番外編1 お家デート()
「小梅ちゃん! 今週末って空いてますか!」
今日も今日とて残業、でも退勤後の気持ちは晴れやか! なぜなら今日も今日とて世界一可愛い私の彼女――現世に降り立った女神、美の化身、ハイパークールビューティー、いやどんな言葉を尽くしても足りないくらいに最強にラブな小梅ちゃんに会えたから!
「空いてますけど」
「ホントですか⁉︎ やった! デートしましょう!」
「いいですけど」
夜中のコンビニ、元気いっぱいに言う私に、シルバーアッシュのウルフカットをさらりと揺らしながら、小梅ちゃんはこて、と首を傾げる。その角度可愛すぎ~~~!
「……伽耶乃さん、今日はなんか元気ですね?」
「それはもう! 大大大好きな小梅ちゃんに会えたので!」
「……昨日も会いましたよね?」
「はい! ていうか昨日も可愛かったけど今日はまたさらに可愛くなってる気がするんですけど! 小梅ちゃん、日々可愛さを更新していってませんか……⁉︎」
「いえ、気のせいですね」
レジの向こう側、つん、とクールな眼差しで私のスープ春雨をスキャンしながら、小梅ちゃんはつれない。……でもバチバチにピアスの付いた耳たぶはほんのりと赤くなっていて、実はしっかり照れている。私の彼女、可愛すぎでは?
「……というか伽耶乃さん、最近そういうことよく言いますよね」
どこかじっとりとした目で、小梅ちゃんは責めるように言う。え?
「そういうことって……?」
「軽率に『可愛い』とか、『好き』とか。前はそんなにだったのに……」
「それはだって、『言葉にする』って言いましたので!」
以前のお家デートでの宣言を律儀に守る私、偉い。いや、というかそもそもそ私が小梅ちゃんのことを可愛いと言うのはただ単に小梅ちゃんが可愛いという事実の再確認に過ぎないので私は別に偉くない! 驕るな!
「……まぁ、伽耶乃さんがそういう感じなのは、もう諦めましたけど」
「え⁉︎ もしかして私、愛想尽かされてますか……⁉︎ な、何かやっちゃいましたか……⁉︎」
はぁ、と目の前で小梅ちゃんにため息を吐かれ、私パニック。まだ挽回ってできますか⁉︎
「いやそういうんじゃなくて……」
意味もなく両手を上げ下げして混乱している私をきょとん、と見ていた小梅ちゃんだったけれど、やがてふ、とほんの僅か頬を緩める。
「いいですよ、伽耶乃さんはそのままで」
そう言ってから、小梅ちゃんの顔がつい、と近づく。突然鼻先に触れそうな距離にやってきた好みど真ん中のベリーキュートフェイスに、私の喉からは「ひぃぐっ」みたいなブサイクな声が漏れた。
「――その代わり、わたしももっと言うようにしますから」
「え? へ? そ、それって……」
「顔赤くなって照れてる伽耶乃さん、可愛い」
「ひぇっ⁉︎ か、かわっ……⁉︎」
囁くようにそう言われ、私は一瞬で体温が五十度まで爆上がりした。し、死ぬ……!
「ふふ、もっと赤くなりましたね?」
「あ、あ、も、その、もういい……いいので……!」
少し笑みを含んだ低い声(好きすぎて録音して目覚ましにしたい)で『可愛い』と畳みかけられ、私はもう限界だった。何これ、死ぬ前に見る夢……?
「そうですか? じゃあやめますけど」
すっ、と小梅ちゃんの顔が離れ、それはそれで、あっ、離れちゃった……となる。心が……二つある……!
「それで、デートってどこに行きます? 伽耶乃さん、行きたいところありますか?」
「あっ、それなんですけど……えっと、そのぉ、」
自分から誘ったので一応候補はあるのだけれど、いざ言おうとすると勇気いるな……で、でもでも! 私はもう小梅ちゃんに対して臆することなく自分の気持ちを伝えられるようになったので! だから言うんだ! 臆するな、私!
「――お、お家デー、ト、とか、ど、どうですか……?」
デートの『デー』の部分で声が裏返ってめちゃめちゃ顔が熱くなった。ヤバ、脇汗すごい……。
「お家デート」
「あ、あ! でもでも別に変な意味とかじゃなくてですね!」
いつもの真顔でそう返す小梅ちゃんに、私の口は何も責められていないのに勝手に言い訳を始める。なんだこの口……⁉︎
「その、アレじゃないですか! この前は流れで私の家でご飯作って食べましたけど、今度はちゃんとした手順と言いますか……えっとちゃんと心の準備をして臨みたいといいますか……」
言っているうちにどんどん声が小さくなって、私はそろっ、と小梅ちゃんの顔色を窺う。付き合ってまだそんなに経っていないのにいきなりお家デートを提案してきて、そのくせめちゃめちゃに言い訳してくる女(私だ)、恋人としてかなりキモいか、もしかしてだけど……?
「え……っとぉ、だからそのぉ……家で二人でネトフリとか見て、のんびり過ごすのも良いのではないかなぁ、と……思いました……」
最終的に作文? て感じで言葉を切り、私は断罪を待った。あくまでネトフリとか見て過ごそうね! っていう意味でのお家デートなのでやましい気持ちはないです!
……ごめんなさい嘘です! ほんんんの! ほんのちょっとだけ! ちょっとくらいはあるよ、やましい気持ちだって! そりゃそうじゃん! だって恋人だし、いつかはそういう……その、そういうこと(オブラート表現)だってあるかもしれないわけだし! この前のお家デートだって小梅ちゃんの方からき、キス……だってしてくれたし! 期待くらいするよ! てか誰になんの言い訳してるんだろうね私は! もう黙るね! 黙れ!
「いいですね、お家デート」
「へ」
脳内で一生言い訳している自分自身を張っ倒していると、小梅ちゃんは特に気負いのない声でそう答えた。
ぽかん、と見返すと、彼女もまたきょとん、と小首を傾げる。
「伽耶乃さん?」
「へっ、あっ、いや……え⁉︎ いいんですか⁉︎」
あっさりと承諾され、私は思わず叫んだ。
「はい」
「え、えぇぇぇぇ……」
「自分から誘いましたよね?」
不可解なものを見る目で見られたが、いやでもこれはちょっと小梅ちゃん、ガードが緩いのでは……? いいの……? そんなほいほい私のお家にきてさ、もし私のやましい気持ちがほんのちょっとじゃなくてマックス状態だったとしたらさ? そんなの、何があるかわかんないよ……? ――まぁ、あくまで仮定の話で現実の私のやましい気持ちはホントに二ミリくらいしかないので心配はないんですけどね? 仮定の話ね?
「あ、でも」
さっきからずーーーーっとうるさい脳内の声に気を取られている私に、小梅ちゃんは悪戯を思いついたように、口角をほんの少しだけ、きゅ、と持ち上げた。涼しげな切れ長の瞳が、どこか蠱惑的な色に瞬く。
「今度はわたしの家で、にしましょうか」
「………………え」
「この前は伽耶乃さんの家でしたし、いいですよね?」
小梅ちゃんの言葉の意味を脳が頑張って処理している間にも、気づいたら体が勝手にぐぎぎ、と壊れたオモチャみたいな動きで頷いていた。なんだこの体⁉︎
…………え?
『わたしの家で』って…………。
それって……こ、小梅ちゃんの家でお家デートするってこと⁉︎
番外編、3話分くらい予定です!
続きは近日中に!




