Ep.6『大悪魔というよりただのチンピラ』
投稿遅れました。すまん
突如として出現した黒い霧は、さっきまでの自身の取り巻く環境への愚痴を言い終えると、そこにいる『身元不明の餓鬼』ことコクシがいることを、まるで地球外生命体でも見たかのように驚いていた。
――尤も、口だけしか存在しない黒い霧に、人間の備える感情表現のための機能たる『表情』があるかどうかは疑わしいものではあるが。
「おい、ゴミ餓鬼。今から俺のする質問に答えろ。もし嘘でもつきやがったらお袋でも見分けのつかないくらいに殺してやるからな。一つ目――」
「あっおい待てい! いきなり出てくるなり訳わかんねぇこと言いだして、お前なんなんだよ!」
「ああ? お前人の......いや、大悪魔様のアリガタイお言葉を聞かなかったのか? それとも言葉の意味を理解できない脳タリンか」
「『ゴミガキ』でも『脳タリン』でもねぇ。俺は『コクシ』だ!」
「ガタガタ余計なことを抜かすな。オマエはただ俺の質問に答えればいいんだよ」
ティールの肩から染み出したそれはドス黒く、ゲロ以下のにおいがプンプンするそれは、この世に存在するの悪徳全てを煮詰めたかのような濁った雰囲気を纏い、猿でもわかるくらい明確な悪意と侮蔑、それから嘲弄と嗤笑の意思をこめ、コクシと相対する。その不気味な大悪魔とやらを宿す張本人たるティールは、それに対し顔を恐怖一色に染め上げていた。少なくともコクシと大悪魔(?)のやり取りに口を挟むことなく、生まれたての小鹿の如くぷるぷると小刻みに震える程度には。
が、件の大悪魔(?)は宿主のそれらの一切をまるで意に介さず、速やかにコクシに尋問を開始した。
「質問その一。ゴミ餓鬼、てめぇは『中東の帝国』『北方の連邦評議会』『西の鉄十字教会』『古都プルヴァトリ』このどこからきやがった?」
「だ~か~ら、俺は日本から来たっ言ってんだよ!」
「......その二ホンとやらが実際にあるのか、確かめさせてもらう」
そう言うが否や、大悪魔(?)は自らを構成する黒い霧を触手のように引き延ばし、コクシの頭部を取り巻く。頭蓋を抉じ開けられ中の脳を舐られるかのような、なんとも表現しがたい不気味な感触が襲い掛かる。思わず顔をしかめ、その黒い霧が生み出す不快な感覚から逃れようとするが、手で払おうとも頭を振ろうともそれはコクシの頭部を強固につかんで離さない。それでコクシの発言を嘘か真か見分けようとでもいうのか。
「......フム。嘘はついてないのか......折角鬱憤を晴らそうって~のに......あーつまんね」
案の定、その黒い触手はコクシの脳を覗き見ていたようだ。人の頭の中を覗き見とは悪趣味極まりない。けど、そんなことより――
「おいッ! なんで正直に答えたのに文句言われなきゃなんねぇ!」
「質問その二。おしゃべり騒音垂れ流し餓鬼、なんでこんなところに居る。旅か? 観光か?」
「無視かよ......」
「いいからサッサと答えろ。拒否権があると思うな。」
「............なんで森にいたかはわかんねぇ。気づいたら...『光』を取ったら死にかけてた」
「光、ね。これも嘘ではないと......チッ」
今までの発言に嘘が確認できないため、ストレス発散のための大義名分を得ることができず、苛立ちのあまり舌打ちをするが、コクシの言う『光』に対し興味深そうな反応をする。が、すぐに気を取り直した風に次の尋問内容に移った。
「質問その三。これが一番重要だ、心して答えろ......オマエは『曉燈の魔女』を知っているか?」
なぜかは知らないが、大悪魔(?)は心底嬉しそうにその質問を問いかける。言葉にわずかながら悪意を交え、口を禍々しく横へ裂く。さらに不思議になことに、それらはコクシに向けた反応ではなく、質問をしてる相手ではないティールに向けていた。そして当のティールはその大悪魔(?)今まで以上に一段と恐怖し、憔悴した様子だった。すぐ後ろの壁に背をつき頭を抱え、額や手に脂汗を浮かべ気味悪く沾る。
コクシは、ティールがその『曉燈の魔女』とやらをひどく恐れているようにも見えた――違う。ティールが恐れているのは、コクシの反応だ。
いったいなにをそんなに怖がっているのだろうか。そう首を傾げ、訝しむ。しかし、自分がいくら考えても分かるまい。だから――
「いや、その『曉燈の魔女』ってのは知ら――」
「そ~だよなアッ!! 知らないはずないよなああ! 『曉燈の魔女』を! かつて世界を恐怖と絶望で包み込みこみ、地獄のような『大戦』の引き起こした『曉燈の魔女』を! 世界中に厄災をばら撒き、この世に存在する悪業の限りをを尽くし、数多の罵声を浴び、世界から忌み嫌われし悪夢の象徴たる『曉燈の魔女』を、知っていないはずがないッ」
「知らない――」
「かの『曉燈の魔女』は世界に産み落とされ、かつてのかつてのの『曉燈の魔女』の名を継承したそのときから、それは億の人間の命を奪い、世界に終わらぬ地獄と悪夢をもたらした......」
「知らな――」
「それも己の薄汚く醜悪な欲望を満たしたいがためにッ! 老若男女問わずその尊い命を弄びその純粋な魂を穢し、人間の尊厳を徹底的に破壊しつくしたッ!」
「知ら――」
「そして、いつしか『曉燈の魔女』は、世界で最も憎悪の声を注がれ、世界で最も凄絶な死を望まれ、世界で最も多くの悪罵を浴びる存在となったッ!」
「知――」
「その哀れな民衆の嘆く声を聴き入れた慈悲深い、かつてのかつての『鉄十字教会』はその薄汚い魂を浄化せんと、長い時をかけありとあらゆる手を尽くしたが、全ては無駄に終わった!」
「――――」
「そして、『曉燈の魔女』は今日に至るまでのうのうと息をしている――――ッ!!」
そう、なぜか感極まったように喜び、狂喜乱舞する大悪魔(?)を目の当たりにしてコクシは思う
「――知らねぇって言ってんだけど、俺」