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神の子  作者: 櫻塚森
43/94

赤と白と黒と緑

「ヤだなぁ…どっちが今、優位に立ってるか分かって言ってんの?」

化け物の顔が人からそれらしい容貌に変わっていく。

「ねえ、どっちがいいか選んでよ。」

「…?なんだ…。」

「ココで俺達を逃がして、命を存えるか。俺達を逃がしたことで、その御館様、もしくは、黒尽くめの女に殺されるか。」

化け物は、身体を硬直させた。

「そう、どっちみち、君達には、死しか待っていないんだ。」

握られた雷紋の手が汗ばんでいたのを月凪は感じた。

「大人しく、鏡の世界で暮していればよかったのに、人の味を覚えて、本物の化け物に成り下がるとはね、あまたの人の命を奪った罪は、懇願されたところで許されるはずはない。」

フルフルと震えだす化け物は、お互いに身を寄せ合っているようだった。

「雷紋くん…。」

「…月凪?ココから出よう。」

「えっ?出られるの?」

優しい笑顔。

「君さえ、力を貸してくれればね。」

月凪は急に笑顔をしぼませた。

「…駄目だよ…最近、あんまり上手く小鳥さんの力が出てこないんだ。」

雷紋が少し呆れたような顔をした。

「俺が怪我した時、必死で力出してくれたでしょ?」

「でも、あの時は…。」

雷紋が不意に月凪の耳元で小さく語った。

「真名の話なんか、うそっぱちなんだから、ヤツラが騙せれているうちに出よ?」

ウィンクをしてくる雷紋に今度は月凪が呆れた顔を見せた。

「元いた場所、行くよ?」

「えっ!」

雷紋と自分の身体が光り始めた。

月凪は焦って上手く集中できない。

「大丈夫。2人なら、なんとかなるって。」

月凪の変な緊張感が取れて、2人は暗闇の洞窟から明るいところに出た。


「わっ、凄いや。ホントに帰ってこれたよ。」

雷紋の声で彼女は目を開けた。

そこは、もといた屋敷の御手洗いの鏡の前だった。

「んっ?」

雷紋の言葉に疑問を持っていた月凪であったが、激しく鏡の割れる音に我に返った。

自分には、何か服が頭から掛けられている。

「な、何!!」

月凪は、咄嗟に身体を丸くした。

バリバリと鏡を踏む音。

「終わったよ?」

雷紋の声のした方を見る。

そこには、いつもの優しい笑顔の彼がいた。

よくみると、彼は、上半身は肌着姿で、頬に傷を作っていた。

「雷紋くん!」

「さ、後始末しに行くよ。」

雷紋は月凪の手を引いて手洗い場を出た。

その場には、町長の息子がいて呆然としていた。

雷紋は、化け物の正体、鏡が侵入口であることなどを話して、もう、大丈夫だろうと話した。

「ちょっと、聞いていいか?」

町長の息子に雷紋が尋ねた。

息子は、口に入れた食べ物を噎せかけたが、大きく頷いた。

「呪術師の女が、月凪を生贄にしろって言ってきた時には、なんかおかしいって思ったんじゃないの?」

夕餉の席で雷紋は尋ねた。

「…あぁ、命かからがら逃げれたヤツらは、美しい女に誘われたって言ってたからさ、なんで、生贄が女の子なんだ?って。」

「あの鏡の敵は、女型が淫魔。男型が夢魔ってトコかな。2人とも誘うことが仕事だけど、淫魔は、人間の性を奪い、夢魔は、夢を奪う。あの2人の感じからすると、力関係は、淫魔の方が強そうだからね…。この町で起こった出来事はほとんど、淫魔であるあの女が仕掛けたことなんじゃないかな。」

「化け物に性別ってあるのか?」

「基本的にないけど、あの淫魔は、男の精気を奪うことが好きなんでしょ。月凪とは思えないくらいのアプローチだったからね。夢魔に狙われるのは、」

雷紋はちらっと月凪を見る。

「夢見がちな女の子が多いし?」

月凪は、にたっと笑う雷紋が自分をからかっているのだと理解して、ぷんっと拗ねた。

その状況を見ていた町長の息子が、

「なぁ…あんたらって何者?なんで、まだ若いのに、化け物の闊歩するこんな国を旅してるんだ?見た目は普通のガキなのに、なんでお前、雷紋はそんなに物事を知っているんだ?」

何かを言いかけた月凪の脇を雷紋が肘鉄した。

(酷い~女の子なのにィ!)

