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神の子  作者: 櫻塚森
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白と黒

深く深い闇の淵…。

女はそこを訪れ黒い塊に頬を寄せていた。

《泣いているのか…梓欄…。》

「悔しゅうございます…あの者は御館さまを復活させる気などないのです。」

低い笑い声。

《あれは、もう我の一部。逆らうことはできぬ。》

「しかし、天界の姫を使う術が…。」

《あれは、夜叉の御子の肉体と魂を離すため、わざと罠に乗ったのだ…。》

「…。」

《あれは、頭のよい男よ…龍の姫巫女を蘇らせるため、2つの道を用意しおった。》

「2つの道にございますか?」

《さよう…。ワシが求めるモノのため、梓欄には、一芝居を打ってもらわねばならない。》

「御館さまの為でしたら、なんなりと…。」



「雷紋たちは元気か?」

慈音の肩に乗り、小さくなった白妙が尋ねた。

彼は白妙が傍に居るだけで嬉しいようでニコニコしている。

「何故、そんなに嬉しそうなんだ?」

白妙の問いに、慈音はカッと顔を赤くした。

「だ、だってさ…白妙が傍に居ることが嬉しくて…。もう、どこにも行かないでよ…。」

小さな白妙に頬を寄せる。

嬉しそうな慈音を見て安堵の息を漏らす白妙であったが、彼女の中の鬼が呟いた。

(姫様…白虎の御子の変化を見逃してはいけませんよ。)

(分かっている…彼の心は私のせいで傷付いた…。)

白虎の心は1度傷付くとその修正に時間が掛かる。陽の気である白虎の心が傷付くと言うコトは、陰の気を宿す黒虎の力が増してしまうということだ。

均衡の崩れた神の虎を宿す神の子は闇に陥りやすくなる。

神の子が闇に落ちると言うコトは、その身体が邪黒神の寄り代になると言うコトなのだ。

(慈音殿が黒虎を、新たな力を望んだのは、白妙さまを救えなかったことに対して強く力をお求めになったからです。風の神が与えた力であったとしてもいささか軽率であったのでは?その力が諸刃の剣であることは風の神も承知していただろうに。)

鬼達がため息を吐く。

(それほどまでに姫様を守る力を彼が欲したのでしょう…。)

緑色の瞳を覗き込む白妙。

(彼を闇み落としたりしない…。私が守ってみせる…。)


白妙の本体である阿修羅王が一刻も早く下界に自分の一部である白妙を落したかったのは、白虎の父神である風の神が慈音に黒虎を与えてしまったからと言って他でもない。

「彼が望んだからだよ。」

「しかし、あの力が諸刃の剣であることは、あなたが1番分かってるはずだ。」

風の神は阿修羅王をみてフッと笑った。

「獣など、闇に落ちたところで天上界にとっては大した痛みではない。それは、彼が邪黒神の寄り代になったとしてもだよ。寄り代になったとしても、所詮人の身体。邪黒神にとっても一時しのぎにしかならない。」

阿修羅王は風の神を睨み付けた。

「獣よりも、たとえ一部であっても君を奪われることは避けなければならない。次に君の肉体が滅んだ時は、二度と神の子として下界に復活させることはない。それを防ぐ為に白虎の御子には、盾になってもらわなければならない。そのための黒虎だよ。」

「しかし…。」

風の神はため息を吐いた。

「あの慈音という人間に白虎を憑かせるのではなかったよ…阿修羅王にそのような切ない顔をさせるとはね…。君の中の白妙は慈音という人間を愛してしまったのだね。」

「愛…。」

「闘神・阿修羅王に欠けていた心が白妙だということだよ。…さぁ、白妙。君なりに彼を守ってみたまえ、彼が闇に落ちぬよう守りぬき、下界から邪黒神王の影を退けてみたまえ。」

阿修羅王の中から小さな光が飛び出してきた。

「おっと、まだ、君の肉体は復活してないよ…その魂だけで降るがよい。」

風の神の言葉を受けた小さな光は下界へと降りた。



「白妙、何考えてるの?さっきから眉間にシワがよってる。」

不安そうな顔を見せる慈音に白妙はできる限りの笑顔を見せた。

「慈音、私が傍に居るということを忘れるでないぞ。」

彼女の言葉に慈音は静かに頷いた。

「どうしたのさ…ちょっと怖い顔なんだけど…。」

小さな白妙はギュッと慈音の頬に抱きついた。



「これが、白妙…。」

唖然としているのは、龍綺。

小さい身体になってしまった彼女を仲間は微笑ましく迎えてくれた。


「敵の名は芳崖。」

その名に可燐の胸が痛んだ。

「彼の目的は、龍の姫巫女を蘇らせること。邪黒神によって眠りについた姫巫女を目覚めさせるには、邪黒神の復活が必要だった。」

「けれど、彼は失敗したのだろう?白妙を使った術に…。」

「そうだ…けれど彼は何かを企んでいる。」

雷紋の視線がチラッと白妙に向く。

白妙は彼が何をいいたいか理解した。

「邪黒神は、1度こちらに呼ばれたことで、とても出やすくなっている。」

皆が頷く。

「入る身体さえあれば蘇られるほどにね…。」

「入る身体…。」

「そう、それは、白妙の人間としての…神の子としての身体のことだ。神の魂を一部とはいえ宿すことのできる肉体だからね。」

慈音の手に力が入る。

「けれど、彼女が魂だけの存在では力を出すことはできないし、それは、芳崖の思惑を止めることや、邪黒神の復活を遮ることはできない。」

話し合いは続いた。



つづく

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