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炎獄の娘(旧版)  作者: 青峰輝楽
第二部・陰謀篇
39/129

2-13・不思議な夢

 夜が来たが、不安にさいなまれたユーリンダは、眠る気持ちになれなかった。

 だが、とりあえずのつもりで寝台に横になると、精神的な疲れから、あっという間に意識は沈み込んでいった。


 ユーリンダは、不思議な夢を見た。


 彼女は、浅紫色の煙が揺らめく、砂と岩ばかりの荒野に佇んでいた。

 そんな荒れた場所は、見たこともなく、どうしてこんなところにいるのかと怯えた。

 すると、かすんだ視界の向こうに、人影が見えた。

『だれ……』

 叫ぼうとしたが、口が動いただけで、声は音とならない。この世界は無音なのだと、ユーリンダはその時気づいた。

 やがて、人影の周りの曇りが僅かに晴れ、ひとりの人物が現れた。

 ユーリンダは息を呑む。そんな容貌の人間を、見たことがなかったからだ。


 その人物は、まだ若いようだったが、真っ白な頭髪を持ち、肩の辺りで無造作に切りそろえていた。背は高くなく、すらりとした身体を革の鎧で包み、レイピアを佩いている。砂塵を払う為か、厚い布を目の下まで引き上げており、男なのか女なのか、判断をつけかねた。

 ユーリンダの気配を感じたらしく、その人物は、閉じていた瞳を開けた。その瞳は、燃えさかる炎のように赤い。

 雪のような深白の髪と、火のような純赤の瞳。

 その異様さと、その稀有な美しさに気圧され、ユーリンダは思わず後ずさった。

 炎のひとみはユーリンダを捉え、険しく睨み付けた。

『……!!』

 激しい怒気が、ユーリンダに向けて放たれた。苛立ち、憎悪……覚えのない感情が、しかしはっきりと、この見知らぬ人物から伝わってくる。

「あなたはだれなの」

 ユーリンダは叫んだ。叫びは声にならず、ただ彼女の口がその思いに沿って動いただけだったが。

 相手は、怒気を含んだまま、腰のレイピアを抜いた。

 斬りかかってくるのかと、ユーリンダは腰が抜けそうになったが、そうではなく、地面にレイピアで文字を書き出した。

 この静寂の世界で、何か伝えようとしているのだ。


 だが、どうやらその行為は禁忌であったらしい。

 まばゆい稲光が空を裂き、レイピアは跳ね飛ばされた。

『出来ないと言っただろう!!』

 無音だった世界に、突然、聞いたことのない女の声が響く。完全な静寂に順応していた耳は、その声に痛みすら覚えた。

『運命は変えられぬ。運命は救われぬ。おまえは、救われぬ……』

 ぞっとするような不吉な声。白髪の人物は、レイピアを弾かれた手を押さえながら、更にユーリンダを忌々しそうに睨めつけた。それから、思い出したように、顔を覆っている布を、引きおろそうとした。

 だがその時、急速に周囲の景色がぶれ始めた。

「だれ。だれなの……」

 見知らぬ風体でありながら、激しい怒りをぶつけられながら、それでもその人物に、ことばに出来ない何か、おろそかに出来ないものを感じた。

 いつか、どこかで会った……? わからない。でも、もっと触れ合いたかった。

 しかし、夢は終わる時間のようだった。

 世界はぼんやりと崩れ、あとは、夢のない眠りが支配した。

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