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神の子  作者: 櫻塚森
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良く似た人

R15的表現アリ

「そもそも、なんで白妙は殺されたんだろう…。」

雷紋がポツリと呟いた。

彼の膝には黒い犬が左右から頭を乗せて眠っている。

耳がピクピク動いているから彼の声は聞いているのだろう。

「白妙ちゃんは、死んでません!」

きっぱりと否定する月凪。

彼女の膝にも一匹頭を乗せて寝ている犬がいた。

彼女は今、犬達の首輪を作成中だった。

この国では、首輪をしていない犬は処分されることになっているから。

「ぜったい、戻ってくるもの!」

じわっと泣きそうな月凪に苦笑する雷紋。

「兎に角、俺的には、木蓮は、はじめ慈音を殺そうとしていたように思うんだ。」

「そうかもしれないけど、実際には、近付いてきた白妙ちゃんを刺したのよ?やっぱり、憎くなったんじゃないかしら?だって、慈音くんと白妙ちゃんお似合いなんですもの。」

頬を染めて思いを巡らせている月凪。

「ホント、月凪は夢見がちな女の子だな。」

「な、何よ!意地悪!!」

プンッと頬を膨らませて他所を向いたのを起き上がった犬が気付き慰める。

「やっ、戎ったら、大丈夫よ、本気で怒ってないんだから!や、やんっ!」

ペロペロと月凪の顔を舐める。

「戎?」

雷紋の低い声に戎が振り向く。

「舐めすぎ…大人しく寝てなさい。」

戎は雷紋の方へやって来て2人を押しのけて膝に頭を置く。

「ちょっと、顔洗ってくるね。」

月凪が席を立つ。

「白妙は…俺達とは違う…神の子…鬼を従えているけれど…あくまでもあの石に鬼を封じてあるだけで、宿していない…では、夜叉の御子とは…本当の神の子?」

月凪が難しい顔をした雷紋に声をかけるべきかどうか悩んでいた。

その様子を見て、戎が近寄って、月凪の太腿辺りに擦りより、切ない声を出した。

「しっ、雷紋くんが考え中は、黙っておこうね。」

静かに横を通り、ベランダに出ようとした月凪の腕を雷紋が掴んだ。

「きゃっ。」

「えっ?あっ。…ごめん。」

月凪は背中から雷紋の腰を掛けているベッドに倒れた。

「もう、びっくりするでしょ?」

起き上がる月凪をジッと見ているかのように思った。

(親達を攫って、白妙を実は攫おうとしたのなら、何が浮かぶ?)

月凪はまた雷紋が思考に入ったと思い再びベランダを目指したかった月凪であったが、

「……(これは、どういうことだろう…。)」

と頭を悩ませる事になった。

雷紋がスッポリと月凪を腕の中で捕まえているからだ。

(神を使った…邪黒の復活?)

自分の中に眠る膨大な情報を探る。

「あっ!」

思いついた瞬間、腕に力が入り、小さな悲鳴が聞こえた。

「…月凪、何してんの?」

自分が引き寄せて抱きしめたくせに、出た言葉がこれか…。

月凪はムッとした。

「知らないっ!!」

月凪は外の空気に当たりに行った。

彼女の後を導が付いて行った。

「何怒ってるんだ…って、そうだ!」

雷紋は紙を取り出して、何やら書き出した。

「そうだ、そうだよ、六芒星と蟲毒を組み合わせた禁断の呪術だ。あれなら、神の身体を贄にして、魔神を復活させられる。」

「コドクって何?」

月凪と導が帰ってきた。

「虫とか、獣を1つの空間に閉じ込めて殺し合いをさせるんだ。で、生き残った強い魂を使って願いを叶える術だよ。恐らく、敵は、一部しか出て来ていない邪黒を復活させるために、俺達の親である人間を攫った。」

「で、でも殺し合いはしないよ?」

月凪の言葉。

「まぁ、聞いて。あくまでも仮説なんだけど…。」

雷紋は自分の考えを語りだした。

「敵は、慈音を殺そうとしてたと考えてる。」

「慈音くんを?」

「そう、でも、刺客として送ってきたのが慈音に恋焦がれている太夫だったために計画が違ってしまったんだ。あの頃の白妙は、慈音に恋をしはじめていたから、あの時もし太夫が慈音を殺していれば、かなりのダメージを心に受ける事になる。白妙は俺たちとは違う、ある意味、本当の神の子。神獣を宿しているわけじゃない。彼女自身の力で鬼を操り、剣を身体から出して戦ってきていた。常に彼女を守っている鬼達は、彼女の冷静な判断力で呼び出せる。でも、慈音がもし死んでいたら、彼女の心は少なからず動揺し、上手く鬼を呼び出せない可能性、つまり隙ができる。」

