表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/26

17話 初デート(修羅場)

「今度の休日、小梅ちゃんのことをお茶に誘いました……!」

「おー、やるじゃん」

「そして、告白しようと思います……!」

「どうした急に。距離感バグってない?」

「止めないで、早季……!」

「別に止めはしないけど」

「いやちょっと一旦は止めてよ⁉︎」

「どないせえってのよ」


 早季は「処置なし」とばかりに肩をすくめるけれど、少しはこう、繊細な乙女心ってものをさぁ!


「それじゃあ、結局恋愛の好きだったってこと?」

「……うん。自分でも色々考えてみて、やっぱりそうかなって。……でも、また一人で突っ走って失敗したらどうしようって、怖くもあって」

「ふーん……ま、その時はその時じゃん?」

「冷たぁ⁉︎」


 あまりにも冷酷な女、早季は呆れたようにため息を吐くと、ぼそっと言う。


「もしまたフラれたら、その時は飲みにでもなんでも付き合うよって言ってんの」

「え……あったか……!」


 全然温もりの女だった。いやツンデレか?



   *



 迎えた週末。

 こちらから誘った手前ちゃんとオシャレなお店に連れて行かねば……! と謎の使命感に駆られて調べた、駅にほど近いパンケーキがウリのカフェで待ち合わせていのだけれど、


「ふぅ……間に合ったっ……!」


 前日に散々悩んで決めた服が出がけにまた気になり出して、やっぱあっちの綺麗めブラウスか……いやでももうちょいラフな感じの方が良い……? と無限に悩んでしまい、余裕を持っていたはずが気づけば約束の時間ギリギリになってしまった。結局白のフレンチスリーブのトップスにサーモンピンクのフレアスカートという無難めなコーデに落ち着いた。


 そわそわと、カフェの窓に自分の姿を映して乱れた髪を整える、なんてベタなことをしながら彼女を待つ。あ、待って前髪なんかキモくなって直らないんだけど……⁉︎


「お待たせしました、伽耶乃さん」

「うぼぁっ⁉︎」


 前のめりでカフェの窓ガラスと睨めっこをしていたら背後から声がして、変な悲鳴と一緒に心臓まで飛び出すかと思った。待って一旦呑み込む……!


「大丈夫ですか?」

「だ、だいじょ――」


 振り返り、答えようとしてまた心臓を吐きそうになって慌てて口を噤んだ。


 そこには、少しダボっとしたオーバーサイズのパーカーにボトムスはデニムのショートパンツという、上下でうまくバランスを取ったカジュアルな格好がシンプルながらも非常に様になっている小梅ちゃんが立っていて、く、と首を傾げてこちらを覗き込んでくる仕草が加わり破壊力がとんでもないことになっている。あぁぁぁ~~~~! 好きっっっ!!


「伽耶乃さん?」

「あっ、……は、入りましょうか……!」


 無言で限界化していたらそろそろ怪訝そうにされてしまったので、慌てて店内に入った。





「ここ、よく来るんですか?」

「やっ、来たことはないんですけど、調べたら良さそうなお店だな~って。パンケーキが人気みたいで――あ、ほらこれですこれ! 美味しそうじゃないですか?」


 案内された席で、私はメニューに載っているパンケーキの写真を指差す。


「伽耶乃さん、こういうのが好きなんですね」

「そうですね、人並みには――って、あっ、も、もしかして小梅ちゃんはパンケーキとか好きじゃなかったですか……⁉︎」


 完全に彼女の食の好みを考慮していなかった……なんとか良く思われたくて『オシャレで味も評判も良さそうなお店』を探すのに必死で私という奴は……! アイスの一件で小豆とか好きなのは知ってたんだから、和カフェを選ぶとかさぁ……! もっとあったじゃん……!


「あ、いえ、普通に好きです、パンケーキ。というか――」


 ぎりぃ、と歯噛みする私だったが、彼女はそう言うと、つい、とメニューに視線を落し、


「伽耶乃さんが好きなもの知れるの、嬉しいので」


 なんでもないようにそう続けると、「あ、私はこのパンケーキとカフェオレのセットにしようかな。伽耶乃さんは?」とこちらにもメニューを向けてくる。えっ、いやっ、全然メニューに集中できないんですけどっ……⁉︎ う、嬉しいって、それって、どどどどういう意味⁉︎


 浅くなる呼吸と薄れゆく意識の中なんとか注文を決め、酸欠になる前に店員さんに伝える。もう既に瀕死だけど、今日私大丈夫そう? 死ぬ?





 しばらくして運ばれてきたパンケーキをひとしきりパシャパシャし、


「伽耶乃さん、インスタとかやってるんですか?」

「え、あっ、嗜む程度には……そんな別に大層な投稿などはしてないですけど! 小梅ちゃんは?」

「わたしは面倒くさくて全然動かしてないですね」

「わ、わかる~~~! 結局そんな載せるようなこともないから食べ物の写真ばっかりになるやつ~!」

「あるあるですよね」


 なんて、パンケーキをつつきながら他愛もないおしゃべりをしているだけで全然めちゃくちゃ楽しいんですけど~~~~! 好きな人とお茶するの幸~~!!


 そうしてパンケーキも皿から消え、飲み物も八割がた飲んでしまい後半戦も終盤くらいの空気感になり――


 ……これ、全然告白するタイミングとかないな?


