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Ep.4『ドジっ子は実在した』

ティールとコクシはお互いの名前を教えあい、馬鹿にテンションの高かったコクシにティールは空回りしてしまい疲れ切った様子で口を開いた。


「なんというか、君はやりにくい相手だよ......」


「? なんで?」


「まぁいい。......とりあえず、食事にしよう。色々持ってくるから少し待ってて。食事のときに色々聞きたいこともある」


「ん。りょーかい」


「あとそれから勝手に動こうとするなよ。その傷はまだ治癒魔法と魔導機で無理やり塞いでるだけだから簡単に傷は開く。それに、今の状態で下手に動いたら怪我が悪化するだけだから。くれぐれも勝手な行動は慎んでくれ。あと一応言っておくがこれは心配じゃない。忠告だ。君――コクシが余計がなことをして私の手を煩わせるのが嫌なだけだから言ってるわけで間違ってもコクシの身を案じてるわけじゃないし自分が面倒をしたくないっていう極々普通の感情で私はこの発言をしていているから万一に一つもコクシのことを心配しないしコクシのことは死ぬほどどうでもいいと思ってるから絶対にコクシの心配なんてするはずがないこれからも私はそう思うだろうそれに私は人から――」


「分かった分かった! そこまで言われたら流石に俺でも分かるから、一旦落ち着こう。ティール今すごいことなってる」


「ぜぇ……わっ……ハァ分かれっ、分かったら......はぁ、いぃ......んだぁ……」


一瞬も途切れることなく一度の息継ぎもせずぶっ通しで喋っていたため、顔を真っ赤にし、糸が切れたかのその場にへたり込んでいた。息も絶え絶えに、まるで今にも死んでしまいそうな勢いだ。多分、体力がないのだろう......いやいくら体力がないにしても普通こうなるか?


「アノ~大丈夫......?」


見ていて不安になってくるほどに疲弊していたので、思わず声をかけるが、


「コクシに......心配されることくつじょグゥ、ゲホッゲホゲホッぉえっ......大丈夫だ、問題なiヴぇぇ……この通り大丈夫だ」


「いやっそれで大丈夫は無理あるだろ......普通に休んだほうが良いって」


「別に、コクシが心配する必要はないだろ」


「えぇ~でも流石にその状態で――」


「だから、私は大・丈・夫だって言ってるだろ!! コクシが心配する必要もない!!」


「ワ、ワカリマシタ......」


ティールの可憐な顔に憤怒一色の凄まじい表情を貼り付け、コクシの気遣いを頑なに跳ね除ける。そのあまりの勢いに思わず片言になってしまった。


「じゃ、取ってくるよ」


と、これまた見てるほうを不安にさせる幽鬼めいた危なっかしい足取りで、部屋から出て行った。

扉が閉じられ、コクシはティールを待つ間、しばし思考の海へと投げ出される。


そもそも、自分はなぜ異世界に来たのだ? 心当たりが全くないというわけではないが、それでもこんな事はありないだろう。それと、『魔法』。先程ティールは『治癒魔法』と発言していたので実際に魔法が存在する世界なのだろうが、いったい他にはどんな魔法があるのか。というか、この世界がどういうものなのかがさっぱり分からない。


そして、自分は元の世界に帰れるのだろうか。


――帰ったところで、大切な人たちは皆どこにも存在していないだろう。

――お前は何も守れなかったじゃないか。コクシ。


「............」


今、それを考える必要は無い。何か別のこと考えるんだ。――そうでなければ、罪の意識に押し潰される。だから早く何か考えろ。

しかしどれだけ他のことについて考えようとしても、それは頭から決して離れない。

むしろ、考えてはならないことだけが思考を埋め尽くしてしまう。だがそれは、ある意味必然だったのだろう。

――誰もかれも、己の罪からは逃げれない。罪は決して犯した人間を逃さない。向き合わなければならないのだ。そして、いずれその時はやってくる。どれだけ先送りにしようと、拒めど、必ず。


「......糞が」


頭ん中がぐっちゃぐちゃだ。どうせ、何を考えても同じだ。もう――



「うぅぅわああああああああ!!」


「!?」


そこまで考えた瞬間、扉の先から何かが転げ落ちるような轟音が耳を劈いた。まさかティールがと、考えた直後、金属のこすれる扉の蝶番のおどろおどろしい音が耳朶を叩く。そしてそこから登場したのは――


「や、やぁ。食事を持ってきたよ」


四角い形をしたパンに、肉や野菜の入った美味しそうに香り立つシチューと水の入ったコップを二人分乗せたプレートを持った、髪の毛と服装が乱れに乱れ、顔が少し腫れており、まるで食事を運ぶ途中でうっかり足でも滑らしてコケてしまったかのようなのようなティールだった。


「......どしたの?」


「いや。べ、別に......誤解のないように言っておくが、足を滑らしてこけたわけじゃないからな。決して、焦ってしまったわけじゃないからな!」


なぜか自分から白状していた。


「ははっ」


「あぁっ今笑ったな! 私は命の恩人だってのにッ!」


「いや、俺は絶対に笑って、笑ってぇ……ふくくっ」


「やっぱり笑ってるじゃないか! いいか、私は別にこけてなど――」


と、慌てて弁解しようとした瞬間どこにも躓いてないのに盛大にすっころび、豪快に全身を床に叩きつけ、床さんと熱烈なキスを交わした

なぜだろう。コクシは大怪我を負っているのだが、ティールのほうが心配に見えてきていた。普段からこんな感じの人なのだろうか。


「大丈夫?」


「......君はなにも見ていない。いいね?」


「思い切り顔面から言ってたけど大丈夫? 凄い音したぞ」


「......食事に、しようか」


ティールの眦には、よほど痛かったのか大粒の涙が溜まっていたが、最後の意地だと言わんばかりに、涙を零すことはなかった。







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