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04 盗賊を捕食

「お? 何だテメェは?」

「何だぁ。おい、お嬢ちゃん。こんな時間に夜遊びかい、ヒャッハッハ」

「よく見りゃ、けっこういい女じゃねぇか」

「よう、オレたちと遊ばねぇか? ギャハハ!」


 男たちがようやく私の存在に気付いてくれた。

 あなたたちって、全く用心が足りなすぎるわね。

 殺そうと思えば、とっくの昔に殺っていたのよ。

 それを今にいたるまで生かしておいてあげたのだから。

 私の気の長さに感謝しなさいよね。


 それはそうと、私のこと『いい女』って言ったわよね。

 ……お世辞でも嬉しいわ。


「ま、待ってください!」


 私に抱かれていた紫の娘はぎこちなく叫んだ。

 そして、ぎこちない動きで立ち上がった。

 彼女は腰に下げていた鞘から剣を抜いた。


「どなたか存じませんが、逃げてください!」


 紫の子は、背中を向けた状態で言ってきた。

 顔は見えないけど、声はかなり震えていた。

 すると男たちが笑った。


「ぶっ! ショボい小娘がイカした姉ちゃんを守ってやがんぜ!」

「ギャハハ! 顔がイマイチな野郎が美少女をかばっていやがるぜ!」

「面白えなぁ。寸胴体型がスタイルのいい奴を慕っていやがるぜ!」

「安心しな! テメェら二人とも可愛がってやんからよ、ギャハハ!」


 下心まる出しだな。

 奴らの肌は緑色じゃないし、身長も低くない。

 だけど、なんとなくゴブリンに似ているように見える。


 しかしまさかイケメンたちから『美少女』って言われるとは。

 ちょっと嬉しいな。

 それでも捕食するけど。


 私は、震えている紫の肩を軽く叩いた。


「あなたはそこでじっとしてなさい」


「い、いけません! わたしは聖女様にお使えする身。それはつまり弱い人たちを守らなければいけないのです」


「あら、私って弱そうに見えるの?」


「お、お気にさわったのなら、申し訳ございません。で、ですがわたしは女神様から使命を受けたのです。ここはわたしに任せて逃げてください」


「さっきも今もビビってるじゃない。それにその聖女様って奴から捨てられたでしょう」


「ご覧になられてましたか。お恥ずかしい。で、ですが――」


「いいから、あなたはそこで待ってなさい。アイツらを片付けたら、あなたもちゃんと食べてあげるから」


「え?」


 私は紫の前に出た。

 男たちは口を大きく開けて威嚇してくる。


「うっひょー! よく見りゃ、すげえ美人じゃねぇか!」

「ば〜か、テメェ気付くの遅いんだよ。オレはひと目で高く売れるって見抜いていたぜ」

「よしよし、お前ら。あんま傷付けるんじゃねぇぞ。キレイなままが高値がつくんだからな」

「でも売り飛ばす前に、たっぷり楽しまねぇとな!」


 私のことを本気で美人と思っているのか?

