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13話 知らない人に連絡先教えるのダメ絶対

「ねえ、連絡先教えてよ」

「――――っ⁉︎」


 いつものようにコンビニに立ち寄ると、軽そうな男に薄氷さんがナンパされていた。こ、こ、この不届者ーーーーっ!!


「すみません、そういうのはお断りしてますんで」

「そう言わずにさー」


 薄氷さんがきっぱり断ってるのにしつこいぞ! この粘着ナンパ野郎!


「……はぁ、仕方ないですね」


 えぇ⁉︎ 連絡先教えちゃうの⁉︎ そんな奴に⁉︎ 私だって知らないのに⁉︎ 待って待って待って待って!


 ズドドド、と私は手近な商品棚にダッシュして適当に商品を掴んでレジ前にダッシュする。そして軽薄粘着ナンパ野郎の後ろに立つと、


「んっ、ぅっん、ぅごほっ、げほっ」


 めちゃめちゃうるさく咳払いをしてやった。我ながら汚ねぇ咳だ……。


 男の肩越し、薄氷さんはちらっとこちらを見る。伝われ、私の作戦……!


「お待ちのお客様がいらっしゃいますので」


 言外に退店を促され、男は渋々レジから退いた。よしっ、ざまーみろっ。男の背中に心の中で中指を立てて見送っていると、去り際、じろっと私の方を睨んできた。ひっ……で、でも私悪くないもん! 後ろに並んでただけだもん!


「伽耶乃さんが来てくれて助かりました」

「いえいえ〜、薄氷さんが困ってたらめちゃめちゃ助けますよ〜〜!」


 ぺこり、と小さく頭を下げる薄氷さんに私はえへえへと応じる。お礼を言う薄氷さん、律儀で可愛いな〜〜……じゃなくて!


「――というか薄氷さん、もう少し押されてたら教えちゃうところでしたよね⁉︎ ダメですよ気をつけないと! 個人情報なんですから、よく知らない相手に連絡先教えるなんて!」

「でも、別に相手しなければそのうち飽きると思いますけど」

「ダメですダメです! 薄氷さんはもっと危機意識を持たないと! こんなかわ――」


 そこまで捲し立てて、私はハッと我に返った。な、何を口走ろうとしていた、今〜〜⁉︎


「こんな、なんですか?」


 こて、と首を横にちょっと傾げる薄氷さんの動きに合わせ、シルバーアッシュの髪がさらりと揺れる。可愛いと面と向かって言おうとした、なんてあまりにもキモくないか……?


 幸いあまりちゃんと聞こえていなかったっぽいし、誤魔化そう。


「こ、こんな世の中なんですから〜〜」


 体裁の悪さを時代のせいにするも、


「いや『かわ』って言いかけてましたよね? なんて言おうとしたんですか?」


 普通にギリギリまで聞こえてるじゃん……! ていうか、顔寄せてこないで! 顔面が良すぎるのに近すぎるのはホントに無理⁉︎


 あまりの顔の近さに追い詰められ思考能力を失った私は結局、


「……か、可愛いんだから……って、言おうと、しましたぁ……ぅう」


 両手で自分の顔を覆いながら白状する他なかった。顔あっつ……!


「今の伽耶乃さんの方が可愛いですよ」

「ぅへっ⁉︎ ななな、何をおっしゃいますやらっ!」


 か、かわいいって、薄氷さんが、私に……っ!


 突然真顔で最大級のキュン台詞をぶち込まれ、私は情けなく裏返った声でわけのわからない返しをしてしまった。え、もしかして私今日死ぬ?


「でも伽耶乃さんがそこまで言うなら、これからはもっと気をつけます」

「そ、そうですね! 知らない人に連絡先教えるのダメ絶対!」


 ヤケクソ気味にそう返してから、私はハッと(このパターン多いな……)我に返る。


 知らない人に連絡先教えるのダメって、私も薄氷さんの連絡先聞けないってことでは……? ヤバい、自分で自分の首を絞めてしまった……何やってんだよ私……!


 そこからお会計が終わるまで私の記憶は朧げだ。気づくと手にはウコンの力が入った袋が握られていた。何買ってんだよ私……!


「それじゃあ、伽耶乃さん。今日は助けてくれてありがとうございました」


 もう一度ぺこり、と頭を下げる薄氷さんに、私は内心の後悔をぎゅっと押し込めて応える。


「いえいえいえいえ! でもいつでも私が助けられるわけじゃないので……ね?」


 しつこいかとも思ったけれど一応念押ししておく。私がもう連絡先を聞けなくなってしまった以上、他の何者にも薄氷さんの連絡先を渡してなるものか……! の気持ち。


「……それじゃあ、助けられる時は助けに来てくれるんですか?」

「へ?」


 く、と少し下にある彼女の目線が私を覗き込んでくる。何かを期待するかのようなその言葉に、私は何が正解なのかしばし考え――


「も、もちろんですよっ!」


 何をどう考えても助けないなんて選択肢はないな! となったのでなるべく頼もしい雰囲気を醸して答えた。


 その答えが正解なのかはわからないけれど、彼女の眼許がふっ、と緩み、


「それじゃあ、助けてほしい時は呼びますね」

「え」


 目の前に差し出された彼女の手にはスマホ。その画面に映るのはSNSアプリ。


 え。


 文脈的にこうはならないのでは? と呆然と見返すと彼女は涼しい顔で言う。


「伽耶乃さんは、知らない人じゃないですから」


 えっっっっっ――



 ――ここで記憶は途切れている――



   *



 帰り道、ハッと意識を取り戻した私は手許に視線を落とす。


 見慣れたスマホの画面には、見慣れぬアカウントが。


「うっ――」


 う、薄氷さんの連絡先ぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!


 いつもは疎ましいブルーライトの明かりが、今は後光に見えた。

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