表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅い孤影  作者: キロヒカ.オツマ―


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/31

第28章 「追いついてきた過去」

東京・湾岸。


高層マンションの一室で、

加藤綾は、

ソファに沈み込んでいた。


カーテンは閉め切られ、

外の夜景は、

一切、見えない。


テーブルの上には、

スマホが伏せられている。


ニュースアプリの通知は、

すべて、オフにしていた。


もう、

何も見たくなかった。


「……誰も、信じられない」


ぽつりと、

呟いた。


芸能界から干され、

スポンサーも、

事務所も、

友人も、

すべてが、

一斉に、手のひらを返した。


その数日前。


綾のスマホに、

見覚えのない、

アプリ通知が、

一瞬、

表示された。


すぐに、

消えた。


「……何、

 今の」


気にも、

留めなかった。


インターホンが鳴った。


深夜、

十一時過ぎ。


綾の肩が、

びくりと跳ねた。


無視した。


もう一度、鳴った。


スマホが震えた。


非通知。


出るか、

迷った。


だが、

何か、

嫌な予感がして、

通話ボタンを押した。


「……綾ちゃん」


声を聞いた瞬間、

心臓が、

一気に冷えた。


「……誰?」


わざと、

知らないふりをした。


「……ひどいな。

 そんな言い方」


「……俺だよ」


「……誠」


遠藤誠。


その名前だけで、

過去の映像が、

一気に、

頭に流れ込んだ。


「……なんで、

 この番号、知ってるの」


「……SNS、全部、消してたけどさ」


「……俺、

 ずっと、

 見てたんだよ」


ぞっとした。


「……何の用」


「……会いたいだけ」


「……心配なんだ」


通話を、

切った。


その瞬間。


また、

インターホンが鳴った。


「……え……」


背中に、

冷たい汗が、

流れた。


ドアスコープを、

覗いた。


そこに、

誠が立っていた。


十年近く前。


路上で、

最初に、

体を売った夜。


一万円札を、

何枚も、

無言で差し出してきた男。


「……なんで、

 ここが分かったの……」


インターホン越しに、

誠の声がした。


「……開けてよ、綾ちゃん」


「……俺だけだよ」


「……今でも、

 君を、

 本気で、

 大事に思ってるの」


手が、

震えた。


「……帰って」


「……警察、呼ぶ」


誠は、

小さく、

笑った。


「……警察?」


「……今さら?」


ドアノブが、

がちゃりと鳴った。


鍵は、

開いていなかった。


だが、

その音だけで、

綾は、

後ずさった。


「……どうして、

 俺から、

 逃げるんだよ」


「……金、

 いくら、

 使ったと思ってる?」


「……お前の、

 人生、

 半分は、

 俺のもんだろ」


誠の声は、

静かだった。


それが、

余計に、

怖かった。


「……お願い」


「……もう、

 関わらないで」


鍵が、

回った。


「……え?」


ドアが、

ゆっくり、

開いた。


誠が、

入ってきた。


「……なんで……」


「……管理人、

 金で、

 黙らせた」


綾は、

その場で、

凍りついた。


誠は、

ポケットから、

小さなナイフを出した。


「……これ、

 覚えてる?」


「……最初の頃、

 お前が、

 怖がってたやつ」


喉が、

詰まった。


「……何もしない」


「……話したいだけ」


誠は、

一歩、

近づいた。


「……俺さ」


「……ずっと、

 君のこと、

 彼女だと思ってた」


「……なのに」


「……政治家だの、

 社長だの、

 俳優だの」


「……俺だけ、

 置いてかれてさ」


綾は、

後ずさり、

テーブルに、

ぶつかった。


「……触らないで」


誠の顔が、

歪んだ。


「……触ってたのは、

 誰だよ」


「……金、

 払ってたのは、

 誰だよ」


一気に、

距離を詰めてきた。


綾は、

思わず、

突き飛ばした。


「……やめて!」


誠は、

よろめいた。


その瞬間。


ナイフが、

振り下ろされた。


肩に、

熱い痛み。


「……っ!」


床に、

血が、

落ちた。


「……殺す気なの……?」


誠は、

息を荒くしていた。


「……違う」


「……怖がらせるつもり、

 だった」


「……でも」


もう一度、

突き出してきた。


腹に、

かすった。


綾は、

叫び声を上げ、

必死で、

逃げた。


玄関まで、

走った。


ドアノブに、

手をかけた。


背中に、

衝撃。


床に、

倒れた。


「……動くな」


誠が、

覆いかぶさった。


「……一緒に、

 やり直そう」


「……俺、

 君のこと、

 捨てないから」


綾は、

必死に、

膝で、

彼の腹を蹴った。


誠が、

うめき声を上げた。


その隙に、

立ち上がり、

玄関を、

飛び出した。


非常階段。


裸足で、

駆け下りた。


肩から、

血が、

滴り落ちる。


「……助けて……」


ロビーに、

転げ込んだ。


警備員が、

駆け寄ってきた。


「……人に、

 刺されました……」


病院。


縫合。


医師が、

言った。


「……命に、

 別状はないです」


だが、

綾は、

分かっていた。


(……終わってない)


(……あの男は、

 また、来る)


スマホに、

通知が入った。


非通知メッセージ。


「……次は、

 ちゃんと、

 一緒に、

 終わろうね」


綾は、

スマホを、

床に、

落とした。


(……逃げられない)


(……あの夜から、

 ずっと、

 続いてたんだ)


(……私の人生、

 最初から、

 詰んでたんだ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