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僕らの空は――虹色のレシピ――  作者: 音和さいる
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3-3

 空は綺麗なスカイブルーにマーブリングを施したような白い雲が泳いでいる。この調子なら人もそれなりに集まるのではなかろうかと気分も晴れ晴れとしている土曜日。三人は毎度お馴染みのSEEDSに集合していた。

 実はここを練習に使わせてもらうのだ。それも100%オーナーの温情で利用料は無料。自分の店で演奏するヤツのスキルが低くては困ると、営業時間外には練習スペースとして特別に貸してくれている。

 スタジオを借りるのにもキチキチの金銭事情だった学生時代の彼らにとって、これ以上のプレゼントはなかった。そして今でも、ギリギリまでスケジュール調整が難しいという事情により、土日に突発的に申し出て借りられるスペースもそう無いのでそのありがたさに変わりはない。勿論、前もっての利用願いの届出は必要である。それは従業員の一人として、専ら鍵を預かっている秀也の仕事であった。終わった後は店の掃除をして帰ること。それだけがオーナーとの約束事だ。

 自分たち以外誰もいない、椅子がテーブルに逆立ちに置いてある店内はいつも以上に広く感じる。客席より一段高いステージに腰掛けながら、三人三様で自分の楽器を弄っていた。

「これさ、ちょっと聞いてくれる」

 キラキラとした目で買って間もないニューフェイスのキーボードを扱いながら、テンこと典生が誘いをかけた。彼女の勧めでパーマをかけたばかりのヘアスタイルよりもこちらの方が何倍も大切らしい。秀也と磯貝、お調子者な象とクールな黒ヒョウとも喩えられるこの二人と長年の付き合いのある彼は、至って淡々としていてどことなく癒し系である。ただ、作ってくる曲は緻密に計算されつくしたハードな楽曲が多く、この彼とこの曲という組み合わせにはいささか違和感があり、意外性が高かった。ノンジャンルかつオールスタイルで作れてしまうのは彼の強みでもある。

「このデータなんだけど」

 典生が軽く操作をすると、キーボードから一定のリズムが流れ始めた。新曲はどちらかというとテンポが早く、いつもより指が痛くなりそうだと秀也は思った。でも、爽快感や疾走感がこの時期はほしい。この際その程度の痛みくらい致し方あるまいと、身体でそのリズムを追っていた。磯貝はただじっと目を閉じて聞いている。一度で耳コピはちょっと難しそうだが、ある程度は既に入っているようだ。

「ここ、裏ハクの方がいいな」

「じゃあ、変えてみるよ」

 一旦止めて典生が音を変えると、磯貝はその上に新しく自分の音を重ねていく。

「早ぇな、相変わらず」

「伊達に長く付き合ってないし」

「あはは」

 磯貝の音馴染みの速さに負けまいと秀也も音に集中する。この調子だと、この二人は持ってきたばかりの曲を「今日演ろう」なんて言い出しかねない。あと何時間ここにいられるかを考えながら、秀也は集中力との戦いを始めていた。


 夢中になって音を作っていたせいで、気付いた時には時計は夕方を示していた。もうすぐオーナーや今日シフトのメンツが揃うだろう。

「うわ、もうこんな時間だぜ」

 秀也は二人の前に腕時計をつけた左手をぬっと出した。

「あ、早っ」

「ボクは別に人前でやらなくても音が仕上げられればいいけど」と、のんびりと典生がのたまう。

「この曲は今日無しでもさぁ、やっぱ外出ようぜ。折角集まったんだし」

「あぁ、人前で演るのはズクズク来るしな」

「どこにだよ」

「勿論、ハートだ」

「嘘くせぇ」

 畏まって立てた親指で自分の胸を指す磯貝を秀也がげらげらと茶化す。それを典生は楽しそうに見守っていた。

「ほら、その辺テキトーに片付けて行こうぜ」

 秀也は一頻り笑ったところで立ち上がると、それぞれの肩に軽く触れて二人を急かした。

ステージの上を軽くモップでならした後は、フロアにはノータッチで換気扇を閉め、順番に鍵をかける。

 それに習うように二人も動き出すが、たいしてする事もなく、楽器を直したり楽譜を片付けたりあまり場所移動の必要ない片付けに止まった。

「まだ十分明るいな」

 カチャカチャと金属音を立てながら裏口の鍵を閉め、後ろに立つ二人を振り返りながらギターケースを担ぐ。とは言え、その影は既にその身長の二倍くらいに伸びている。

「潮公園だろ」

 ベースの入っている似たようなケースを担いで、後ろ体重で立つ準備万端な磯貝が問うた。

「あぁ」

「二人とも、忘れ物は」

「ないない。あっても何とかなるって」

 典生の心配は、既に演奏のことしか頭にない風来坊に一蹴された。



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