「白妙をどうしたかったの?」

「神々が力を合わせて閉じ込めた魔神を復活させるには、復活する世界に魔神の一部があること、そして、神の命が必要となる。恐らく、化け物を憑依させた親達に殺し合いをさせて、蟲毒によって勝ち残った者に白妙を殺させて、その命の光を生贄に魔神を呼び寄せるんだ。」

月凪は息をゴクリと飲み込んだ。

「今となっては、白妙がいなくなって助かったとしか思えない…。」

雷紋の言葉は苦しい思いが込められていた。


「慈音!!!」

紅蓮の声に慈音が反応して身を翻した。

流刑島を目指して静香の街を出て、慈音達は、化け物に襲われた。

「でも、思ったより襲われないね。」

一休みの間に可燐が言った。

可燐は今回の旅までに紅蓮、慈音を相手に剣術の向上に努めていて随分強くなっていた。

「それに、やたらと軍人が多いわ…。」

山道で、祠の周辺で、軍人を見た。

「我等は、芳崖様の命で、国の人々を化け物の脅威から守るために来たのだ。」

軍人たちは皆声を揃えて言う。

ついこの間までは、神の子を異分子として捕えようとしていた軍人達が、神の子の名の下、芳崖の命で動いているというのだ。

「芳崖おじ様は知らないけど、軍人って嫌いよ。いつも家族を悩ませていたもの。」

軍の見回りと称して行われる駐屯軍人の巡回。

それは、街の治安を悪くした。

「酒を飲んで、暴れたり、公共のモノを壊したりするって、ばあやが物凄く怒ってたもの。」

ふと可燐の表情が曇る。

きっと優しかったばあやのことを思い出したのであろう。

ソレと同時に引き出される記憶。

「可燐、こっち見てみ?」

呼ばれて振り向くとそこには、変な顔をした紅蓮がいた。

「プッ!」

思わず噴出した可燐が、笑いながら怒りだした。

「ふざけた顔しないでよ!!」

じゃれ合う姿を見ていた慈音も2人を微笑ましく思う反面、白妙がいない現実が重かった。

「紅蓮、そろそろ行こうか。」

立ち上がる慈音の足元がふらつく。

「慈音、大丈夫か!」

紅蓮がその身体を支える。

「慈音くん、寝てないでしょ、昨日も一昨日も。」

可燐が腰に手を当てて言う。

「なんて、えらそうなんや。なぁ、慈音?ちょっと先に進んだら小さな町があるから休んでこ?」

慈音は笑ってソレを断る。

「大丈夫だよ。ほんと、急がないと…。」

立ち上がる足に力が入ってないことを紅蓮は気づいていた。

「ホンマに頑固やな。」

「うっ!」

紅蓮の拳が慈音のみぞおちに入った。

慈音の身体ががっくりと前に倒れた。

「よいっしょ、可燐、行くで。」

「えっ、あ…紅蓮ってば、やる時はやる男よね。」

「なんや、それ?」

笑い合う2人。

「宿に入ったら、こいつに雷紋に渡された薬飲ますねん。」

「うん、でもいい夢は見ないだろうね…。」

そっと慈音の前髪を掻き分ける。

「そやな…でも、寝えへんのはアカン。喰って、出して、寝る。ソレが大切や。」

「紅蓮ってば単純。」

紅蓮は、豪快に見えて繊細な心を持ち、いつも人の為に自分が何を出来るかを考えていると可燐は思っていた。

(私を助けてくれた時も、今だって…。頼りになるお兄ちゃんだよ!!)

