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至近距離、すぐ目の前の瞳が、呆然と見開かれる。開ききった瞳孔がとてもきれいで、俺は笑った。とんでもない充足と、酩酊にも似た多幸感。電流じみたものが背筋をぴりぴりと通り抜け、ぞくっ、とした感覚。
衝動のまま、目の前の人の両手首を掴んで、そっと押した。呆然としたままのその人は、あまりにも簡単に揺らいで、ゆっくりと重心を失っていった。制服の背中は、されるがままに地についた。
あっさりと押し倒された彼の上にのしかかって、薄く微笑む。その頬に、ぱたぱたっ、と数滴の雫が落ちた。赤かった。きっと触ったらあたたかいんだろうな、なんてことをぼんやり思った。気持ち良かった。
皮膚の上で弾かれた赤はぷっくりと盛り上がっている。それがゆっくりと動いて、つるっと耳の方、彼の髪の生え際へと落ちていった。呆然と俺を見上げる頬の上、赤い軌跡が線を描いた。まるで涙の跡みたいだと思って、じいんとした痺れを感じる。
俺は彼の上に乗り上げたまま、そっとその頬を撫でた。凍りついた表情で固まっている男に向けて、笑いかける。恍惚のまま口を開いた。とても素直な声が出た。
「青春ぜんぶ駄目にして、俺と台無しになろう。なあ、──……」