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神の子  作者: 櫻塚森
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旧知

「さて、何処に行くのかのう?」

頭の中で声がした。白澤である。

彼は、雷紋の両親に言葉をかけることはなくなったが、雷紋にはしつこいくらい声をかけていた。

「うるさいな…人が見たら、独り言の多い変人だと思われる。黙っててくれ。」

白澤は実にお喋りな神獣で、喋りだすと止まらない困った性格をしていた。

「一人旅じゃろ?話し相手になってやろうぞ?」

ため息を吐いた雷紋に白澤は嬉しそうに声を出す。

物心付いた時には、白澤は自分の中にいて、常に話しかけてきた。

忙しい両親が家に不在でも全く淋しいと感じる隙もないほどに、白澤は雷紋に色々な事を教えてくれた。

雷の力の使い方、弓の引き方をはじめ、あらゆる知識をその口調で喋り聞かせた。

いつしか、一方的に喋る白澤と時々返事をする雷紋の姿は、「独り言の多い子供」というレッテルを雷紋に貼る結果となっていた。

白澤は、今までの長き世の中で多くの子供の中に宿ったが、コレほどまでに頭のよい、順応力の高い子供は経験したことがなかった。

いちいち帰ってくる反応、勉学の吸収力、それがとても嬉しく、ついついお喋りになってしまうのだ。

思春期を迎えた今となっては無視されることも多くなり、それがまた楽しくて仕方がなかった。

「とりあえず、都を目指す。お前の言うとおりなら、何か変化が起きているはずだ。」

旅を決意した一週間前、白澤は、神の啓示を聞いたと雷紋に言って来た。

「情報の中心である都で何かが起こっておる。それは、この国のみならず、全世界を飲み込む一大事へと繋がる。」

頭の中で聞こえる白澤の声。

「だったら、神その人がその一大事とやらを解決すればいいだろう?俺を巻き込まないで欲しいよ。」

そう愚痴る雷紋に白澤は軽く笑って答えた。

「まあまあ、そう言うな。神は、万能に見えて、案外不自由な存在でのう、自らこの世に干渉は出来ぬのじゃよ。それ故、自由に動ける足として、我らをこの世に放たれたのじゃ。」

「神の子の中には、俺のように自由に生きてきた者は少ないと聞いてるぞ?」

神の子は、おおむね生まれた屋敷に閉じ込められるのが宿命。

雷紋のように口の達者な神獣と理解のある両親の元に生まれた子でなければ、自由は許されない。

「権力者は、永久の繁栄を望むからのう。」

「白澤ほど、口達者な獣じゃないと相手を言いくるめるのも難しいよな。」

「言いくるめるとは、言葉が悪いのう。良くも悪くもお前の両親は、神の御心をよく理解した良き人であるということよ。人間は知らんのじゃ、神の子を自由にさせることが、その家の繁栄に繋がるということを。」

雷紋は大きな伸びをした。

「だったら、俺は囚われているだろう他の神の子を助けに行く。」

「ほう?」

「その方が、最終的にはいいんだろ?」

白澤の笑い声。

「では、この山を越えるとよいぞ。神の子の気配がする。」

2人旅は始まった。


「はて、どうしたもんかのう…。」

雷紋は、道に迷っていた。

「なんで、白澤が付いてるのに迷子になるんだよ…旅のコトなら任せとけって言ってたよね。」

恨めしい声で言う雷紋。

「化け物のせいで地形が変わっておるのじゃよ。」

ゆっくりと地図を広げて、検討したくても先ほどから5分おきに化け物が襲ってくるのだ。

「とにかく、祠か魔除けの札のある村か、町に入らないと…。切がない。」

と、そこに大きな悲鳴が聞こえてきた。

「人ではないぞ…化け物がやられたのだ。」

白澤が教えてくれた。

雷紋はゆっくりと気配を消すようにその声の方に忍び寄ってみた。

(あれは?)

