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友達とイギリスの食文化の力を借りて、私、伝統料理で勝負します!

「きみは破門だ」


私の料理を食べたスターさんが笑顔で言ってスイッチを押すと私の床下が開いてどこまでも続いていそうな深い穴へと落ちていきます。


懸命に助けを求めても誰も来ず、暗い穴の中をいつまでも落ちていくのです。


「嫌あっ!」


またいつもの夢でした。


ヨハネスから試験のことを聞かされてからというもの自分がいつ行われるともしれない試験に落ちて破門されるという内容を何回も見続けているのです。


夢で予行演習をしているからいいじゃないかという声も聞こえてきそうですが、夢であっても嫌なものは嫌なので、何を作ろうかといろいろと考えているのです。


お菓子のタルトタタンを作ろうとしたときはオーブンの温度を間違えて真っ黒こげに焦がしてしまいましたし、スコーンは上手に膨らませることができなかったので、どうやら私には菓子作りの才能がないと判断して普通の家庭料理にシフトすることにします。


ヨハネスや美琴ともふたりの時間の許す限り相談をして、もちろん自分でも考えて、少しずつ自分に何ができるかがわかってきたところで、スターさんから呼び出されました。


会長室の机の上に悪役のように両肘をのせて顎の下で手を組んだ彼は爽やかな笑顔で言いました。


「そういえば、スター流恒例の入門試験がまだだと思ってね」

「試験、ですか?」


私は初めて聞いたという風を装って小首をかしげます。


演技がどこまで通じるかわかりませんが知らないフリをした方が都合がよさそうです。


私と彼は貸し切りのレストランに移動して話の続きへと移りました。


「私を喜ばせる料理を作ることができれば合格で、できなければ失格。ここを追い出される。何を作ってもいいけど、制限時間は二時間だから気を付けてね。材料は冷蔵庫とかを見たらなんでも入っているから問題ないよ。それじゃあ、はじめ! がんばるんだよ」


全くの唐突に試験がはじまってしまいましたが、これまで夢の中で何度も経験をしているのですから突発的な緊張は起きません。深呼吸をして冷静さを心がけます。


三十分後、私がお皿に料理を盛り付けてスターさんの元へと運びますと、彼はキラキラといつも以上に目を輝かせました。


「フィッシュアンドチップスだね! イギリスの伝統料理だ! 楽しみだよ」


そう。私が作ったのはフィッシュアンドチップスでした。


冷凍の白身魚のフライとポテトを油で揚げただけという簡単な料理です。


あらかじめ作られたものを高温の油で揚げただけなのですから手抜きともいえるかもしれません。けれど、これが私にできる精一杯の料理でした。


美琴とヨハネスと何度も話し合い、実践をしてようやく食べられるレベルにまで仕上げることができた唯一のメニューです。


スターさんはフォークを取ってポテトを突き刺し、一口。


それからフィッシュの方もパクリと食べました。


反芻してからカッと目を見開き、運命の判決を下しました。


「焦げが目立つし、魚も完璧に焼けているとは言えないし到底お店に出せるレベルではないけれど、個人的には完璧すぎないのもまた味と考えれば――合格だよ」


なんだか無理やりにでも合格させたいような心苦しさを感じるのは気のせいでしょうか。


それでも、合格は合格です。ここで余計な口をきいて不合格にされてはたまったものではありませんから黙っておくことにしましょうか。


こうして、私は本当の意味でスター流に加入したことになりますが全員と仲良くなれるのはまだまだ先になりそうです。

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