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紅い孤影  作者: キロヒカ.オツマ―


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30/31

第30章 「誰も彼女を殺していない」

東京。


湾岸のビジネスホテル。


午前五時三十二分。


清掃員が、

血の匂いに気づいた。


非常ベル。


救急車。


だが、

加藤綾は、

すでに、

死んでいた。


死因:

失血性ショック。


腹部刺創。


発見時、

彼女の手には、

スマホが、

握られていた。


画面は、

ロックされていなかった。


最後に開かれていたのは、

検索履歴。


「刺されても

 助かる確率」


「失血死

 何分」


「今から

 生き直せるか」


ニュースは、

瞬く間に、

日本中に、

拡散した。


「元女優・加藤綾死亡」


「連続殺人事件の重要参考人、

 ホテルで刺殺」


「犯人は逃走中」


SNS。


〈自業自得〉

〈因果応報〉

〈可哀想だけど仕方ない〉

〈被害者ぶるな〉


石川県。


実家。


焼け跡。


両親殺害現場。


そこには、

誰も、

線香を、

あげに来なかった。


被害者遺族。


殺された与党議員の妻は、

記者会見で、

こう言った。


「……彼女は、

 悪魔でした」


「……夫は、

 利用され、

 脅され、

 破滅させられた」


若手議員の兄は、

SNSに、

こう書いた。


〈あの女が

 すべての元凶〉


一方で。


かつて、

彼女と一緒に、

路上に立っていた女たち。


風俗嬢。


元マネージャー。


誰も、

表に、

出てこなかった。


出てきたら、

叩き潰されることを、

知っていたからだ。


遠藤誠。


行方不明。


警察は、

全国指名手配に、

切り替えた。


だが、

彼は、

自首しなかった。


半年後。


神奈川の、

安アパート。


風呂なし。


四畳半。


遠藤誠は、

布団の中で、

天井を、

見つめていた。


仕事は、

日雇い。


名前も、

変えていた。


スマホ。


保存されているのは、

一つだけ。


加藤綾の、

写真。


まだ、

路上で、

笑っていた頃の。


彼は、

毎晩、

夢を見る。


綾が、

言う。


「……なんで、

 助けてくれなかったの?」


彼は、

答えられない。


裁判。


開かれなかった。


真実は、

法廷に、

持ち込まれなかった。


ワイドショー。


専門家が、

言う。


「……彼女は、

 サイコパスです」


「……自己責任です」


精神科医が、

言う。


「……重度の、

 複雑性PTSDですね」


「……虐待被害者に、

 典型的な、

 自己破壊パターンです」


誰も、

その言葉を、

拾わなかった。


石川県の、

山奥。


古い、

バス停。


十四年前。


綾が、

夜行バスに、

乗った場所。


今も、

何も、

変わっていない。


そのバス停の、

ベンチに、

小さな、

花束が、

置かれていた。


誰が、

置いたのか、

分からない。


だが、

そこには、

紙切れが、

添えられていた。


「ごめんね」


加藤綾は、

三人を、

殺した。


両親。


国会議員二人。


そして、

彼女は、

刺されて、

死んだ。


だが。


この物語の中で、

誰が、

彼女を、

殺したのか。


遠藤誠か。


両親か。


政治家か。


芸能界か。


社会か。


答えは、

どれでもあり、

どれでもない。


彼女は、

十四歳の夜。


夜行バスに、

乗った時点で、


もう、

殺されていたのかもしれない。

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