表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅い孤影  作者: キロヒカ.オツマ―


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/31

第16章 最初の標的

最初の標的に選んだのは、ニュースで見た与党の中堅議員だった。

地味な顔立ちで、善人ぶった笑みを浮かべる男。

裏金疑惑がありながら、何事もなかったかのように国会で答弁している。


――こういう奴が、一番たちが悪い。


私はノートに書いた名前を見つめながら、何度も情報を洗い直した。

地元事務所。

国会日程。

後援会の集まり。

SNSに載せている行動予定。


すべて、驚くほど簡単に手に入った。


「……こんなに無防備なんだ」


この国の権力者は、自分が狙われる可能性なんて、微塵も考えていない。


私は数日かけて、議員の行動パターンを尾行した。

朝は自宅マンションから車で国会へ。

夜は会食か、地元事務所へ立ち寄ってから帰宅。


警備は、ほとんどないに等しかった。

たまに秘書が付き添う程度。

SPらしき人物は見当たらない。


「……本当に、守られてるのは自分たちだけなんだ」


その事実が、私の中の怒りをさらに煽った。


私は駅前のカフェで、ガラス越しに議員の事務所を眺めながら、コーヒーを飲んでいた。

心臓は静かに鼓動を刻んでいる。

手の震えはない。


両親を殺したときより、ずっと冷静だった。


――慣れてきてる。


その事実に、うっすらと恐怖を感じる。


計画は単純だった。

夜、議員が地元事務所から出てくるタイミングを狙う。

人通りの少ない裏道。

カメラの死角。


私は、その場所を何度も下見した。


ある夜、私は黒いコートを着て、事務所の裏通りに立っていた。

時間は、夜九時過ぎ。


スマホで時刻を確認しながら、壁にもたれかかる。


――まだ、来ない。


頭の中で、最悪のケースを何度もシミュレーションする。

警察に見つかった場合。

通行人に声をかけられた場合。

議員が誰かと一緒に出てきた場合。


すべて、想定済みだ。


やがて、事務所の裏口が開いた。

議員が一人で出てくる。


その瞬間、体中の血が一気に沸き立った。


――今だ。


私は、ゆっくりと歩き出した。


議員はスマホを見ながら、裏道を歩いている。

完全に無警戒だ。


あと、数メートル。


心臓の音が、耳鳴りのように響く。


――やるのか?


一瞬だけ、そう思った。


だが、次の瞬間、頭の中に浮かんだのは、

母の無表情な顔。

父の怒鳴り声。

国会中継で薄ら笑いを浮かべていた、この男の顔。


私は、ためらわなかった。


数秒後、議員は地面に倒れ、動かなくなっていた。


私は、その場に立ち尽くすことなく、すぐに裏道を抜けた。

走らない。

目立たない。

ただ、普通の人間のふりをして歩く。


駅のトイレで、コートを脱ぎ、バッグに入れる。

手を洗い、顔を整える。


鏡の中の自分は、妙に落ち着いていた。


「……一人目」


小さく呟く。


恐怖は、なかった。

罪悪感も、なかった。


あるのは、妙な達成感と、さらに先へ進みたい衝動だけだった。


その夜、ニュース速報をスマホで確認した。

「与党議員、路上で死亡。事件性あり」


私は、ベッドに横になり、画面を見つめながら、静かに笑った。


――やっぱり、社会が悪いんだ。


こうして、私の中の何かが、完全に壊れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