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【完結・BL】転校生に学年トップを奪われたから弱みを握ろうと友達のフリして近付いたらとんでもない修羅場が待っていた  作者: Ru
【前編 / 02】 流星に至る

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 初めて入るファストフード店であれやこれやと注文して、スマートウォッチを触ったり、買った本を交換して読んだりしているうちに、時間はあっという間に過ぎていった。


 気が付けば夕飯時が近付いていて、窓の外が少しだけ茜がかって見えた。


 俺たちは顔を見合わせると、そろそろ帰るか、という結論に至る。少しだけ人気の減った繁華街を連れ立って、駅に向かってぶらぶらと歩いた。


 なんだか、『時が矢のように飛んでいく』という表現を、初めて、実感をともなって理解することができた気がする。不思議な感覚だ。


 ストラップを握ったまま並んで歩き、ICカードに札を食わせて、二人揃って電車に乗った。

 待ち合わせに使った乗り換え駅までは、それなりに時間がかかる。喋りながら何駅かすると、たまたま正面の座席が空いたので、俺たちは並んで席についた。


 少しずつ色を赤らめていく空を眺め、ぽつりぽつりと会話を交わすうち。早起きのせいだろうか、それとも不慣れな外歩きのせいだろうか、気が付けば、俺はうとうとしてしまったようだった。


 がた、とひときわ大きく列車が揺れて、ふっ、と意識が浮上する。

 うっすらと瞼を持ち上げれば、すでに車内は橙色に染まっていた。普通電車のため、車内に人の姿はまばらだ。閑散とした車内の様子に、少しずつピントが合っていくさまを、俺はぼんやりと認知した。まとわりつくような眠気。まぶたが重い。


(……あれ、俺……)


 ゆっくりとまばたきをする。なんだか視界が傾いている。

 それに、頬のあたりがほんのり暖かい。


 あれ、と思って視線を彷徨わせると、ものすごく近くに、宗像のものらしい髪の毛が見えた。


 へっ、と喉の奥で声がつぶれる。

 これは――もしかして。


 遅ればせながら、思いっきり宗像の肩に頭を乗せていたことに気付いて、俺はへあ、とか訳のわからない声を上げた。ゆっくりと横顔が巡って、実直な視線が俺を見下ろす。視線が、交わった。ぎくりとした。


「ご、ご、ごめ――うわっ」


 頭を起こそうとした瞬間、ぬっ、と手が伸びてきて、ぼすっと頭を押さえつけられた。

 しっかりと筋肉のついた肩、そこに頬を押し当てられる。


「もうちょっと寝てろ」


 ぼそっ、と言われて、ぐっと有無を言わさずさらに押しつけられる。

 なにを言ったらいいかわからず、俺はしどろもどろで口を半開きにした。


「いや、え、あの」

「俺も眠い」


 それだけを短く言うと、宗像の頭が急にこっちへと傾いてきた。

 ごつ、と頭をもたせかけられて、彼の肩と頭の間に、俺の頭が挟まれているような格好だ。これじゃあ身動きが取れない。


「む、む、宗像……!」

「ふあ……」


 あくびしてる場合か。こんなの、周囲の目が気になってしょうがない。いやそれとも、リア充のあいだではこれが当たり前なのか? いやいや、いくらなんでもそんな訳ない。だったらこれはなんなんだ。


 頭の中がぐるぐると攪拌されたようだった。あれこれとめぐる思考、辺りを見廻しそわそわする俺をよそに、宗像はとうとう、穏やかな寝息を立てはじめている。神経が太すぎるだろう。


「おい、おい……!」


 腕組みの肘をとんとん叩くも、宗像の頭はがっしり俺をホールドしたままだった。がんばって抜けようとしてみたものの、どうしても動けない。こんな雑な仕草でさえ、この男は人体の動きを把握しているのだろうか。バカな。


(ううう……)


 恐る恐る辺りを見回すも、意外にも、俺たちに注目している人はほとんどいなかった。もともと人気が少ないのもあるし、誰も彼もがスマホに夢中だ。なんだ。


 ほっとする一方で、なんだか変な感じがある。

 俺はもともと、誰の目にも映らない、透明な存在であることが当たり前だった。

 それなのに今は、誰の目にも映っていないことに改めて安堵を感じる、なんて。


(……まあ、誰も気にしてないなら、いっか)


 ようやくそう判断して、そっと目を閉じる。視界を閉ざした途端、ふわりと他の五感が立ち上がってきた。

 触れ合った箇所がほんのりあたたかい。頬に触れるざらついた服の感触、ほのかに感じる宗像の淡い体臭。


 こんなに近くで誰かの気配を感じるのは何年ぶりだろう、と思って、それがちっとも不快でない自分に気付く。急速に訪れる眠気。


 宗像の手が、とん、と一度だけ俺の頭を叩いた。

 列車の揺れる音、車内アナウンスの内容はまだ、乗り換え駅から遠い。なんだかひどく安心する。


 俺は細く長い息をついた。とろりとした眠気が心地よく疲労感を包んでいく。かたん、ことんとした列車の揺れ、定期的に身体にGがかかるのが、なんとも気持ちよかった。


 ゆっくりと身体から力を抜いて、眠気に身を委ねる。眠りは、すぐに訪れた。



 

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