第18章 捜査網の接近と慢心の亀裂
三人目の議員を殺した夜、私は少しだけミスをした。
帰り道、駅前の路地でタクシーを拾うつもりが、スマホの充電が切れて呼べなかった。
仕方なく歩いて帰ったその途中、コンビニのガラスに映った自分の顔を見て、私は立ち止まった。
目の下に、薄くクマが浮いている。
頬はこけ、唇の色が悪い。
――疲れてる。
そう思った瞬間、胸の奥がざわついた。
「……まあ、いいか」
そう呟いて、私はそのまま歩き出した。
三日後、ニュースは完全に様変わりしていた。
「連続殺人事件として、警視庁が特別捜査本部を設置」
テレビ画面には、警視庁本部前に集まる記者たち。
真剣な表情のアナウンサー。
「三人の被害者はいずれも与党議員。計画性の高い犯行と見られています」
私は、ソファに寝転びながらそれを見ていた。
――やっと、気づいた?
その事実に、むしろ満足感を覚える。
同時に、妙な焦りも生まれていた。
捜査本部。
本気の警察。
――でも、もう遅い。
四人目の標的は、すでに決めていた。
地方から上京してきた若手議員。
クリーンなイメージで売っているが、裏ではパパ活の斡旋に関わっている男。
私は、彼の行きつけのバーを調べ、閉店後の裏口を下見した。
カメラの位置。
人通りの少ない時間帯。
すべて、これまで通り。
――完璧。
そう思っていた。
だが、その夜、予想外のことが起きた。
裏口に回り込もうとした瞬間、足元の空き缶を蹴飛ばしてしまった。
「……チッ」
金属音が、静かな路地に響く。
その直後、バーのドアが少しだけ開いた。
中から、男の声。
「誰だ?」
私は、息を止めた。
心臓が、喉までせり上がる。
数秒。
永遠のように長い沈黙。
やがて、ドアは閉まった。
私は、全身の力が抜けるのを感じた。
――危なかった。
それでも、私は引き返さなかった。
その夜、四人目の議員も消えた。
だが、今回は、後始末が雑だった。
手袋の装着が甘く、
血のついたティッシュをゴミ袋に入れたまま、アパートの共用ゴミ置き場に捨ててしまった。
翌朝、私はニュースを見て、眉をひそめた。
「現場付近から、血液の付着した紙類が発見されました」
――あ。
一瞬、背中に冷たいものが走る。
だが、すぐに自分に言い聞かせた。
「大丈夫。DNAなんて、私のは登録されてない」
そう思ったが、その言葉は、どこか薄っぺらかった。
その日の午後、部屋のインターホンが鳴った。
私は、凍りついた。
ドアスコープを覗く。
スーツ姿の男が二人。
――警察?
心臓が、うるさいほど鳴る。
私は、深呼吸してドアを開けた。
「宅配です」
拍子抜けするほど普通の声。
私は、荷物を受け取り、ドアを閉めた瞬間、へなへなと座り込んだ。
――……来てる。
まだ、直接じゃない。
でも、近づいている。
その夜、私は初めて、酒をあおった。
手が、微かに震えている。
「……もう少しで終わる」
誰に言うでもなく、呟く。
でも、どこかで分かっていた。
私は、調子に乗りすぎている。




