ヨハネス登場と入門試験のお話です!
美琴の次に出会ったのはヨハネス=シュークリームでした。
ドイツで少年探偵としても活躍している彼との初対面は音楽室でした。
学校の音楽室と同様にビルの内部でも音楽を行える場所があり、部屋の中央にはグランドピアノが置かれており、誰でも自由に演奏することができます。
ある日、昼食の帰りに偶然通りかかった際に彼がピアノを演奏しているところを見てしまったのです。
部屋から聞こえてくる演奏があまりに見事なものだったので立ち尽くしていますと彼に気づかれて声をかけられて、部屋の中へ通されて自己紹介となったのですけれど。
自己紹介の途中でヨハネスは空腹で倒れてしまい、私が慌ててレストランへ運びことなきを得ました。
演奏に夢中になるあまり食事をとっていなかったとのことですが、私が通りかからなければどうなっていたことか……
ぱくぱくとおいしそうに大量の食事を平らげるヨハネスにどうしたら細身の体にレストランの大半のメニューを収納できるのか疑問を抱いていますと彼は穏やかな微笑を浮かべて言いました。
「僕のことはヨハネスでいいからね。よろしく、エリザベスさん」
「こちらこそよろしくお願いします、ヨハネス。あの、初対面で非常に失礼かもしれませんけれど」
「ん。僕の性別は男だよ」
「男の子⁉」
「僕の性別を知ったらみんな驚くよね」
ヨハネスの告白に私は心から驚愕しました。
長い睫毛に大きく青い瞳。長く艶やかな金髪。透き通るほど白い肌に華奢な体躯。
服装こそ探偵帽子に白のブラウスに長ズボンと高貴的でボーイッシュさを感じますが、顔立ちだけみたら完全に美少女なのです。
女子の私から見ても相当な美少女に見えるのですから、男子が見たら大変なことになるでしょう。
ライトノベルなどで男の娘という存在は知識だけは知っていましたが、まさか本当に実在するとは。
事実は小説より奇なりということわざをかみしめていますと、美しい微笑みのままでヨハネスがたずねました。
「ところでエリザベスさんはスター流の入門試験は受けたのかな」
「入門試験?」
「その様子だと受けていないようだね。もしくはスターさんが忘れているのか、意図的に行われなかったのか……興味深いね。
スター流に入門したければまずスターさんに得意料理を振舞って合格をもらう必要がある。これは流派が立ち上げられてから一度も破られたことのない慣例だったのだけど、どうやらエリザベスさんはそれを破ったようだねえ」
声質は穏やかで表情も穏やかですが、内容はたぶんに私をとがめているように思えましたので慌てて頭を下げて。
「すみません。私は余命が一時間しかないとかで超人キャンディーを食べさせてもらったものですから、そんな試験があるとは露知らず……申し訳ありません」
「謝る必要はないよ。ただ、今後スターさんが思い出すと厄介だから今のうちに彼に何を作るのか考えておくといいかもしれない。ぶっつけ本番でテストを受けるのと、対策を知っているかでは大きな違いが現れるからね」
「貴重な助言をありがとうございます。ぜひ、参考にします」
「それがいいだろうね。君は何が得意なのかな?」
「えーと……」
頭の中でこれまで作った料理を思い浮かべようとして諦めてしまいました。
「私、料理を作ったことがありません!」
私の答えにヨハネスは盛大にため息を吐き出して天を仰いでからシリアスな声で言いました。
「もしスターさんにマズい料理を出したら破門ならまだマシで、最悪身体を消滅させられてしまうかも……」
「またまたぁ。冗談ですよね」
「……なら、いいんだけどね」
どうしましょう。