自分と同じ年くらいの少年が、身の丈ほどある剣を振りながら、向かってくる化け物を切っていた。

ほとんどが一振りで倒していることも凄いが、雷紋は、化け物の爪が彼の顔を掠り、付けていた黒い眼帯が弾けとんだところを見て驚いた。

「(金色の目…。)あれは、神の子じゃぞ。おそらく黄龍…。」

雷紋は白澤の言葉を聞きながら彼の戦いに見とれていた。

「危ない!!」

上空から彼の不意をついて攻撃をしてきた化け物に雷紋は弓を放った。

「残り、5匹!手伝うよ!!」

少年は茂みから出て来た雷紋の白い姿にちょっと驚いたが、すぐに背中合わせになると再び剣を構えた。

「上のを頼む!!」

「了解!!」

2人が力を合わせると敵はあっという間に倒され、大地には多くの金貨が残された。

「君、強いね!!」

額の汗を拭いながら、雷紋は手を差し伸べる。

少年は戸惑いながらその手を取って握手をした。

戸惑っている彼を見て雷紋は苦笑した。

「ごめん、怖い?俺の目。」

彼はそう言うと、長くした前髪を降ろして見えなくした。

少年はゆっくりと飛ばされた眼帯を拾ってため息を吐いた。

「金の目を隠してるんだね。容姿が違うとほんと苦労する…。」

いつになくお喋りな雷紋は緊張していた。

それは彼から感じる気配が紛れもない神の子であることを教えてくれているから。

自分の目のコトを言われた少年は顔を強張らせた。

ソレを察した雷紋ができるだけ人懐っこい笑顔を見せた。

「えーと、警戒しないでよ、俺もちょっと普通と違うんだ。それにコレ。」

雷紋は胸元を開けて、自分の『澤』という文字を見せた。

「それ…。」

少年は自分の胸元を肌蹴て自分の『龍』という文字を見せた。

「やっぱり、龍の…。」

少年は頷いた。

「俺は、龍綺。甲村から逃げてきたんだ。」

苦々しい表情。辛いことがあったのだろう。

雷紋は呼吸を落ち着かせると自己紹介をした。

「俺は、雷紋。白澤っていう神獣を宿してるんだ。」

「白澤?…お前は神の子のことに詳しいのか?俺は、あまり知らないんだ…。」

龍綺は、初めて会った同じ神の子の雷紋に安心したのか自分が暮してきた甲村のことや母のことを話した。

「そう、母君のことは残念だったね…。でも、龍綺、君は母君のためにも生きていかなきゃね。」

「俺は何をすべきなのかな…。神の子として生まれた以上、何かをしなければ、死んでいった母上に対して申し訳ない。」

雷紋は、真剣な眼差しで将来のコトを考えている龍綺の顔をじっと見ながら言った。

「俺と一緒に来る?」

「えっ?」

雷紋は、自分の言葉を彼に正面から向けてみる事にした。

「俺は、君みたいに、過酷な過去がある訳じゃないから、君の気持ちの全部は分からない。けど、同じ神の子として、いや、人として自分の利益の為に人の運命を閉じ込めようとする人は嫌いだ。この国には、君と俺以外の神の子があと、6人存在する。その中にはきっと龍綺みたいに監禁されている神の子もいると思うんだ。俺は…彼らを助けたい。で、一緒にこの国で起こっている一大事とやらに立ち向かっていきたいと考えているんだけど?」

正直な雷紋の言葉に龍綺も自分の気持ちを打ち明けた。

「俺は、とりあえず旅を続けて父を…父に母上の思いを伝えたい。それさえ、できれば後は雷紋と一緒に仲間を探す。……いやなんだ、俺みたいに閉じ込められる人や、それを破るために命をかける人をこれ以上見るのは…。」

