第一章 タイトルマッチ
今夜、ここ東京ドームで男たちの熱い闘いが始まる。
会場は三万人のファン、試合前だというのに、この十二月の寒さを感じさせない熱気である。
本日の試合は、ファンが待ちに待った総合格闘技のフェザー級タイトルマッチだ。
王者椎名圭介、挑戦者黒川翔太の二人の闘い、ファンをも巻き込む熱いカードである。
圭介は、格闘技界では「神童」と呼ばれる天才派。一方翔太は地下格闘技を経てアウトサイダーのチャンピオン、本日の試合がプロデビュー戦の初参戦である。
何よりフアンが期待しているのは、初参戦でありながら、チャンピオンベルトを狙うタイトルマッチ、ファンはもちろん格闘技界をにぎわす熱い一夜なのだ。
試合は五分三ラウンドの総合格闘技、KO以外は審判の判定で勝敗が決まる。
二十一時、メイン二人のゲートが開いた。
まず、挑戦者翔太が、真っ赤な眩しいライトを浴びヒップポップの曲に合わせ入場。
次に、王者圭介が七色のライトを浴び、レゲエの曲に合わせ入場。二人の花道に熱い視線が集まる。
会場は観客の歓声と拍手で地鳴りのようにどよめいた。
二人がリングの上に立った。そして、試合開始のゴングを待っている。
ゴングが鳴った。待ちに待った試合開始の合図だ。
緊張の中、一ラウンドが始まった。身長差はほとんどない。スタートから激しい打ち合いが始まる。お互いパンチは入っているが、ダメージはなく、一ラウンドが終了。
続いて二ラウンド。開始と同時に圭介がインローをはなった。翔太が倒れる、寝技に変わった。しかし、翔太も負けてはいない。柔術が得意な翔太が立ち上がった。リングのロープに圭介の頭が出てしまい、レフリーからのブレイク。二人がにらみあった所で、二ラウンド終了のゴングが鳴った。
コーナーでの二人の顔は、紅潮し息づかいも荒い。水を飲む、セコンドの指示にうなずく。その様子を観客が見守っている。
さあ~、最終ラウンドだ。
翔太がいきなりタックルから、圭介を持ち上げた。何回もパウンドを入れるが決まらない。翔太が立ち上がった。打ち合いが続く。両者のセコンドの声も、ヒートアップしている。
圭介の強い右ストレートが翔太の顔に入った。同時に、翔太の強いアッパーが圭介の顎に入った。
翔太の目から涙のように鮮血が流れた。そして、圭介の口から鮮血が飛び散った。
二人が倒れそうになる。
(試合終了まで、残り十秒)
会場内がシーンと静まり返った。
そして、時間が止まった。