹である妻と、兄妹のようにも見えた。

 そして、当年17歳の公子と公女。両親の美点を余すところなく受け継いでいるようなこの双生児は、どちらも中性的なところはまるでないにも関わらず、成長した兄妹としては珍しいくらいに、鏡に映したように似ていた。

 世嗣のファルシスは、剣、とくに細剣の名手として知られる父に対し、そのどちらかといえば細身の身体に似合わぬ大剣を、自らの一部のように操る名剣士であった。幼い頃から、次代の領主として恥じぬだけの教育を施され、また大貴族らしからぬ自由な気風の父の理念をよく受け継ぎ、若年ながらもその統治者としての資質を評価され始めていた。但し、母方の血に濃い魔力のほうは、まるでと言ってよいほど持ち合わせていなかった。そして、その性格に関しては、どちらかといえば生真面目で実直な両親や妹に比べ、調子がよく、気侭に見え、それでいて本心を窺わせぬようなところがあった。

 妹姫のユーリンダは、両親と兄、周囲のひとびとすべてに愛されて育った少女だった。疑うことも憎むことも学ばず、他者の幸福を我が事のようによろこび、悲しい話を聞けばその感じやすい大きな瞳から大粒の涙を溢れさせた。類をみないほどの素直なこころの持主……それは、悪く言えば、単純、ということでもあった。その情の深さは、時として、彼女に比べ余りにも恵まれない者にとり、無神経と感じられる場合があったのだ。だが、余りの邪気のなさに、本心から彼女を悪く思うことは、多くの者にとって不可能だった。

 年頃の貴族の娘、そして母親譲りと評判の美少女ともなれば、普通ならば他都の多くの貴族の若者からの求婚が絶えない事であったろう。しかし、ユーリンダには既に定められた許婚があった。父の弟の息子アトラウス。従兄にあたるこの青年との婚約は、政治的なものではなく、熱烈な恋愛によるものだった。こどもの頃、初めて会ったその日から、ユーリンダは、物静かな深い闇色のひとみの従兄に憧れてやまなかったのだ。

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