バシッと紅蓮の背中を叩く。

「可燐…痛いねんけど?」

「ははっ、ごめん、ごめん!」


その山道から一番近い町に入った紅蓮と可燐は宿屋を探したが、どこも軍人で溢れており、泊る場所の確保が難しかった。

慈音を病人と偽っても、部屋を開けてくれる宿屋は見つからず2人は、どうするか迷っていた。

「もし、泊るところをお探しなのかしら?」

困っている紅蓮に声をかけてきた人がいた。

振り向いた紅蓮と可燐はその女性を見て驚いた。

黒い髪に、瞳の色は茶色だが、大きく、

「…白妙…。」

そう、声を漏らしたのは可燐だった。

紅蓮と可燐はその女性の申し出をありがたく受け取った。

彼女は喪服を着ており、住んでいる家は町の少し端の方にあった。

「先日、父が化け物に殺されて…私は1人になってしまったの。古いけど部屋数だけはあるから、泊ってちょうだい、誰かがいるということは、それだけで安心できるものだから。」

慈音を奥の部屋に寝かしつけ、紅蓮と可燐は居間で差し出されたお茶をのんだ。

「八鹿さん、普段は何をしてる人なの?」

「町の役場で働いているの…でも最近は、軍人さんの世話ばかりで、ちょっとイヤになってるところよ、横暴なんだもの…。」

可燐と同じ意見。

彼女はすっと立ち上がった。

「どこへ?」

「御病気で倒れられたというお友達の様子を看て来ます。あなたたちはごゆっくりお茶でも飲んでいてくださいな。」

彼女は居間から出て行った。

「…慈音くんに薬飲まさないでいいの?」

「んー、かなり正確に入ったからなぁ…必要ないと思うわ。」

可燐は八鹿の出て行った方角を見た。

「それにしても似ていたね…。」

「あぁ、でも、今の慈音には酷かもしれんけど…。どないした?可燐…。」

可燐は眉間にシワを寄せてまだ同じ方角を見ていた。

「うん…はっきりしないんだけど…私ね、八鹿さんが…んー、上手く言えない。」

「なんや、ソレ…。」


八鹿は、静かな寝息を立てる慈音の枕元に立って彼を見下ろしていた。

すっとその傍に座り額に手を当てる。

「熱い…。」

無理が祟った慈音の身体は汗を掻き、熱を帯びていた。

八鹿はヤカンと桶を持ち込み、慈音の身体を拭き、着ている服を脱がした。

(綺麗な身体…。)

熱を帯びた身体に指を這わす。

冷たい指が肌を滑ると慈音から切ない声が漏れた。

胸の先端にある蕾にも指を這わす。

眠っている慈音の身体がピクッと震えた。

(可愛い人…。)

すっと自分の手を慈音の腹から下のほうへと這わす。

「や、やめろ…誰だ?」

動かない身体。

疲れがピークに達していた慈音の身体は金縛りにあったように指1つ動かせないでいる。

ゆっくりと開く目に映ったのは、夢にまで見た白妙の姿だった。

「…し、白…妙?んっ!」

「そう、白妙よ…帰ってきたの…慈音…身を任せて……。」

巧みに動く八鹿の手に翻弄されていく慈音。

「慈音…愛しい人…。」

夢にまで見た白妙の顔が近付いてきた。

触れ合う唇、絡める舌。

「んっ…んんっ…うっ!」

八鹿の黒い髪に彼の情熱がかかった。

「慈音…。」

パタパタと廊下を歩く音が近付いてきた。

八鹿は慌てて慈音の身体を拭き、寝巻きを着せるとそそくさと部屋を出て行った。

「あれっ、八鹿さん?」

紅蓮が彼女を呼び止める。

「慈音さん、凄く汗を掻いていたので、服は洗濯しておきますわ。」

顔をまともに合わせないまま去って行く八鹿。

「はぁ、そりゃどうも…。」

可燐がじっと彼女を見つめている。

「どしたん?なんや怖いなぁ…その顔。」

「んー、なんか…どっかで…。」

首を傾げるばかりの可燐。

紅蓮は1つため息を吐いて部屋の中へと入って行った。

「慈音、起きて大丈夫なんか?」

慈音は紅潮した顔で2人に視線を送る。

「…し、白妙いなかった?」

酷い顔だった。

一年の疲れを集めたような顔だった。

「いないよ、白妙ちゃんは。」

可燐ははっきりした口調で答え、慈音に寝るように促す。

「…そうか。心配かけてごめん…。」

「何言うてんねん、なぁ、俺らに謝るんやったら、雷紋のくれた薬飲んでくれ。」

力ない笑顔で慈音は頷いた。

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