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神の子  作者: 櫻塚森
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合流を目指す

「大丈夫か!慈音…。」

玄武の岩牢の中、慈音は急な眩暈に襲われた。

駆け寄る白妙に背中を支えられる。

「母さんに何かあった…。」

「えっ?繻子蘭母さんに?」

白妙の瞳にも不安が広がる。

「行かなくちゃ…。」

龍綺が慈音の腕を捕まえる。

「待て。…落ち着けよ!!」

慈音の動揺した姿を皆はじめて見た。

「けど!」

「慈音、落ち着くんだ。」

彼の行動を止める白妙を慈音は払いのけた。

その力が何時になく強く、白妙は後方に尻餅を付く。

「あっ…。」

彼女の姿を見て慈音は我に返った。

「ご、ごめん…大丈夫?」

手を差し伸べて白妙を起こす。

白妙は泣きそうな顔をしていた。

「ごめん…大丈夫?」

白妙はふんっとそっぽを向いた。

「繻子蘭母さんのことなら、私だって心配だ。ひ、1人で突っ走ろうとするな。」

慈音は、そっと彼女の頬に手を当てて、自分の方に顔を向けた。

「うん、ごめんね。焦ってもヤツラの罠に嵌るだけだよね…。」

「敵は、恐らくだが、俺達神の子の親に何かを仕掛けるつもりなんだ。暁の御両親はもう亡くなってるし、俺も母上はいない。父上は、あの師匠だから、簡単に捕まるとは思わないし…。」

