番外編2 映画にはピザ
「伽耶乃さん。お疲れ様です」
「小梅ちゃん! お迎えありがとうございます!」
金曜の夜。華金、なんて呼ばれているこの日この時間帯。
珍しく定時に退社し、家の最寄り駅の改札を抜けた私を迎えたのは、上は薄手のニットに襟付きブルゾンを緩く羽織り、下はダメージ加工のワイドデニムという私服姿の小梅ちゃんだった。全体的にゆるっとオーバーサイズなのが可愛すぎる……!
「いえ。今日は残業なくて良かったです」
小梅ちゃんが、こくり、と右にちょこっと首を傾げると、シルバーアッシュの毛先が揺れて、耳たぶのひんやりと光るピアスが覗く。
「今日は待ちに待った小梅ちゃんとのデートなので! 死ぬ気で定時に仕事終わらせてきました!」
今日だけは何があっても絶対に残業はしないぞ、と悪鬼の形相でPCに向かっていた成果を報告すると、小梅ちゃんはほんの僅かに頬を緩めた(素人目にはわからないくらいの変化だけれど私にはわかる。なぜなら私は小梅ちゃんの彼女なので!)。
「そうですか。偉いです、伽耶乃さん」
「えへへ……って、うぇぇ⁉︎ ここ、小梅ちゃん⁉︎」
優しい声で褒められて嬉しい……! とだらしなく笑っていたら、ふいに頭をぽんぽん、とされて思わず変な声が出た。咄嗟に出る声がいつもキモくてホント終わってる……もっと可愛い反応をしたいのに……!
「あ、嫌だったらすみません……でも、伽耶乃さん、頑張ってて偉いな、って思っ――」
「嫌じゃないですっっっっ!!!!!」
引っ込められかけた小梅ちゃんの手首をがしっ、と掴みながら(無意識ですごめんなさい!)、私は食い気味で答えた。大大大好きな小梅ちゃんに頭ぽんぽんされて嫌なわけがないんですけど!!!! というかもっとしてほしいですけど!!!!
「……ふふ、そうですか? じゃあ、もう一回しますね?」
「あっ、はっ、はいぃ……」
さっきよりも優しく、でもどこか悪戯っぽく頬を緩めて私の頭を撫でてくる小梅ちゃんの笑顔に、私の心臓はボクサーに捻りつぶされたリンゴみたいになった(訳:死にそう)。
仕事の疲れが全部吹っ飛ぶくらいの多幸感に体を委ねながら、私は「デートってめちゃめちゃいいな……毎日したいな……」なんてアホなことを考える。というかまだ待ち合わせをしただけでデート本編はこれからなんだよね……え⁉︎ じゃあこれからこれ以上の幸せが私を待っているってこと⁉︎ そんなの幸せすぎる~~~~~! 毎日デートしたい~~~~~!
しばらくして、頭を撫でられて脳が溶けている私に、小梅ちゃんは言う。
「それじゃあ、そろそろ行きましょうか」
「は、はいっ」
「今日はわたしの家で映画見てのんびり、でいいんですよね?」
「は、はいぃぃ……」
「伽耶乃さん、なんか震えてます?」
「き、緊張して……!」
ついに今日のデートの目的地――小梅ちゃんのお家に行くんだ、と考えると……!
「んー……あ、じゃあちょっと寄り道していきませんか?」
「寄り道ですか?」
どこに行くんだろう、と聞き返すと、小梅ちゃんは私の耳元にそっと唇を寄せる。ち、近っ……!
「せっかくお家デートするなら、いつもとは違うこと、したくないですか?」
「い、いつもとは違うこと……⁉︎」
そんな、誘惑するみたいなセリフを耳元で……! な、何をしちゃうの⁉︎
「お家で映画を見るなら、アレもほしいですよね?」
「あ、アレって……」
囁く吐息に、私まで声を潜めて返してしまう。
「――ピザ、テイクアウトして帰りませんか?」
「します!!!!」
悪魔の囁きに、私の緊張は一瞬でどこかへ飛んでいった。お家でピザ食べながら映画見るとか最高すぎる! お家デートの正解です!
続きは明日更新します!
お家デート編の最終回!




