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神の子  作者: 櫻塚森
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薬の副作用

「雷紋のイズナが知らせてきた通り、俺はこっちも動く必要があると思う。」

龍綺の言葉。

ただ待っているだけでは、なかなか進まないと悟ったことだった。

「言ってきた地点は?」

「王都との境にある街、静香。」

広げた地図のある街を指差す。

「この街は、王都の情報発信源でもあるからね、色々なことが分かると思うよ。」

慈音がイズナが持ってきた雷紋の薬を皆に見せた。

「髪粉は、雨で流れてしまうから、目の色を変える薬と共にコレを飲んで色を変えたほうがいいって言われたんだけどさ…。」

髪の色を黒に変化させる薬。雷紋の言葉では、副作用があるらしい。

「いいなぁ…白妙と龍綺は黒髪で…。」

イズナの言うことには、雷紋の父は、薬の副作用で3日間寝込んだらしい。

薬を手にため息を吐く慈音。

龍綺は、それを飲まなければならない暁が気がかりであったが、当の本人は、全く気にしていないみたいで、龍綺の持っている薬を飲みたくて仕方ないと言った感じであった。

「わっ、せっつくなってば、」

「それ、あーのでしょ?りゅーの違う!早く頂戴!!」

暁はパッとそれを龍綺からもぎ取ると何のためらいもなく口へと運んだ。

「暁!!」

皆の視線が彼女に注がれた。

「ぐっ!!」

暁が大地に膝を付いた。

龍綺は、彼女を支えようとしたが、眩い光が彼女の身体を包みその手を弾いた。

「暁!」

彼女の身体を包んだ光が消えるのに数分が掛かった。

「暁…。」

光から解かれた暁の姿を見て、一同は息を飲んだ。

「あー、胸なくなった…。」

光から解かれた暁が発した初めての言葉。

少し低くなった声。

髪は黒くなったが、明らかに長さが短くなっていた。

慈音は、そっと龍綺を見た。

おそらくこのメンバーの中で一番衝撃を受けているのは彼だと思ったからだった。

案の定、龍綺は呆然としていた。

「マジかよ…。」

暁はいつものように龍綺に笑顔だった。

「りゅー!あー、りゅーやジオと一緒!!おっとこの子~!」

力瘤を作ってみせる。龍綺はがっくりと頭を垂れた。

「…性別が変わるのは、イヤだなぁ…。」

「ジオ、女の子になる?」

暁は、嬉しそうだ。

「暁、はしゃぎすぎ…。」

龍綺に窘められる。彼は幾分性別の変わってしまった暁に順応したようだった。

「と、兎に角…髪の色を変えないといけないらしいから…。」

「早く飲むんだな。」

あっさりという白妙に慈音はがっくりなりながら、薬を飲んだ。

皆の注目が集まる。

「うっ!」

彼は頭を押さえて苦しみだした。

「どうした!慈音!!」

「あ、頭が痛っ!」

膝を付く慈音。飲めと言った手前、白妙は彼の苦しみように戸惑っていた。

「……大丈夫…なんか落ち着い…。」

慈音の動きが止まる。

「どうした?大丈夫か?」

慈音の銀色の髪は黒色に変わっていたが、暁のように性別が変わったという訳ではないようだった。しかし、彼は、頭を両手で押さえたまま立ち上がり、黙っている。

「大丈夫か…。」

「く、黒髪になったからって…コレは、駄目なんじゃないだろうか…。」

そっと離した手の下には、ちょこんと縞模様の耳が生えていた。

龍綺はプッと噴出し、暁は、その耳を弄りに来た。

「や、止めろって、龍綺、暁止めて!」

笑いながら、彼は、暁を止めた。慈音はチラッと白妙を見る。

彼女は、じーっと慈音を見ていた。

「白妙?」

彼女の顔を覗き込む。彼女はずっと慈音の生えてきた耳を見つめている。

「可愛い!慈音!可愛いぞ!!」

何時になく嬉しそうな声に慈音も、龍綺も唖然とする。

暁は、白妙と一緒に可愛いを連発していた。

「しっぽー!」

暁がぎゅうっと慈音の服を突き破って出て来ていた尾を引っ張った。

「ぐわっ!」

慈音は眩暈を起こすような感覚に膝を付く。

「あー、止め。」

ぱっと手を離す。

白妙は慈音を覗き込んだ。

「だ、大丈夫か?」

「う…うん。なんか眼が回った。」

「と、とにかく、今日は休んで明日の早朝に出よう。」

具合の悪そうな慈音を見て龍綺が言った。



「冷たい水持って来たぞ。」

夜まだ本調子になっていなかった慈音に白妙は水を運んできた。

「ん…ありがと…。」

心配そうな顔をする白妙。

「大丈夫だよ。暁にかなりキツク握られたせいだと思うから。」

「触っていいか?」

「へっ?」

白妙の瞳がキラキラしている。

見たことのない表情に慈音はフッと笑った。

「いいけど、大事に扱ってね。」

そっと白妙が尾に触れる。

「んっ…。」

「痛い?」

すっと撫でる。

「ちがっ…んっ…。(変な声が出る…。)な、なんか…あっ。」

「ど、どうした?」

慈音は起き上がって、御辞儀をする姿勢を取った。

「だ、大丈夫か?」

「…ご、ごめん。ちょ、ちょっと用をたしてくる。」

人間の耳を真っ赤にしたまま慈音はその場を去った。


次の日、慈音の敏感な尾は消えていて彼を安心させた。

