19話 きっとひどい告白
耐久切れかけのメイク、セットも取れてボサボサの髪で夜道を走り、私はいつものコンビニへ。彼女は今もそこにいるはず。それは別に運命めいた予感とかではなくて、普通に今日の予定を立てた時に「夜はシフト入ってるので」って彼女が言ってたからだけど。
でも、大体のことに運命なんてないんだって、私は思う。
小梅ちゃんは「いつかどうせ離れる」なんて言っていたけれど、それは彼女と誰かがそう運命付けられてるとか大層なことじゃなくて、今までの人たちがただそうだった、ってだけ。
だって、私は何がどうなろうと彼女から離れたいなんて、微塵も! これっぽっちだって! 思ってないから!
だから私は、それを証明したいと思うのだ。
*
コンビニに着いた頃には息も乱れ、背中や首筋からは汗が吹き出していた。こんな可愛くない格好で……! と気後れはするけれどここまできて引き返すのももう無理! と半ば開き直ってお店の中に入っていく。
ピロリンピロリン、と耳慣れた入店音。そして、
「いらっしゃいま――って、伽耶乃さん?」
こちらを向いた小梅ちゃんの顔が、会釈をしかけたままの微妙に傾いだ角度で止まる。透徹した瞳の表面がゆらり、と揺れる。
「小梅ちゃんっ!」
ズンズンと大股三歩くらいでレジ前に詰め、
「お話があります!」
勢いでそう宣言した。走ってきたせいで跳ねていた鼓動が、また別の意味で早くなる。でももう日和ったり、傷つくのを怖がって誤魔化したりなんてしない。
「……話って、なんですか?」
「えっと、話っていうのは――」
誤魔化したりはしないけど、どうやってこの想いを伝えようかまでは考えていなかった私は普通に言葉に詰まった。な、何から話せばいいの……⁉︎ え、え〜〜〜〜っとぉ……――
「そ、そのっ! わ、私はっ、小梅ちゃんのことがす、好きですっ!!」
ノープランによる焦りから、私は店内に響き渡るくらいの大声でそんなことを言ってしまった。幸い店内に他のお客さんがいなかったのが救いだけど――待ってこれじゃあまりにも大胆な告白すぎない⁉︎ もうちょっと文脈とか前置きとかほしかったって!! おい!! 私!!
「…………え、っと」
ハッと我に返ると、目の前の小梅ちゃんが珍しく言葉に窮していた。ひ、引いてる……⁉︎ 嘘うそ待ってタイム! やり直すから!!
「…….好きって、どういう意味で、ですか」
どうやったらこの十数秒をなかったことにできるか、と脳みそをぎゅうぎゅうに絞っていると、小梅ちゃんは視線を落としてそう呟く。ぽつぽつと切れる言葉の継ぎ目は、彼女が何かに迷っているようで。
その、所在なく体の横に垂らされた、どこにも伸ばせないと――誰も取ってくれないと諦めたような彼女の手を、気づいたら私は握っていた。
「……伽耶乃、さん?」
戸惑いなのか、彼女の冷たく澄んだ瞳が見開かれる。私の顔と、不格好に繋がる二人の手を見比べる彼女の白い喉が、こく、と緩慢に上下する。
「この好きは――」
頭の中に色んな言葉が溢れる。
顔が好き。声が好き。クールな見た目の割りに可愛い仕草が好き。優しいところが好き。全部ぜんぶ好き。
でも、今一番伝えたい言葉は――
「――この好きは、『ずっとずっと傍にいたい』っていう意味の、好きですっ!」
震える声で、顔もあっつくて、メイクも髪もぐちゃぐちゃだし、汗まみれだし、考えうる限り最悪の状態で、俯瞰して見たらきっとひどい告白だった。
けれど、そんな取り繕う余裕のない今この瞬間の私から出てきた、余計な飾りも何もない、心の底からの言葉だった。
「……なんで、そんな。わたしと一緒にいても、意味なんて――」
「意味なくなんてないですっ! なぜなら!! 私が!! 一緒にいたいからです!!」
また拒絶の言葉を重ねようとする彼女を遮って、私はなんの理屈も通っていないようなバカの言い分を叫んだ。
「今まで小梅ちゃんがどんな経験をしてきたか、私は知りません! 今まで何人の人が小梅ちゃんに近づいて、最後には小梅ちゃんから離れていってしまったのかも知りません! でも!! 私はその今までの人たちとは違うんです!!」
ぎゅ、と握った手に力を込める。そこからこの想いが伝えばいいと。
「……でも、今はそうでも、いつか嫌になるかもしれないじゃないですか。こんな、何考えてるかわからないような人間のことなんて――」
「……いや、あの、それなんですけど……私、最近はなんとなく小梅ちやんが何考えてるかとかわかるようになってきたんですけど……?」
「……え?」
大変気にされているところ言いにくいのだけど……と恐る恐る言った私に、小梅ちゃんはどこか呆然と声を漏らした。
「確かに小梅ちゃんって表情はあんまり変わらないですけど、意外と感情漏れてるというか……例えば眉毛の微細な角度とか、声の揺らぎとか、そういう細かいところの変化を観察してると感情の動きも見えてくるというか――はっ! ま、待ってください⁉︎ これは何も私がいつもいつも小梅ちゃんの顔を隅から隅まで舐め回すようにガン見しているというわけではなくてですねいやあのホントにすみませんでした!! いつもめちゃ見てました!!」
ダメだ、途中からただの自供と謝罪になった。だって見てたもの……。
告白をしていたはずなのにいつの間にかただの謝罪会見になってるのなんで……? 私の罪か……? と我が身を振り返っていると、
「……なんですか、それ」
ため息のような声に、私はビクッと肩を震わせる。あ、呆れられている︎……⁉︎ あるいはキモがられてる……⁉︎ どうしよう……土下座で許してもらえる……⁉︎ と慌てて小梅ちゃんの顔を見ると、
「やっぱり、伽耶乃さんって、変ですね」
「へっ」
いつもは冷たい氷のように澄んだ瞳が、柔らかく解けたように緩んでいて。
……えっ、笑っ――
「伽耶乃さん」
「えっ、は、はいっ⁉︎」
「わたしも、伽耶乃さんに言いたいことがあるんですけど」
改めて切り出され、心臓が止まりそうになる。え、この空気は――⁉︎
「伽耶乃さん――あっ」
「えっ?」
きっ、と真っ直ぐに見つめてくる瞳が揺れ、私の背後に向く。え?
「……他のお客様が並んでますので、また今度で」
えぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!???? ここでそんなおあずけされることある〜〜〜〜〜〜〜!!!!????
*
……なぜかその後やたらレジが混んでしまい、しばらく待ってたけど結局帰った。というかそもそもレジ前で告白とかするな!!!! 私のバカ!!




