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1話 クールなコンビニ店員女子(顔がどタイプ)

 社会人三年目の夏、暑さと残業続きでヘトヘトのしがないOLの私は、今日罪を犯します。


 それは――


「いらっしゃいませー」


 ピロリンピロリンッ、という軽快な入店音。そうここは夜のコンビニ。


 ――私の罪は今日、夕飯をコンビニご飯で済ませること……っ!


 いや別にそれ自体は悪いことではない……けどっ! 私にとっては重大な罪――おばあちゃんとの約束を破ることになるのです……!


 三年前、無事に就職が決まった私に田舎のおばあちゃんは言った。


『どんなに仕事が大変でも、ご飯だけは手作りのあったかいご飯を食べるのよ。約束』


 ごめん、おばあちゃん……約束、守れなかった……。でも違うのおばあちゃん、普段は休みの日に作り置きとかしてるんだけど、先週は休日出勤だったからさぁ……!


 言い訳をしながらお弁当コーナーに立つも、店内の人みんなが私を咎めているような気がする。缶チューハイをカゴいっぱいに入れているおじさんも、レジに立つ髪色明るめでちょっと怖そうな女の子も――って、わっ、目が合っちゃった……! 慌てて視線を逸らしたけれど、これじゃ余計に怪しい奴だよ……。


 もーこれ以上グダグダ考えるのはやめっ! パッと選んでパッとお会計済ませてパッとお店を出てしまえば終わりよ! と肩の上辺りにずっしりと居座ってる(気がする)罪悪感を振り払い、『1/3日分の野菜が摂れるスープ』を手にレジへと向かう。


 さっきちらっと目が合った女の子の店員さんに「お支払いはどうしますかー?」と聞かれ、


「あ、PuyPuyで――」


 言いながら差し出したスマホの画面が真っ暗で、私はしばし固まった。


 ――ざ、残業に耐えられずスマホの充電が逝ってる〜〜! ……そうだよね……人間だって辛いけど機械だってずっと働きっぱなしは疲れるよね……。


「あの、お支払いは」

「あっ、すみません、やっぱり現金で――」


 女の子の店員さんに促され、慌てて財布を取り出そうとしていると、後ろから「ちっ」と舌打ちが聞こえた。うわっ怖っ、と思って小さく振り返るとさっき見た缶チューハイカゴいっぱいおじさん……! いつの間に後ろに並んで……? や、とにかく支払いを済ませないと――


「あっ――」


 気が急くあまり手を滑らせ財布が落ちる。う、うわー!


 ちゃりんちゃりーん! と無駄に景気のいい音を立てて小銭が床に散らばり、背後からはおじさんの舌打ちがノンストップ。急いでかがみ込んで小銭を拾い集めながら、私、涙目。残業続きで疲れたからコンビニご飯にしようとしただけなのに、踏んだり蹴ったりだよ……。


 ちょっと滲んだ視界で小銭を拾っていると、


「あの」


 ふいにすぐ近くから声がして慌てて俯いていた顔を上げると、同じ目線までかがみ込んだ店員の女の子に至近距離から見つめられていた。わわ、ちっか! ――じゃなくてお会計!


「あっ、お会計ですよね、すみません……!」


 レジの仕事にも迷惑かけちゃって申し訳ない気持ちでいっぱいで、とりあえず先にお会計、と差し出しかけた私の手が、きゅ、と優しく包まれた。へ?


「あの、全然ゆっくりでいいですよ」


 女の子にしては少し低い声、けれど不思議と心が落ち着く響きで。掌から柔らかな感触が去ると、私の手の中には小銭の山が。……もしかして、拾ってくれてた?


 パッと見はばっちりブリーチした感じのシルバーアッシュのウルフカットで、オシャレだけどなんか怖そう! って感じなのに意外と優しい……でもなんか恥ずかしくて顔見れない……。


 直視できずにすい、と横に流れた視線が彼女の耳たぶに吸い寄せられる。――いや待って耳たぶピアスバチバチなんだけど⁉︎ やっぱり怖い子? どっち⁉︎


「あ、あ、ありがとうございますっ! ……って、あれ?」


 お礼を言いながらも緊張で握った拳の中、小銭とは違うくしゃっとした感触を覚え視線を落とす。そこには、小銭に紛れて一個の飴が。


「お姉さん、さっきからすごい疲れた顔でお弁当見てたでしょ。だからそれ食べて、元気出してください。最近暑いし、体は大事にしないと」


 それ、と細い指が差した飴は、よく見ると塩飴で。


 し、塩飴って……こんな若くて強そうな見た目の子が塩飴って〜〜!


 気遣いで塩飴をくれる、というクールな見た目の割りにおばあちゃんみたいなギャップがドスッ! と胸の真ん中にギャン刺さりする。こんなのおばあちゃん子の私特攻すぎる……! え、待って? 好きかも?


 さっきまでとは違う理由であわあわする私をよそに、彼女はレジの内側に戻ると、「それじゃあお会計しますね」とクールに仕事を再開する。どうしよう、お礼……はさっき言ったし、れ、連絡先聞いちゃう⁉︎ ――のはさすがにキモすぎるし〜〜!


 せ、せめて最後にもう一回お礼だけでも、と思い、意を決して顔を上げる。と、


「――っ」


 ここにきてようやく真っ直ぐ見つめたその顔。お人形のように白い陶器肌、長い睫毛に縁取られた切れ長の目。唇は薄めで、雰囲気は全体的に大人っぽいんだけど、微かにあどけなさも感じさせて――


 とにかくっ!

 顔がっ!!

 どタイプすぎるっ!!!


「……? ありがとうごさいましたー」


 彼女の顔に見惚れて何も言えないでいる間に何事もなくお会計が終わり、それにて接客終了の合図。ぁ、ああ〜〜……!


 さすがにこれ以上居座るのは迷惑客になってしまう(ただでさえ既に迷惑をかけてはいる)ので、レジ袋を受け取ろうとのろのろ手を伸ばす。


 ちょん、と受け取るはずみで指先が彼女の手に触れた。瞬間、どきりと心臓が跳ねて顔が熱くなる。それを気取られたくなくて俯きながら袋を受け取ろうとするけれど、なぜかぐっ、と抵抗にあう。え、なに?


 思わずパッと顔を上げると、彼女は特段愛想良く笑うでもなくクールな表情のまま手を離し、


「また、お越しください」


 真っ直ぐ私の目を見てそう言った。


 んぅ、んんんっ……また来ます……っ! というか通います……っ!

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