「どうなるかと思った。」

「耳は消えないんだな。」

頭を布で覆う。光の下でみた慈音の瞳は黒いものに変わっていた。

「瞳の色が違うというのは不思議な感じだ。」

と互いの眼を見て御子たちは軽く笑った。


一方、小さな白虎の祠に結界を張り、今後のことを考えていた雷紋は、紅蓮と可燐、そして月凪に髪の色を変える薬の必要性について話をしていた。

「でも、その薬って副作用があるんでしょ?」

可燐が拒否しますって顔で言った。

「個人差があるけどね。」

「雷紋のおとんは、3日寝込んだんやろ?大丈夫か?」

雷紋は、自分の言ったことを紅蓮が覚えていたということにちょっと感心したようだった。

「…あ、あれはさ、黒髪の人が飲んだからそういうことになったからだと思ってるんだけど?」

「ほんまか?」

じっと見つめる紅蓮、可燐、月凪の視線。

「人体実験をそれほどしてないからねぇ…白澤の言う通り材料集めてさ、ま、その材料は言えないけど。」

3人の表情が曇る。

「大丈夫、死んだりしないって、目の色の薬くらいの気分の悪さがちょっと起こるくらいなんじゃないかなぁ…。」

「材料言えないって、飲む私達にはとっても怖いんだけど?」

顔を引きつった可燐。

「じゃあ、どうする?今からこの珠国は雨季に入るんだよ?傘持ってとか、雨合羽着て、化け物と戦うの?髪粉の色が落ちて手配中の子供だって誰かに密告されたら?龍綺たちと合流する前に御用だ。となると、捕まったと考えられる母さん達を助けることもできない。」

しんとなる言葉。

「分かったわよ!!飲めばいいんでしょ!!」

「そ、飲めばいいの。」

笑顔の雷紋が憎らしいとさえ、皆は思った。

紅蓮と可燐が勢いよく薬を飲む。傍で雷紋は月凪に声をかけた。

「月凪は、薬に弱いみたいだから、ちょっと心配なんだけど…飲める?」

目の色を変化させる薬は、紅蓮や可燐には大した気分不良も与えなかったが、月凪はそれに慣れるに2日は掛かっていた。

覗き込まれた雷紋の顔。

「大丈夫!」

怖いと思っていることを悟られないよう月凪は笑顔で薬を飲んだ。

と、後ろから叫び声がした。

「「なんじゃこりゃ!」」

振り返った雷紋が見たものは…。


「そうきたか…。」

雷紋の呟きに、声が飛ぶ。

「そうきたかじゃねーだろ!どーすんねん!」

雷紋の視線が下のほうへと移る。彼はしゃがみ込み、声の主と目線を合わせた。

紅蓮は、薬の副作用として、5歳くらいの身体になっていたのだ。

「そうよ、そうよ!自分は、ひょっと髪が伸びただけだから、いいかもしんないけろさ!」

紅潮した顔と呂律の回らない口調になっているのは可燐。

「ろーして、こんらに、目が回る~?」

どうやら、酒を飲んだような状態らしい。千鳥足だ。

さっきから、感情のコントロールが上手くいかないらしく泣いたり、笑ったりと忙しい。

「めっちゃ、うっとーしーで、コレ。」

「うっとーしーなんて、ひろい!!ひろいよ~くれん…ひっく!」

「最悪一週間。一週間くらい経ったら、薬の副作用は消える。そのあとは、白澤が用意した『神媚丸』の作用で、神の子の力を使うときだけ元の髪の色に戻るはずだから…って、月凪?大丈夫?」

振り返ると彼女は祠の後ろに身体を隠して出てこない。

「諦めて出てこんかい!」

イライラしているのは紅蓮。

「だってぇ~恥ずかしいよ~。」

消え入りそうな声。

「そんなころないよ、月凪とっても綺麗だから、出ておいで?」

優しい雷紋の言葉に月凪はゆっくりと立ち上がり、祠の影から出てきた。

雷紋の肩までしかなかった身長がすっかり伸びて、視線は雷紋の少し下。

豊かな黒髪が包む身体はすっかり大人の女性だった。

「20歳くらいかな?」

うるっと視線が緩む月凪。

成長した身体に服か耐え切れず、肩とか脇とかは裂けており、月凪は小さくなった紅蓮の服を羽織ることになった。

「いつまで、泣いてるの?気にしなくていいのに…。可燐みたく酔っ払ってる訳でも、イズナが教えてくれた慈音みたいに耳が生えた訳でもないでしょ、」

よしよしと頭を撫でている雷紋。

紅蓮は、突然走り出したり、笑い出したりする可燐に手を焼いている。

「じゃ、見てない?」

やっと喋った月凪の言葉は理解不能だった。

「えっ?」

しかし、雷紋には心当たりがあるようで内心ドキッとした。

「服破けた時に、見えてない?」

月凪が言っていること。

もともと胸の部分をくり貫いたようなデザインの服だった。

それが、突然大きくなった月凪の身体に順応できず、中心から物凄い勢いではじけたのだ。

「(しっかり、見えたけど、内緒にしといた方がいいか。)何を?」

「…胸…。」

「えっ?何?聞こえないよ?」

少し意地悪をしてみたくなった雷紋であった。しかし、そのお楽しみも…。

「あのさぁ…お取り込みのところ申し訳ないんやけど…。」

疲れきった表情の紅蓮に中断されることになった。

「あの酔っ払いどないかして…俺じゃ、運ばれへん。」

可燐は電池が切れたように寝始めたようだった。

自分しか運ぶ者がいないという現実に雷紋は眩暈を覚えた。


つづく

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