第3章 裏切りと孤独の深化・初めての自立の兆し
東京の夜は、私を無言のまま試した。人混みに紛れても、寒さと恐怖が肩を抱き、孤独が胸を押し潰す。ネットカフェの薄いマットレスで眠ると、現実と夢の境界がぼやけ、体の痛みだけが確かに残った。
初めて助けを求めた少女は、次の日には姿を消していた。親切な男が、少しだけ金を貸してくれた夜もあったが、その翌日には無言で去っていった。東京では、誰も信じてはいけない──そう学ぶしかなかった。心の奥底で芽生えた怒りと不信感は、日に日に濃くなった。
体を売ることは、生活の手段であると同時に、自分を確認する行為になった。相手の視線、体温、匂い、嘲笑、無関心、すべてが心に刻まれ、私の内面を硬化させた。性感染症に何度もかかり、何度も堕胎を繰り返すたびに、体は痛み、精神は荒野のように乾いた。だが、痛みを受け入れることで、生きるという意志だけは守れた。
そんな中で、わずかに自立の兆しが見え始めた。夜の街を歩きながら、少しずつ金をためる術を覚えた。誰にも頼らず、誰にも期待せず、自分の手で未来を掴むしかない。小さな仕事を繰り返し、少しずつ自分の体を守る時間を作る。痛みを計算し、犠牲を最小限にする術を覚えたことが、私にとっての自由の兆しだった。
それでも孤独は深かった。笑い声や通りすがりの人々の温もりに触れても、心は凍っている。誰も、自分を理解しない。誰も、過去の痛みを知ろうとはしない。東京は美しく見える光の裏に、無数の影を抱えていた。その影に、私は自分自身の姿を重ねるしかなかった。
ある日、同じ路地で生き延びる別の少女と出会った。彼女は明るく、笑顔で周囲に愛想を振りまいていた。しかし、私にはその笑顔の裏に潜む恐怖が手に取るように見えた。話をするうち、彼女もまた、体を武器にして生きていることを知る。裏切られることの痛み、死に直面する恐怖、孤独を抱えた者同士で、初めて微かな共感を覚えた。
「生き抜くためなら、私たちは何でもするしかない」
心の中で呟いたその言葉は、恐怖に震える体に小さな光を灯した。孤独は消えないが、少なくとも、自分の意志で道を選べるという感覚が芽生えた。東京という街は、私を壊そうとする。しかし同時に、私に生きる術を教える教師でもあった。
夜が明ける前、街の片隅で私はひっそりと自分の手を握った。生きるための痛みを、少しだけ制御できる気がした。孤独の深さは変わらない。だが、逃げるだけの少女だった私は、ここで初めて、自らの手で生きる道を描こうとしていた。