 さっきから窺ってはいるけど、そもそもコンビニの外で会うのも初めてで会話もなんかお互いのことを色々知っていこうかな、くらいの空気感なので、ここでいきなり告白なんてしたら急に距離感ガッッ!! ってなって怖いし引かれるのでは……? 今日はやめとく……?


 一旦トイレに避難し「よし、今日はこのまま距離を測り、次回に繋げる作戦にシフトしよう」と戦略的撤退(日和ってはいる)を決めてトイレから出る。


 と、戻ろうとした席の傍に、なぜか知らない人が立っていた。


 ふわふわのフリルブラウスにシフォンスカート、艶のある茶色のロングヘアは手の込んでそうな編み込みアレンジという甘々なパンケーキみたいなその女の子は、どこか険しい顔で小梅ちゃんを見つめている。彼女を見返す小梅ちゃんはいつもと変わらぬ澄ました表情だけれど、頬の辺りが微かに強張っているような気がした。え、何、修羅場?


 そろそろと抜き足で近づくと、パンケーキ女子の声が聞き取れた。


「――久しぶりだよね、小梅。小梅ってこういうとこ来るタイプだっけ」

「……別に、タイプも何も誘われて来ただけだから」

「誘われてって……恋人?」

「……違うから」


 心なしか小梅ちゃんの返しが素っ気ない。……勘だけど、この空気、絶対昔になんかあったやつじゃん……え、元カノとか……? えぇぇぇぇ……。


 漏れ聞こえる会話と空気に、勝手な憶測で勝手にテンションが下がっていく。……だってせっかく初めての一緒のお出かけで楽しく過ごしてたのに、なんか急に昔の女みたいな人が居合わせて目の前でなんか見せられて……えぇぇぇぇ……。


「あ、伽耶乃さん。おかえりなさい」


 ふとこちらを見た小梅ちゃんがそう言うと、パンケーキちゃんも弾かれたようにこちらを振り向く。うっ、見つかった……。


 テンションダダ下がりで肩も若干落ち気味の私の姿を一瞥すると、


「え、もしかしてこの人と? 結構年上じゃない?」


 ……は、はぁぁぁぁ⁉︎ なんだこいつ!! いきなり失礼な!! てかまだ二十五だし、そんな変わんないでしょ!!!!


 敵意と殺意マシマシの笑顔で「どうもー」と威嚇してやる。


「いきなりそんなふうに言うの失礼でしょ。伽耶乃さんに謝って」


 す、と目を細める小梅ちゃんの冷たい口調に、彼女はバツが悪そうにすると「……すみません」と『ギリギリ頭下げてるふうに見えなくもない』感じで顎を引いた。こ、こいつ~~!


「ふ、二人は友達かな~~?」


 なんとか大人の対応を心掛けてそう尋ねると、彼女はキッと私を睨み、


「……付き合ってたんですよ、わたしたち」


 どこか挑むような笑みを浮かべて、ぎゅ、と小梅ちゃんの腕を掴んだ。


 ………。

 …………。

 ……………………ま、マジでかぁ~~。


 いや、空気的に予想できなかったわけじゃないからいいんだけど……いや別に良くはないんだけど……えぇぇ、なんかもう、今? って感じだし、この感じまだ小梅ちゃんに対して何かしら未練ありそうな感じがひしひしと伝わってくるし、なんかなぁ……。


「ちょっと、もう関係ないし、伽耶乃さんに変なこと言わないでよ」

「え、別にこの人と付き合ってるわけじゃないんでしょ? ……あ、でもお姉さんの反応的にそっちにはその気があったっぽい?」


 急に向けられた矛先に、図星を指された私は咄嗟に言い返せずに黙り込んだ。


「そういう話じゃない。ていうか(あずさ)も友達と来てるんでしょ? さっさと戻りなよ」


 パンケーキちゃんの手を邪険に振り払うと、小梅ちゃんは声を低くする。私の知らないその所作と声音に、少し胸がざわつく。


「ねえ、お姉さん。このお店、お姉さんが選んだんでしょ? 全然小梅の好きそうなところじゃないし」

「梓。もういいでしょ」


 小梅ちゃんの制止も聞かずに、彼女は一歩私に近寄ってくる。


「小梅っていつもそうなの。優しくて、なんでも相手に合わせてくれて――でも、それだけ」


 艶のあるリップで彩られた唇が、ぐにゃり、と歪んだ。


「わたしと付き合ってた時もそう。梓が好きなら、とか、梓がそうしたいなら、とか、あるのはわたしの気持ちばっかり。自分の気持ちは全然伝えようとしてくれない。感情が見えない」


 淡々と、けれど次第に熱を帯びる彼女のその言葉は、きっと目の前の私ではなく小梅ちゃんに向けられたものだ。


「何考えてるかわからない相手の傍に居続けるのってしんどいよ、お姉さん」


 そう言うと、彼女は最後に小梅ちゃんを一瞥して去っていく。


 私は何も答えられず、小梅ちゃんも「……すみません、伽耶乃さん」と言ったきり黙り込む。


 カップに少しだけ残ったコーヒーを飲み終えてしまえば、私たちがこれ以上一緒にいる理由はなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