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12話 真面目な話

「連絡先って、どうやって聞いたらいいと思う、早季? というか聞いてもいいと思う⁉︎」

「まだ聞いてなかったのか……」


 薄氷さんの連絡先入手問題について、我が同期入社の女こと早季に相談すると普通に面倒くさそうな顔をされた。なんだよ、自分からけしかけといて!


「そんなの普通に『連絡先教えてください』でいいじゃん」

「そんなストレートに聞いて断られたらどうすんの⁉︎」

「脈がなかったってことで諦めな」

「そんな無責任なっ!!」


 ドンっ、とデスクに怒りをぶつけそうになったが普通に手を痛めそうなので自重した。代わりに抗議の意も込めて早季の肩を小突く。


「……無責任って、なんであたしがあんたの恋愛の責任取んなきゃいけないわけ」


 じろり、と早季は私を睨んだ。え、あれ? マジトーンじゃない、これ?


「うまくいくにしろいかないにしろ、これは伽耶乃の問題でしょ。ガキの恋愛じゃないんだから、勝手に盛り上がっておいしいところだけ味わって、傷つきそうなところだけは回避しようなんてムシが良すぎるでしょ」

「……う」


 どうしよう……あまりにも正論すぎるパンチが飛んできて何も言い返せない……。


 黙り込むしかない私に、早季ははぁ、と小さくため息。


「まぁ、あんたが恋愛に臆病になる気持ちはわかるけど……前フラれた時のメンタル酷かったしね……」

「ぅっ……思い出させないで……」


 早季の言葉に、以前付き合っていた恋人の顔が脳内にフラッシュバックする。ぐぅぅっ……!



   *



 以前の恋人は、私が入社して少し経った頃にしばらく仕事のやり取りがあった別の部署の先輩だった。いかにも仕事できます、という感じのバリキャリで、右も左もわからない私に丁寧に仕事を教えてくれた。その大人っぽいかっこよさが、私の目にはとても眩しく映ったのだ。


 ある日食事に連れて行ってくれた席で、私は勢いで先輩に告白した。先輩は少しびっくりしていたけれど受け入れてくれた。それでもう、私は舞い上がってしまったのだ。


 それからというもの、私は一人暮らしの彼女の家にほとんど入り浸り、彼女のために食事を作ったり、その他の家事まで手当たり次第に手を出すようになった。最初は喜んでいた先輩も、次第に帰ってきて私がいるのを認めると疲れたような顔をすることが増え、それから別れを切り出されるまで時間は掛からなかった。


「伽耶乃が私のために色々やってくれてるのはわかってる。でも、私別に頼んでないよね? それなのに毎日毎日『私はこんなにあなたに尽くしてます』みたいな顔されてもちょっとしんどいというか……私は別に家事手伝いをしてほしくて付き合ったわけじゃないから」


 当時の私は、好き、という気持ちだけでどこまでも突っ走ってしまい、気付けば相手の気持ちなんて置いてけぼりにしてしまうような、どうしようもなく幼い恋愛の仕方をしていた。



   *



 瞬間、脳内に溢れ出した普通に存在する記憶。その辛さに私は必死に涙を堪えた。


 先輩は既に転職し、最近ではもうあまり思い出すこともなかったのに……。


「傷つきたくないのはわかるよ。でも、薄氷さんのことが好きならそろそろちゃんと向き合ってみたら?」


 口振りは厳しいながらも、その目にはどこか優しさもあって。


「早季……」

「あー、もう、真面目な話しちゃったじゃん……もー忘れて忘れて」

「いや……そもそも私って薄氷さんのこと恋愛的な意味で好きなのかな、って……」

「はぁ?」

「いや、なんというか最初は顔がタイプ! ってところからだったし、なんか恋愛というか推し的な好きなのかも、っていうか……」

「……はぁー」

「無言のため息やめて⁉︎」

「……バカ相手に真面目な話して損した。ウザ」

「さすがに言い過ぎじゃない⁉︎」

「もう知らん。推すなり引くなり勝手にしろ」

「早季さーん⁉︎ ごめんってばー! 見捨てないでー!」

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