ともだちをさがしに
たぬきときつねが、山の中で化け勝負をしていました。
「おれのほうがボールになるのが、うまい」
「わたしのほうが、うまい」
たぬきはボールになると、木にぶつかって跳ねかえってきます。それをきつねがちいさなからだで受け止めます。次にきつねがボールになって、木にぶつかって跳ねかえってくると、たぬきが受け止めます。
ふたりは最初はどちらがまあるいボールになれるかを競いあっていたのですが、そのうちにお互いボールになって遊びあうのが楽しくなり、ボールになって追いかけっこをはじめました。
「あ!」
たぬきボールが、坂道をころがっていきます。ころがるスピードがはやすぎて、たぬきに戻れないようです。
「たすけて!」
きつねボールはあわててきつねに戻ると、四つ足で駆けて、たぬきの変化した緑色のボールのあとを追います。
ポーン!
緑のボールは人間の使う坂道に落ちて、さらに転がっていってしまいました。きつねは踏みとどまります。たぬきもきつねも、山から降りたことがほとんどありません。
きつねはあわわ、と慌てます。
(でも、たすけなきゃ!)
きつねは人間の女の子に変化をすると、えいっとジャンプして、たぬきのボールを追いかけます。
黄色いしっぽが隠せていません。
きつねは坂道の先に、畑と民家を見つけます。ボールはどこへ行ったのでしょうか?
民家の庭先に、地面に木の枝で絵を描いている男の子がいました。
「なにを描いているの?」
水色のスモックを着た男の子は驚いたようにきつねを見ます。知らない子に話しかけられてすぐには言葉がでずに、顔を伏せて、絵を描くのに戻ります。
きつねは男の子の真似をして、木で地面に絵を描きます。
そのうちに、だんだんときつねになれてくると男の子は笑います。
「じょうずだね」
「え!」
(嬉しい!)
きつねの女の子は、もっともっと描きます。
地面は、男の子の描いた絵と、きつねの描いた絵で、いっぱいになりました。
男の子の足元に、風に吹かれて緑色のボールが転がってきました。
きつねは「あ!」と立ち上がり、両手をひろげます。
「そのボール、くださいな」
男の子は、きつねに向かってボールを投げます。きつねはキャッチします。
きつねは、男の子がボールを投げるのがすっごく上手でびっくりしました。
(わたしもあんなふうに、投げてみたい)
きつねは緑のボールを、男の子にもう一度投げました。男の子はキャッチします。男の子は笑います。きつねも、笑います。ふたりとも楽しくなって、何度もボールを投げ合いっこします。
そのとき。
「やーめーろー!!」
緑のボールが、きつねの手のなかで怒りました。きつねはハッとします。目の前の男の子はすごくおどろいて、目をまあるくしています。
「またね!」
きつねは男の子に手を振ると、緑のボールを抱えて逃げ出します。隠しきれていない黄色いしっぽが、男の子の目の前で揺れています。
山に戻ると、きつねもたぬきも変化をときました。きつねは全力で走ったから。たぬきは全力でボール役をしていたから。息があがっています。
たぬきはきつねに怒ります。
「こら! なんでボールをなげたんだ!」
「だって、楽しかったんだもの」
「おれは、楽しくなかったの!」
「ごめんね」
きつねはたぬきに謝ります。
きつねは、目を輝かせてたぬきに話します。
「ねえ、わたし、気づいた。
わたしたち、いっつも2匹であそんでいたけれど」
「うん?」
「1匹より2匹が楽しかったみたいに、3匹いたら、もっともっと楽しいって気づいたの」
「3匹?」
「そう、3匹」
きつねとたぬきは顔を見合わせます。
「だれか、この山のなかにいるかも」
「だれかってだれ」
「わかんない。でも、すっごくドキドキすると思わない?
わたしとあなたの友達の、3匹目がいるかもって思ったら」
きつねは、たぬきと手をつなぎます。
「探しに行ってみようよ」
「え、やだよ。もう夕方だから」
「じゃあ、明日! 明日、探しに行ってみようよ」
「えー?」
たぬきは困った顔をしますが、きつねが嬉しそうなのを見てため息をつきました。
「しょうがないなあ」
「じゃあ、明日。明日ね! 約束だよ!」
きつねは笑います。
たぬきも、それを見て笑います。
「友達をさがしに、冒険にでかけよう!」