神獣を通して、雷紋に言葉を伝える。

(余計なこと言いそうだったでしょ?)

「それは、聞かないでほしいんだけど?駄目ですか?」

息子は、手先がピリピリし始めた。

「あ、あ…いいや、駄目じゃないです。」

「大切なお遣いを頼まれているんです。ある意味、子供の方が動きやすいってこともあるんですよね。」

にっこりと笑う顔にその場にいる男達が頬を染める。

雷紋の顔が引きつる。

「!」

月凪が何かを感じて、窓の方を見た。

「どうしたの?月凪…。」

「ううん、何でもないの。(紅蓮兄さんの気配を感じるの。)」

雷紋は立ち上がる。

「どうしたんだ?」

「月凪が少し、外の空気を吸いたいみたいなんだ。」

促して月凪を立たせる。

「行こう、紅蓮もきっと君を捜している。」

キマイラとの戦いから、一ヶ月は経っている。

毎日のように顔を合わせ、自分を励ましてくれていた紅蓮との別離は月凪にとって大きなストレスとなっている。

雷紋は、彼女が上手く力を使えない理由がそこにあるのではないかと思っていた。



屋敷の表に出た雷紋と月凪は、大通りの人ごみをかき分けてやってきた紅蓮を見つけた。

月凪は思わず駆け出していた。

雷紋がイズナに渡した髪粉と薬のせいで黒髪に黒目の姿であるがその瞳の輝きは、紅蓮以外誰の者ではなかった。

「紅蓮…、」

その後に続くであろう兄さんという言葉は感極まって出てこない。

紅蓮は彼女の声に気付いて彼女を見つけた。満面の笑顔が雷紋にも分かった。

「月凪!」

2人は抱きしめあっていた。

「心配したんやで、ホンマに…。」

「ごめんなさい…雷紋くんが、雷紋くんがね…。」

涙で声にならない月凪。

その後ろにいた雷紋が優しい笑顔で近付いてきた。

「無事でよかったよ。」

手を出す雷紋の手に音を立てて紅蓮は握手をしてきた。

「それは、俺の台詞やろ?」

2人は、別れるまでのギクシャクしていた空気など何処行く風と言う感じで笑い合っていた。

「…そちらが、麒麟の?」

3人の様子と呆然と見ていた少女は、自分に皆の意識が向いていることに照れてしまった。

「は、はじめまして…。可燐です。」

月凪や雷紋が人懐っこい笑顔で迎えてくれたので、可燐はほっと胸を撫で下ろした。

「兎に角、中に入って。今日一日はゆっくり休んで、明日には、出発しよう。」

雷紋の台詞に驚いたのは可燐だった。

「そんな!来たばかりなのに。」

箱入り娘で育った彼女は、この町まで来るのにもかなりの無理をしてきた。

「…悪いね…でも敵が動き出したみたいなんだ。早いとこ皆と合流しないと大変なことになる。」

「で、でも、社もないこんな町で。このマメだらけになった足がよくなるとは思えないわ!今日だって眠れるかどうか分かんない!」

「じゃあ、何時だったらいいの?」

先程のような優しさの感じられない表情をみせる雷紋。

可燐は、カッと怒りで顔を赤くした。

「分かんないわよ!!」

どういうわけか彼女は月凪を引っ張っていく。

月凪は、雷紋と紅蓮に任せといて!という顔を見せて、彼女に従い去って行った。

「なんか…あまり分かってない?」

紅蓮の方を見て雷紋が尋ねた。

「んっ?あぁ…まぁ、可燐も色々あったからなぁ…。」

紅蓮は、可燐から聞いたこと、朱雀の社で聞いたことを雷紋に語った。


「責任を感じてるのか…。」

ココは、屋敷内の大浴場。

今は、紅蓮と雷紋の2人だけ。

というか、そうするように町長の息子に頼んだのだ。

「まぁ、敵が見せた幻覚とはいえ、母親の死ぬとこ見てしもうたらな…。あれでも、かなり我慢しとるんや。毎晩魘されとるし、敵は襲ってくるし、人通りの剣術は心得てるみたいやけど、幻術系の化け物には、簡単に騙されそうになる。この町に来て、やっと一息できるって思てたんとちゃうかな。」

