表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/11

11.三月二十四日 正午

【三月二十四日 正午】

 真昼の明るさが、世界を包んだ。

 うつ伏せに倒れた寧の指先に、柔らかな桜の花びらが触れた。血と汗の匂いを、瑞々しい土草の香りが吹き流す。ああ、と達成感と諦念ていねんの息を細く吐いた。

 最後の実験は、成功だ。〝過去〟行きの上限と思われた三週間の壁を越えて、六週間の時間遡行という奇跡を為した。

 だが、それでも三月の壁は越えられない。二月に死傷を負った宮原苑華は、救えない。それに桂衣はこの奇跡を、親友を救うためではなく、寧を殺すために使ってしまった。

「なんで……」

 後ずさる靴音と、硬い声が聞こえた。

 顔を上げなくても、分かる。きっと寧のすぐそばに、中学二年の終業式を終えて、ダム建設予定地に侵入した少年が立っている。その手に握りしめた手紙が、寧の大切な人が決死の思いで届けた物だということを、少年が知るのはまだ先だ。

〝特異点〟を同一時刻に連続して使用するのは初めてだが、成功は約束されている。時の『風向き』を切り替えて、寧を〝未来〟に送り出すトリガーは、〝過去〟の寧が引いてくれる。次の行き先はダムの中で、水に揺蕩たゆたう寧の死体は、〝特異点〟から離れていけばいい。二度と、どこにも行けないように。この期に及んで罪の意識が希薄な『殺人者』には、そんな罰がお似合いだ。口元に、笑みが滲んだ。

「ひっ――」

 もう一歩、後ずさる足音が聞こえる。蘇らない宮原苑華に代わって、罪を自覚すらしていないお気楽な己の独り言が、寧に引導を渡してくれた。

「気持ち悪い」


<了>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