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炎獄の娘(旧版)  作者: 青峰輝楽
第二部・陰謀篇
37/129

2-11・アトラウスの意図

 夕食を部屋でとりおえ、今日はこれ以上の面会はなさそうだった。

 なぜ、真っ先に来ると予想していた、守護隊長ダリウスは来ないのか。考えても答えは出ない。小さくため息をつき、ファルシスは寝台に横になった。今夜は眠れるだろうか。この寝台に眠れる夜は、あと幾日なのだろうか。

 読みかけのままに置いていた書物を手に取った。そして、袖の中に挟みこんでいた紙片を、頁の間に落とし込む。

 アトラウスから渡されたメッセージを、監視の目を盗んで見る瞬間を、ファルシスはずっと待っていたのだった。

 息を呑み込みながら、書物に目を落とすふりをして、微かに震える指で、ファルシスは紙片を開いた。見慣れたアトラウスの字が、小さくびっしりと書き込まれている。


『ファル、君を怒らせた僕を許してほしい。金獅子どもには、僕と君の仲が決裂したように思わせた方が、動きがとりやすい。愛するユーリンダと唯一無二の親友の君、そしてご両親を、全力を尽くして守る気持ちに、決して二心はない。最悪の場合、君たちを逃がす算段を立てているところだ。団長殿は気概はあるが、真っ直ぐ過ぎて危うい。君の所へ行ったローゼッタ嬢は、残念ながら信用できない。ダリウス殿とは連絡をとっている。かれを通じて、また連絡する』


 ふうっと呑み込んだ息を吐き出した。

 激しいやりとりの間にも、どこかで違和感を感じていたが、芝居だったという訳だ。

 この手紙を疑う気持ちは、ファルシスは持たなかった。なぜなら、もしアトラウスが裏切り者であったなら、いまや無力な存在である従弟に、こんな手の込んだ芝居までして、味方だと思わせておく必要があるとは思えないからだ。

 日和見的な計算があれば、ただ近づかなければよいだけで、わざわざ挑発して殴られに来ることもない。


 だが、ローゼッタが信用できないとは、どういう事なのか。アトラウスを信じると決めれば、彼女は信じてはいけないという事になってしまう。ファルシスにとっては、どちらも大切な存在だった。

 アトラウスには、他の誰にも話した事のない心のうちも見せている。

 リディアへの想いも、ローゼッタとの関係も、愚痴を言うように明かしたのだ。

 それを知りながら、彼女を信じるなというからには、相応の根拠があるのだろう。

 彼女の人柄をでなく、彼女のもたらす楽観的な情報を鵜呑みにしてはいけない、という事かも知れない。こんな短い手紙では、わからないことばかりだ。


 ファルシスは、紙片を小さく固く丸め、水とともに飲み下した。

 寝台に横になると、急に、どこかに隠れていた疲労感がまとめて噴出してきた。

 眠る事は、必要だ。かれは抵抗せず、睡魔に身をまかせ、泥のような眠りにおちていった。

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