「あー、1人なの。家族いないの!」

なんだか楽しそうに言う暁。

親と言う存在を知らないのだ。

龍綺は、彼女の頭を撫でた。

「しーの親は?」

小首を傾げて白妙に尋ねる。

その真っ直ぐな瞳に白妙はタジタジだった。

「私の親は…たぶん生きているだろうが、私に対しては、愛なんて感じてないだろう。」

少し淋しそうな白妙の肩をちょんちょんと突き、笑顔を送る。

「な、何だ?」

「白妙の母さんは、俺の母さんなんだからね。」

照れた顔を見せる白妙。

その様子を見ていた暁が龍綺を覗き込む。

「りゅーのおかーさんは?」

「えっ?」

「りゅーに、おかーさんいないの?」

龍綺は返答に困ってしまう。

「りゅーは、お父さんがいるんだよ、な、龍綺。」

慈音の言葉。

それは、まだ自分のコトを知らない父・加奈陀のことを差している。

「おとーさん?それ、いいの?嬉しーコト?」

暁は龍綺に父親がいると聞き嬉しそうだった。

「でも、お父さんって何?」

やはり、彼女は分かっていなかった。

「兎に角、雷紋達が大急ぎでこちらに向かっているらしい。ある程度のところまできたら、空間移動をしてくるだろう。」

「待つしかないな…。」

暁以外の3人はため息を吐いた。


「どこに向かっているの?」

桃色の髪を黒の髪粉で染めた月凪が尋ねた。

随分とハイペースで山道を下っている。

「紅蓮たちと合流するために、美也町に向かってる。」

雷紋の張り詰めた気がピリピリと後ろを行く月凪にも伝わってくる。

「だ、大丈夫?」

彼のこんなにも余裕のない顔を見たのは初めてだった月凪。

「何が…?」

雷紋の中には、紅蓮や仲間との合流、敵との遭遇の際に月凪を守れるか、そして、消えたと思われる両親のこと。

色々考えを巡らせなければならないことがあった。

そのために余裕がなくなっていた。

月凪は、できるだけその緊張感を和ませようと話しかけるのだが、あっという間に会話は途切れてしまうのだ。

「何でもないです…。」

しゅんとなってしまう月凪に声が掛かる。

「月凪。」

先に行く雷紋が手を伸ばす。

「何?」

嬉しくなってその手を取る。

「山道に出る。人通りも出てきたからね。」

月凪はまたしゅんとなっていた。

雷紋は、その容姿を利用して盲目の少年を演じている。

そのため、人通りが多くなったり、村や町に入ると月凪を杖代わりにしているのだ。

敵の正体がハッキリしない以上、信じられる人間は少ない。

その様子を雷紋は鋭い感覚で探っているのだった。

「美也町で紅蓮と落ち合う予定なんだ。」

それは、イズナを使って取り合った連絡。

月凪には断片しか伝わっていなかったことだ。

「大丈夫、紅蓮にもうすぐ逢えるよ。」

少しだけ見せた雷紋の笑顔。

それだけで気持ちが上昇する自分に月凪は気付いていた。

町や村に近付くにつれ、その道中には、化け物を遠ざけるための道祖神が置かれている。

人々の旅の安全を守る神として、白澤を祀ってある場合が多い。

しかし、白澤という名よりも道祖神としての名が通っているため、白澤は少々淋しい思いをしているのであった。

「ここまで来ると化け物は大丈夫だろ…月凪?」

「ん?何?」

「この町はあんまり治安がよくないらしいから、俺から離れないようにして。」

「う、うん。」

「ただでさえ、俺達は子供な旅人なんだから。」

あまり人との関わりをしてこなかった月凪にとって、2番目の町である。

先日まで泊っていた村は、のんびりしていて月凪も安心していられた。

飛蝶街は、賭博の街であったが、治安はしっかりしていた。

いつも鳥かご越しに街の様子を見ていた月凪にもそのことは分かっていた。

街まであと僅かと言う距離で雷紋が急に立ち止まった。

後ろに引っ張られるように立ち止まった月凪が彼を見る。

「どうしたの?」

「やっぱり…うん、そうしよう。」

雷紋は1人納得をして、彼女から離れた。

「何?」

「俺も、薬使って目の色と髪の色変える。」

そう言って、道祖神の方へと歩み寄る。

「ちょっと、この下の沢に行って来るから、月凪は、この道祖神の傍を離れないように。」

そう行って彼は、崖を降りて行った。

理由を聞かずにいた月凪はただ呆然とその場で立ち尽くした。

(小鳥さん…、雷紋ってば、何考えてるの?)

小鳥さんとは、月凪に宿る神獣・迦陵頻迦のことである。

(…白澤ほどの心を宿す人間の考えなど分からない…。それに、あの雷紋という人間は相当頭が回るみたいね。)

