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紅い孤影  作者: キロヒカ.オツマ―


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第23章 密室の狂気と歪んだ告白

包丁を握る佐伯の手は、小刻みに震えていた。


刃先が、蛍光灯の光を反射する。


「……逃がさない」


その声は、かすれていた。


私は、ゆっくりと両手を上げた。


「……ちょっと、落ち着きなよ」


心臓が、胸を突き破りそうなくらい鳴っている。


――この状況、洒落にならない。


「……綾ちゃん、警察に捕まるんでしょ」


「……多分ね」


「……だったらさ」


佐伯は、一歩、近づいた。


「……俺が、最後の男でいいじゃん」


その言葉に、吐き気が込み上げる。


「……気持ち悪い」


思わず、そう言ってしまった。


その瞬間、彼の表情が歪んだ。


「……なんで、そんな言い方するんだよ」


「……だって、事実でしょ」


私は、壁際にじりじりと下がる。


「……あんた、私の何を見てたの?」


「……全部だよ」


佐伯は、包丁を下ろしたまま、笑った。


「立ちんぼしてた頃も、

 議員に抱かれてた頃も、

 テレビに出てた頃も」


――やっぱり、ずっと見てたんだ。


「……俺さ、あの頃から、ずっと思ってた」


「……何を」


「……綾ちゃんは、壊れてるって」


私は、思わず吹き出しそうになった。


「……今さら?」


「……でもさ」


佐伯の声が、妙に優しくなる。


「……壊れてる綾ちゃんが、好きだった」


――こいつ、本気で言ってる。


「……俺が、金貢いでたときさ」


彼は、壁に貼られた私の写真を指さした。


「……他の男に抱かれても、

 議員に抱かれても、

 整形して顔変わっても」


彼は、涙目になっていた。


「……全部、俺の綾ちゃんだと思ってた」


私は、背中に、冷たい汗が流れるのを感じた。


「……だからさ」


彼は、包丁を持つ手を、少しだけ上げた。


「……警察に捕まる前に、

 俺が、綾ちゃんを終わらせてあげる」


――ああ、なるほど。


こいつ、自分を「救済者」だと思ってる。


「……ふざけんな」


私は、低く言った。


「……私、あんたに、何も頼んでない」


「……でもさ」


「……でももクソもない」


私は、怒りで、声が震えていた。


「……あんたは、ただの客だった」


その言葉が、決定打だった。


佐伯の目から、何かが消えた。


「……やっぱり、そうだよな」


彼は、笑った。


でも、その笑いは、完全に壊れていた。


「……俺、利用されてただけなんだよな」


「……今さら、何言ってんの」


「……でもさ」


彼は、包丁を構え直した。


「……それでも、俺は、綾ちゃんが好きなんだよ」


その瞬間、彼が、突進してきた。


私は、咄嗟に、横に飛んだ。


包丁が、壁に突き刺さる。


乾いた音。


私は、近くにあった椅子を掴み、彼に投げつけた。


「……っ!」


椅子が、彼の肩に当たる。


彼が、よろめく。


私は、その隙に、玄関に走った。


だが、ドアノブに手をかけた瞬間、

後ろから、髪を掴まれた。


「……逃がさないって言っただろ」


頭皮が、引きちぎれそうになる。


私は、肘で、後ろに思い切り打ちつけた。


「……ぐっ」


佐伯が、呻く。


私は、床に落ちていた包丁を蹴り飛ばした。


だが、彼は、別の包丁を、キッチンから取っていた。


「……用意、良すぎだろ」


思わず、呟く。


――こいつ、最初から、やる気だったんだ。


「……綾ちゃん」


彼は、涙と鼻水で、顔がぐちゃぐちゃだった。


「……俺さ、ずっと思ってた」


「……何を」


「……最後に、綾ちゃんを殺すのは、俺だって」


背筋が、凍る。


「……それ、ロマンチックだろ?」


――最悪。


私は、もう、逃げ道がないことを悟った。


「……ねえ、佐伯」


私は、わざと、声のトーンを落とした。


「……私さ、今まで、何人も殺してきた」


彼が、一瞬、怯む。


「……あんた一人、殺すの、簡単だよ」


その言葉に、彼の目が、ギラついた。


「……それでも、いいよ」


――こいつ、もう、完全に狂ってる。


私は、最後の賭けに出た。


彼に、ゆっくり近づく。


「……じゃあさ」


「……何」


「……一緒に、死のう」


彼の顔が、歪んだ笑顔になる。


「……それ、さっき、俺が言ったやつじゃん」


「……そう」


私は、ポケットに入っていた、小さな刃物に、指をかけた。


「……最後くらい、対等に、やろうよ」


彼は、一瞬、迷った。


その一瞬が、勝負だった。

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