第6章 女優としてのデビューと成功の兆し
初めてのオーディションは、想像以上に過酷だった。華やかな照明の下で笑顔を作る女優志望たちの中で、私は違和感を覚えた。表面だけの美しさは、私にとっては武器にならない。生きるために磨いた計算力と、痛みを制御する精神力。それが、この東京での唯一の武器だった。
デビュー作は小さな役だったが、それでも私にとっては大きな一歩だった。カメラの前で演技をすると、体に刻まれた痛みや羞恥心が瞬間的に消える感覚があった。体を売って得た経験も、恐怖を乗り越えた記憶も、すべて演技の糧となった。役を演じることは、痛みを昇華させる行為だった。
しかし、成功の兆しは同時に重圧も運んできた。事務所のマネージャーからは「もっと印象的に、もっと感情を出せ」と要求され、枕営業の誘いも増えた。政治家やスポンサーとの接触も避けられない。体を武器にすることで金やコネを得るが、精神は少しずつ擦り減っていった。痛みを感じなくなる訓練を重ねるたび、心は無色透明に近づく。
それでも、成功は甘美だった。初めて名前が雑誌に載ったとき、ネットで少しずつ注目を集めたとき、体と心を犠牲にして得た力が形となったことを実感した。孤独な夜の街で生き延びた自分が、今、光の中で笑っている。それは、恐怖と羞恥を乗り越えた者だけが味わえる勝利の感覚だった。
裏切りも増えた。友人や同僚、かつて助けてくれたと思った人間が、利益や嫉妬で私を蹴落とそうとする。夜、ベッドに横たわりながら思う。信じられるのは自分だけ。体も、顔も、心も、すべて計算し、守るしかない。
だが、その孤独は、同時に私を強くした。体と心を戦略に変えることを覚え、痛みを力に変える術を学んだことで、私は次第に芸能界という戦場を渡り歩く力を得た。夜明け前の街で鏡を見つめるたび、私は思った。これからどんな困難が待っていようとも、生き抜くために手に入れた武器は、誰にも奪えない、と。
小さな成功は、さらに大きな挑戦の始まりにすぎなかった。だが、初めて自分の力で舞台に立ち、人々の目を引く快感を知ったことで、加藤綾という少女は、確実に変わり始めていた。光の中で笑う自分の顔に、孤独と痛みの影を乗せながら、私は次の一歩を考えた。