青と金の瞳が真っ直ぐ前を見つめていた。

その後2人は、山を降り、麓の宿屋に泊る事にした。

2人連れの子供に宿屋の主人は、彼らを家出か何かと勘違いしたようだったが、雷紋の父、つまり彩町の町長の書いた証書により、彼らが大切な使いで旅をしていると分かり宿泊を許可してくれた。

「雷紋って…賢いっていうか手回しいいな…。俺、野宿だと思ってた。」

雷紋は、ははと軽く笑った。

「あ…。龍綺、俺の神獣が君と話したいんだって。」

「へっ?」

雷紋の頭上からもわっとした半透明の獣が出てきた。

龍綺は見たことのないその姿に一歩下がる。

犬っぽい顔と、鹿と馬の合体したような身体には、いくつもの目のようなものが付いていて、その身体は銀と白に輝いていた。

「ほう、これが龍の子か。」

ジロジロと眺めてくる白澤に龍綺は更に硬直してしまっていた。

目の前の神獣は、ふと龍綺の頭上を見上げた。

「久しいのう、黄龍…なんと、青龍もおるのか…。」

龍綺は自分の頭の上から半透明の小さな龍が姿を見せたことに驚いた。

「神の言葉は聞いておったようじゃのう…。」

白澤の言葉に龍綺の頭上にいる黄金の龍が声を出した。

「この者の母が願かけを始めた日より、神の声は我の耳に届いておった。」

それは、彼が泉の中で聞いた声だった。

「我の望みは、あの檻から出ること…龍綺の母の願いは、この者の自由であった。しかし、あの男は人として最もしてはならぬ封印を施した。やがて、その罪は自らに返るであろう。それでも、母の望みは強かった。」

「はて、黄龍、青龍。そなた達は、色を揃えるかのう。」

雷紋が困った顔の龍綺に言葉を付け足した。

「龍は、この世に8体存在するんだ。それらは、色に例えられ、黄金、青、紫、赤、緑、黒、白そして、銀色。その8体が揃う事で黄龍は本来の力を発揮できるってことになっているんだって。」

「わしが言おうとした言葉を取りおって…。つまり、そなたは、すでに2色の龍を宿しておるから、後は、6色を揃えればよい。」

「ろ、6色って、どうやって集めるんだ?」

「各地に散らばる龍神の祠に行くとよい。場所は、我らが導いて進ぜよう。」

龍と白澤は、暫く話をしたあと『疲れた』といって、姿を消した。



「けっこう勝手なんだな…神獣というのは。言いたいことだけ言って消えた。」

「うん。大体は、でもさ、許してやってよ。…基本的に夜に弱いらしいんだ。でも、夜とか闇に強いのもいて……たしか、夜叉という神獣と、君の色で言えば、黒龍もそうだよ。えっと…あー…白虎もだったかな?」

龍綺は、少し呆れた顔をしたあとふっと笑った。

「雷紋は、白澤を宿すだけあって、物知りだな。」

「まあね、知識の共有ってやつかな。最初はあまりに膨大で…狂うかと思ったけど…君だって、色々共有しているなって思うようになるよ。たとえば、君の戦いだって、基礎はその父君からだろうけど、青龍は、戦いの龍だからね。もっと、君は、強くなるよ。魂の共有者は、似るんだ。…もっとさ、話したいけど…もう、眠たくって…これからのこともあるし、寝よう?」

龍綺は時々子供っぽくなる雷紋に苦笑しながら、返事をし、部屋の灯りを消した。

天井を見つめながら彼は考えていた。

これから、彼らがしなくてはならないことについて。

1、神のお告げに従い、この国の異変を探り、対処する事。

2、まだ見ぬ仲間の救出と合流。

3、6色の龍の眠る祠の捜索と力の合流。

4、龍綺の父・加奈陀を探し出し、母の思いを伝える。

1人だけなら叶わなかった夢も信じられる仲間と一緒なら超えていける。

龍綺は、その金と青の瞳に瞼を重ねた。


つづく


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