道祖神の横にある丁度いい大きさの石に腰を掛け、月凪は両膝に肘を付き、頬を両手で支えた。

出るのは、大きなため息。

「お嬢ちゃん、可愛いね、どうしたの?そんなトコに座ってさ。」

声が掛かり見上げるとそこには、3人の青年がいた。

月凪を随分年下に見ているようだった。

「…。」

自分より少し年上であろう男性に声を掛けられるのが初めての月凪は彼らがとても怖く感じた。

「あれれ?口が利けないのかな?」

1人の男が月凪の腕を掴み立ち上がらせる。

その力が強く、月凪は男の腕の中にスッポリ入ってしまった。

「きゃっ!」

「ひょほほっ!軽っ!」

ぎゅっと抱きしめられ、月凪は頭の中が真っ白になった。

「おいおい、子供相手だぜ?」

「へへっ、いいんだよ、身体はほぼ大人、穴さえありゃあな…。」

男の言っている意味など分かっていなかった月凪であったが、内なる獣である迦陵が危険を知らせてきたため、身体が恐怖で震えた。

「やっ!」

抵抗するが、その力はいとも簡単に阻まれる。

「はははっ、そんなことしちゃうとお兄ちゃん、どうしよっかなぁ…。」

ひょいっと身体が持ち上がる。

月凪は、荷物のように男の身体に担がれた。

「何してんの?お兄さん達。」

彼らに声が掛かった。

振り返るとそこには、肩を越す黒髪に、黒い瞳の美人。

「おおっ!こいつはまた、綺麗なオネエサン!」

「えっ?でも声が低いような…。」

その人は、スッと寄ってきて、男達に、にっこりと微笑んだ。

男達の頬が染まる。

「あーんして?」

言われるがまま口を開ける男達。

「!!」

ごっくんっ。

男達は何かを飲み込んだ。

「あぁーあ…飲んじゃった。」

その人の冷ややかな笑いに、1人の男が胸倉を掴んできた。

「このあまぁ!何しやがる!!」

「何って?それはこちらの台詞だってーの。数少ない道祖神の前で何してくれてんのかなぁ。」

胸倉を掴む手が微かにしびれ始める。

「な、なんだ…。」

胸倉を掴んでいた手を払いのけ、月凪を担いでいる男の方を向く。

「お、お前…何飲ませた?」

月凪の腰を抱いていた手が痺れで外れていく。

彼女の身体はするっと降りてきて、それを支える。

「大丈夫?月凪…。」

少し濡れた髪、色は違うが、その声も視線も雷紋だった。

「…。」

「ごめんね、遅くなって。怖かったね…。」

頭を撫でる手も雷紋だった。

月凪は言葉にならない。

「ま、待ちやがれ…。」

「さ、行こうか…。」

男達が膝を付く。

「おやおや、足に来ました?」

雷紋は振り返り、男達の方に歩み寄るとその視線に合わせた。

「さっき飲んだのは、さる呪術師から貰った呪い丸です。もうすぐ楽になりますからね。」

「!!死、死にたくねーよ!」

男の1人が震える声で言った。

「頼む、許してくれ…ほんの冗談だったんだ…。」

その様子に雷紋は満足そうだ。

「なっ、姉ちゃん……?」

雷紋の笑顔が引きつっていた。

「俺、男なんだけど?」

心底驚いたという顔。

と同時になお一層苦しむ男達。

「ぐわぁ~!!」

「呪い丸ってね、飲ませた人の思い通りに呪えるんだよ?」

男達が手を合わせる。

「仕方ないなぁ…。お兄さん達、美也街の人?」

頷く。声は出せないらしい。

「じゃあさ、俺達の宿とか、用意してよ。勿論タダで。」

びっくりしたような顔。

「イヤだとは、言わないよね?呪い丸って、人くらい殺せるんだよ?」

にっこり、それこそ氷の微笑みだった。

それに頬を赤らめる男達。

「(怒!)何、赤くなってんのかなぁ、お兄さん達…言うこと聞くの?ヤなの?」

「き、聞きますぅ~!」

男達の身体が急に楽になった。

ほっとため息を吐く男達。

彼らは自由になった途端雷紋に掛かってくるのかと月凪は思っていたが、マジマジと雷紋と月凪を見比べた。

「何?」

「いやぁ~、どっちもべっぴんさんだと思ってさ。」

「また、呪われたい?」

苦笑して首を振る男達。

「さ、こっちへ。美也村はすぐそこですぜ。」

月凪はまだ震えている。

「済まなかったな…。」

男達の中のリーダー格の青年が言った。

しかし、月凪は、雷紋の後ろに隠れてしまった。。

「もしかしないでも、月凪を襲った理由があるのかな?」

雷紋は、きゅっと彼女の手を握っていて、できるだけ月凪が安心できるようにしてくれていた。

男達は、その言葉に顔を見合わせる。

そして、ため息。

「お前さんは、勘がいいっちゅーか、すげぇな…。」

男達の言葉に月凪はやっと安心して顔を覗かせた。

「何か、あるんですか?」

「あ、ばかっ!」

雷紋の言葉とほぼ同時に、

「えっ!知恵を貸してくれるのか!!」

という男達の言葉。

雷紋は額を押さえて、ため息を吐いた。

(な、何?いけないこと言ったの?)

雷紋は、キュッと月凪の手をきつく握ると男達に言った。

「とりあえず、話は聞いてもいいけど、決めるのはあくまでも俺達で、先に美也村で休んでからだから。」

「つれないっすね…あたたたっ。」

きりきりと男達の胃が痛み出す。

「言ったでしょ?主導権はこちらにあるんだよ。さ、案内してよ、お兄さん達。」

ちらっと雷紋の横顔を見る。

黒髪と黒い瞳になると少し大人っぽく見えるのに、女の子みたいに綺麗だと思った。

「何、見てんの?」

少し頬を赤くした雷紋が月凪を見ずに言った。

「えっ、あおうっ!…ご、ごめんなさい…。」

月凪は雷紋が頬を赤らめたことなど気付かずに謝っていた。

少し上から聞こえる雷紋のため息に月凪は、心がしゅんとしぼんだ。


つづく

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