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ゴーストスポイラー・キョウカ 〈火消の風〉

作者: 市松 広香

 S県中部のとある大学には、ちょっとした怖い噂話があった。

 本館から離れた位置にある第一部室棟の廊下には、夜になると〈火消の風〉が吹く。生温い風が吹いたと思ったら、懐中電灯の灯りが消える。灯りが消えると真っ暗で何も見えないが、目の前に何かが居る気配がする。

 今のところ、学生に実害が及んだ報告はないが、高確率で〈吹く〉ものだから、肝試しとして夜中に部室棟に侵入するものが後を絶たない。これには守衛もうんざりしていた。

「それは大変ですね。よろしければ、解決いたしましょうか。」

 朸込京香(きめこみきょうか)は自他共に認める変人で、合理的な理論によって現象を理解しようとする学生でありながら、人智の及ばない怪異の実在を信じる神秘学者であった。

 本当は彼女も肝試しをしたいだけだったのだが、肝試しでは人聞きが悪いので、解決と銘打って心霊体験をすることにしたのである。ライターの火もスマホのライトも消すらしい〈火消の風〉だったが、それでも彼女には勝算があった。

 夜、彼女が鞄片手に第一部室棟に向かうと、入口の扉は開け放たれており、真っ暗な廊下が口を開けていた。

 辺りに人の気配はない。入口の前まで来て、廊下の奥に懐中電灯の灯りを投げかけた。廊下の奥には非常口のドアがあったが、ドアの上に付けられた誘導灯は消えている。

 昼間に来た時は、点いていたはず……

 彼女は〈本物〉の気配に恐怖と興奮を同時に覚え、身震いした。

 冷たい風が背中を押し、入口に向かって吹き抜けていく。誘われるように部室棟に足を踏み入れると、生温い風が吹き、持っていた懐中電灯の灯りが消えた。

 入口の方に向き直ると、風の仕業か、ドアが閉まるところだった。辺りは完全な闇に覆われ、目を凝らしても、どこにも焦点が合わない。

 ドアは閉まっているはずだが、生温い風が吹き続けている。入口から数歩の位置で立ち尽くしていると、近くでクスクスと笑い声が聞こえた。

 目の前に、何かが居る。

 吹きつけてくる生温い風が吐息のようにさえ思える。

「ふふふ」

 今度笑い声を発したのは朸込だった。全ては彼女の思い通りに進んでいた。

 彼女は鞄から、何かを取り出した。そしてそれに力を込めた。瞬間、強い光が放たれ、 「ぎゃあ」 という悲鳴のような音を立ててドアが開き、そこへ風が吹き抜けていった。

 朸込京香が持っていたのはケミカルライトだった。ケミカルライトには、吹き消される火も、電池切れの概念もない。怪異にケミカルライトの消し方はわかるまい。そう考えた朸込の作戦勝ちだった。

 彼女の活躍によって〈火消の風〉の噂はまるで聞こえなくなり、肝試しをする者も居なくなったが、代わりに〈光を放つ除霊師〉の噂が囁かれるようになったという。

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