 魔界でそんな評価なんて受けたことはないのに。

 私はブサイクな女だ。


 私は、男らの近くまで近付いた。

 そのうちの一人が持っているトゲの玉がギリギリ届く距離だ。

 そこで立ち止まる。


 私は髪を払い、腕組みをした。


「私を倒したら犯すつもりなのね?」


「おう、そうだよ! 泣いたってやめてあげねぇからな、ヒーヒッヒ!」


「そうね。勝ったら、負けた奴を好きにしていいんだから」


「おう! わかってるじゃねぇか! さてはたくさんの男とヤりまくったなぁ!?」


「負けたら、そうされるんだろうなって思っていたけど。でもおあいにくさま、まだ誰も私を汚していないわ」


「ヒャッハー! こりゃ最高だぜ! だったらオレたちがテメェの最初になってやりゃ!」


 もしかしたら、この四人の男が吸血鬼の天敵なのかもしれない。

 慎重にいくなら、もっと狭い場所におびき寄せればよかった。

 そうすれば一対一で戦える。

 でもここは森の中で開けた場所。

 四人一斉に襲われたら、勝ち目は無いではないか。


 ……でも。


 私は後ろをチラッと見た。

 紫の娘は困った表情で突っ立っていた。


「早くあの子の血を吸いたいもの。アンタたちがいると、のんびり吸血が出来ないのよ。だからすぐに終わらせるわ」


 私は一歩踏み出した。

 その直後、一人がトゲの玉で攻撃してきた。

 軌道から考えて、私の間近に落とすようだ。

 威嚇のつもりか。


「必要ないわ」


 飛んできた玉を、片手で掴んだ。


「な、なにぃ!?」


 玉を引っ張ると、鎖伝いに男がたぐり寄せられてくる。


「お、おいおいおい! ストップ! ストォォォォップゥ!」


 男が間合い入ったので、私は爪の伸ばした。

 吸血鬼は爪を自在に伸び縮みできる。


 吸血鬼の爪は切れ味が鋭い。

 岩程度であれば簡単に切断できる。

 もし男が、吸血鬼の天敵であれば効果はないはずだが。


「うぎゃああああああああ!」


 男の身体は真っ二つになってしまった。

 飛び散る肉片、骨、そして赤い血が、辺りを彩る。

 私は、手についたそれらをペロリとなめた。


「美味しいわ、これ!」


 自分の声が森の中に響く。


「ひぃ、化け物だ!」

「バカ! ビビってんじゃねぇ。よくもダチ公を!」

「野郎ぶっ殺してやる!」


「ハン、さっさと逃げればいいのに」


 襲ってきた三人のうち、一人の槍を掴んだ。

 それを振り回す。


「ひやあああああああ――だびひっ!」

「――ぶへび!」


 振り回された男が、もう一人の男に直撃した。

 二人の顔は変形して動かなくなった。


「なんて脆い肉体なの?」


 どうやら彼らは天敵ではないようだ。

 この程度の耐久力では、魔界だと一日も生きていけない。


「さて、じゃあ残り一人を殺りますか。あら? どこへ行ったのかしら?」


 逃したか。

 まっ、いっか。

 それじゃ紫の子をいただきましょうか。

 と思った直後。


「きゃあ!」


 紫の子の悲鳴がした。

 彼女の方を見ると、男に捕まっていたのだ。


「おい! こっち来んじゃねぇ! コイツがどうなってもいいのか!?」

「や、やめてください」


 男のナイフが、紫の子の首筋に当たっている。

 そこから赤い血が流れていた。


 ――ゴクリ。


「お、オレはまだ死にたくねぇ! だからあっちいけ!」


 私は両手を広げてあげた。


「落ち着きなさい。用があるのはそっちの紫の子。あなたじゃないわ」


「ウソだ! コイツを放した途端、オレをぶっ殺すんだろ!」


「言葉の意味がわからないの? いいから早く放れなさい。指示に従わないと死んでもらうわよ」


「ぎゃああ! やっぱりオレを殺すんじゃねぇか!」


 男は手に力を入れたようだ。

 紫の娘の傷が広がってしまった。


「バカ! それは私のメインディッシュよ!」


 一歩踏み出した。


「へ? き、消えた!?」

「ウソ? どこに行ったんですか!?」


 まさか私を見失ったのか?

 そんなに速く動いたつもりはないんだけど。

 私は男の両方の肩を掴んだ。


「後ろよ」


 そう言うと、男の首筋に噛み付いた。

 そこから出てくる温かい血が、私の喉を癒やす。


「ぎゃああああああああああああ!」


 男は仰向けに倒れてしまった。

 だから私は下敷きになる。

 でも痛くもないし、重くもない。


 口を放し、男の身体を顔のほうから地面に叩きつけた。

 動かなくなったので、再び首筋を噛み付く。

 残りの血を吸い取るのだ。


「ごちそうさま」


 血が無くなった男は、すっかり干からびてしまっていた。

 さっきまでは太い身体だったのに。


「さて。ちょっと冷めちゃったけど、ちゃんと食べないとね」


 他の三人を口に入れた。

 もう死んで時間が経っていたから、血は固まっている。

 これでは吸うことは出来ない。

 だから引き千切って、肉や内臓や骨を、口に運んであげるのだ。


 殺したらちゃんと食べる。

 これが私の流儀だ。


「あ、あなたは」


 紫の子の声がしたから、彼女の方を向いた。

 相変わらず震えているが、表情は怒っているようだった。


「あ、あなたは……きゅ、吸血鬼ですね」

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