湯を掬い顔にかける。

湯に浸かる前に、髪粉で黒色を落とし、彼の髪はすっかり赤い色に戻っていた。

「なんで、お前の髪は、黒のままなんや?」

「これ?これは、髪粉じゃなくて、薬物投与によるものなんだ。」

「えっ、そっちの方がめんどくさーないやんか。」

雷紋は苦笑する。

「ま、ね…でもコレは副作用があるんだ。」

「副作用って、大丈夫なんか?」

「俺の場合は、髪が伸びるって程度だからね。でも、これを試しに飲んだ父さんは3日3晩苦しんだ。」

紅蓮が呆れた顔をしてる。

「そ、その薬って誰が作っとるんや?」

「ま…まぁ趣味かな。ついでに、指導者は、白澤。」

雷紋の頭の上に出てきた白澤がニッと笑った。

「すべては、雷紋の将来を考えてのことよ。」

白澤の話は止まらなかった。



「月凪は、よく、あの冷徹な子と一緒に旅してたね。」

風呂から上がり、髪粉でお互いの髪を黒く染めた少女2人は、1つの部屋を宛がわれた。

「雷紋くんは、冷たい人じゃないよ。いつでも皆のことを考えてる。」

可燐はふんっと鼻を鳴らす。

「でもさ、自分の親を助けたいから早く行きたいんじゃないの。世界がどうのとかより。」

月凪が本心で言ってるの?というような非難の目を向けた。

「だって、雷紋くんの家は、きちんとしてて、彼は自由に動ける立場で、今だって生きてるんでしょ!私は、皆殺されてしまったんだよ、紅蓮しか頼れる人がいなかったから、一緒に旅に出ようって思ったのよ、それをどうして今日あったばかりのヤツなんかに従わなきゃいけないのよ!」

可燐は言いたいことを言った。

月凪はグッと感情を抑えたように言った。

「でもね、雷紋くんは、今まで一度だって、自分の家族の自慢をひけらかすことはしなかったよ。両親のことを聞いたこともない。それが、何故だかわかる?私も父さんを目の前で化け物に殺されてるし、龍の御子である龍綺くんは、お母さんを目の前で亡くしてるわ。夜叉の御子である白妙にいたっては、両親に捨てられた過去を持ってるの。そんな御子のことを知っているから、雷紋くんは、あえて自分の両親のコトを語らないの。今回のコトだって、自分の両親のコトだけじゃないわ。慈音くんのお母さんだって危険な状態になってるんだよ。」

可燐は月凪の真剣な瞳を見ていた。

「雷紋くんは、頭はいいけど、戦う方は苦手だって言ってた。どう考えても足手まといにしかならない私をいつも守ってくれたし、励ましてくれた。私は、雷紋くんだから、彼が考えていることに従ってきた。だから、可燐ちゃんが雷紋くんを否定するなら、私は、可燐ちゃんとは一緒にいられない。」

「月凪…。」

「白妙ちゃんは、優しいけどあんまり喋ったりしてくれないから、可燐ちゃんが初めてのお友達になるんだって楽しみにしてたんだけど…。」

可燐にとっても月凪ははじめての同性の友達になる存在だと思っていた。

だから、月凪の言葉はとても心に突き刺さっていた。

「そ、そんなこと言わないでよ…分かったから。…我慢するよ。」

渋々といった表情の可燐。

月凪は一応ホッと胸を撫で下ろした。

「じゃあ、寝ようか。明日は早いし、可燐ちゃんも疲れたでしょ?」

「…くたくた。紅蓮ってば、めっちゃくちゃ足が速いんだもん、お風呂に入って足を解せてなかったら最悪だったよ。」

普段は明るい可愛い少女なんだろうと月凪は思った。

(よかった…とりあえず引きとめ成功。後は、可燐ちゃんに雷紋くんのよさを分かってもらわなきゃ!)

1人張り切る月凪であったが、心のどこかが痛んでいたことに気付いてなかった。



つづく

だんだん、副題に困ってきた。

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