第7章 人気女優としての拡大と精神的疲弊
加藤綾の名前が、少しずつ世間に浸透し始めた。小さな舞台や雑誌から、テレビドラマや映画への出演依頼が舞い込む。ファンレターの数も増え、街で声をかけられることもあった。だが、その光景は、私にとって安堵ではなく、重圧の始まりを告げる鐘だった。
成功を手に入れるために、私はすべてを犠牲にしてきた。体を売り、痛みを麻痺させ、裏切りや孤独を力に変え、整形を繰り返して外見を作り込んだ。だが、光の中で微笑む顔の裏には、常に疲弊と虚無が潜んでいた。鏡に映る自分の目には、痛みと計算しか映らない。笑顔も、歓声も、虚飾に過ぎなかった。
事務所の要求は苛烈だった。「もっと魅力的に。もっと体を使って、権力者やスポンサーの機嫌を取れ」と。枕営業は日常の一部となり、政治家やスポンサー、時には暴力団関係者との接触も避けられない。体を武器にし、情報を駆使して道を切り開く。だがそのたび、心の芯は削られ、精神のバランスは崩れかける。
整形も繰り返した。鼻、目、頬骨、唇――変化は少しずつだったが、鏡に映る自分は別人になり、同時に自分であることを忘れかけていた。体を変え、化粧で作り込むほどに、過去の自分との距離が広がり、孤独は深まる。夜ベッドに横たわり、体の痛みや注射の痕を数えながら、私は思う。「生きるために犠牲にしたものは何だったのか」と。
それでも仕事は増え、人気は拡大した。街での声援、撮影現場での視線、雑誌での露出──すべては虚像であり、私の精神の空洞を埋めるものではない。むしろ、虚像を作るたびに、心はより空虚になった。孤独は深く、痛みは鋭く、だが道は拓かれる。生きるための戦略は、さらに残酷さを増していた。
友人や仲間もまた、利益や嫉妬のために私を裏切ることを覚えた。笑顔で話す同僚の裏に潜む冷たい視線は、昼も夜も私を追い詰めた。信頼できるのは、自分の体と計算だけ。人間関係はすべて道具であり、感情はリスクでしかない。
夜、ホテルの一室で一人鏡を見つめる。整形後の顔は完璧かもしれない。しかし、その瞳には疲弊と怒り、孤独と虚無しか映っていない。体を武器に、権力を利用して、私は成功を掴んだ。だがその代償は、精神の深い裂け目だった。喜びと苦痛は表裏一体、光の裏に潜む影は、まだ深く広がっていることを、私は薄々感じていた。
東京という街は、光と影が混ざり合う戦場だった。成功の歓声の裏で、私の心は静かに壊れ始めていた。だが、それでも私は前に進むしかなかった。孤独を力に変え、痛みを戦略に変えるしか、生き抜く術はなかったのだから。




