表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/17

17 山へ

 山の向こうから再び太陽が昇ってきた。

 だから私は窓から離れた。


 ベットを見ると、ユーリアが羽ばたいていた。


「おはようございます、オシブさん」


「よく眠れたかしら?」


「はい、おかげさまで」


 一階に降りた私たちをメイドが出迎えた。


「おはようございます。オシブさん、これを」


 そう言われて、メイドから赤い布を渡された。

 めくってみるとウラは白だ。

 彼女は得意気に言った。


「それは闇魔法で作られた特殊なマントです。元々、アンデッドの冒険者が使っていた物なんです。これで太陽の光にもある程度耐えられる筈です」


「あら『闇』って単語が気に入ったわ。昨日は光魔法でさんざん攻撃されたから、気分が悪かったのよ」


「お古で申し訳ありません。ですが、そのアンデッド冒険者はAランクで活躍されていたんです。Sランクの貴女からしたら頼りないアイテムかもしれませんけど」


「そんなことないわ。ありがたく使わせてもらうわね」


 白いほうが表だったか。

 私はそれを羽織った。

 くるっと回って、腰に手を当てた。


「どうかしら、これ? 似合う?」


「うわぁ。すごくカッコいいですよ、オシブさん!」


 ユーリアは回転しながら、私の周りをまわった。

 メイドはさらにカバンを渡してきた。

 中にはビンが何本かあった。


「えっと、その……流石に血液を用意する事は出来ませんでした。ただ代わりといっては不十分だと思うのですが……」


「え? ビンの中身が赤いわよ?」


「血に似ているのはそれくらいしかなくて。吸血鬼といえばやっぱりそれですよね」


 私は一本を取り出した。

 蓋を開けて、においをかいだ。


 知っている。

 この香りは知っている。


 一口飲んでみた。

 その液体は喉をうるおし、胃袋を癒していく。

 だからビンを傾けて残りを流し込む。


「トマトジュースじゃないのよ、これ! とっても美味しいわ!」


「喜んでもらえて嬉しいです」


「ありがと。これさえあれば、魔王だって余裕で倒せるわ」


「あはは。頼もしいですね」


 酒場から出ると、太陽の光に浴びせられた。

 私はとっさに腕をおおう。

 しかし炎は出ないし、赤黒い湯気も出てこなかった。


「……このマント便利ね。正直助かるわ。あのスキルは自分の血を消費するから気持ち悪いのよね」


「良かったですね、オシブさん」


 しばらくすると馬がやって来た。

 一頭の馬と、ロープに繋がれた箱があったのだ。

 ユーリアと出会った時に、彼女が乗っていた物と同じタイプだ。


 ユーリアが聞いてきた。


「オシブさん? もしかして馬車をご存知ないんですか?」


「馬車っていうのね。いま知ったわ。それが人間界の移動手段なのかしら」


「はい。あの、魔界には馬車はないんですか?」


「そうね、無いわ。移動は自分の足か、小型のドラゴンがおもね」


「すごーい」


「あとは転移魔法を使える奴もいるのよ。……私は使えないけど」


「おい。いつまでお喋りしているつもりだ」


 馬車の中からヘッダが出てきた。

 声に苛立ちの色が少し入っていた。


「明るいうちに仕事を終わらせたい。急げ!」


「何よ。無視されて寂しかったの?」


「ふん。魔族は好戦的という性質は君にも変わらんな」


「まあまあ、お二人とも落ち着いて」


 ユーリアが間に入ってくれなかったら、殺し合いが始まっていただろう。

 ユーリアは命の恩人だということを、ヘッダは感謝してほしいものだ。


 私たち三人は馬車に乗った。

 御者はヘッダの部下と思われる女騎士が勤めている。


 馬車は城門へと向かった。

 窓の外から巨大な物が視界に入った。

 昨日は開けっ放しにしていたが、今は閉じている。


「どうやって閉めたのよ」


「臨時に他の者が門番をやってくれたのだ。しかし正式に女神に認められた者ではないから、一回閉めれば、もう開くことは出来ない」


「不便ね。まあ、ごめんなさいね」


「なぜ君が謝る?」


「あれ開けたの私」


「まさか。いくら血液の波動に覚醒したからといって、神聖なる門番しか開閉は出来ないのだぞ」


「でもヘッダさん本当なんです。オシブさんは昨夜、わたしの目の前で開けちゃったんです」


 ユーリアがそう言うと、ヘッダは顎に指を当てて考え込んだ。


 それっきり私たちは静かになった。

 やがて馬車は止まった、巨大城門の近くで。


「で、どうやって開けるの? なんなら私がアンリの無罪を証明してあげましょうか?」


 沈黙を破ったのは私だ。

 ヘッダが続く。


「残念だがアンリの容疑は、今回の職務怠慢だけではないんだ。奴には他の容疑もかけられている。だから君が門を開ける必要などない。あれを見ろ」


 窓から顔を出すと、城門の真横に、小さな城門があった。

 それが開き、馬車が再び動き出す。


 私はヘッダに言った。


「アンリの身体に流れている血は、あなたたちには都合が悪いのかしら?」


「何故そんな事を聞く?」


「女の勘ってやつ。あんなに幼い少女――じゃなっか少年が様々な罪を犯せるとは思えないだけよ。となると出自が厄介なのかなって」


「おそらくそうだろう。詳しい事は私にもわからん」


「じゃ、じゃあ。魔物を討伐してもアンリさんは死刑なんですか? そんなのひどいです!」


「ユーリアといったね。君は優しいね。安心してくれ。魔物を駆逐出来れば彼は放免とされるそうだよ」


「よ、よかった……」


 街の中は建物がいくつも建てられていて、せわしなかった。

 しかし街から出ると、草と木と山しかなかった。

 辺境という言葉が似合う所だった。


 私は腕と脚を組んで、ヘッダに尋ねた。


「で、どこへ向かっているの?」


「街の北東にある山だ。そこにボスがいるらしい」


「そいつは一人?」


「わからん。報告では一人と聞いているが、ひょっとすると複数いるかもしれない」


 それからしばらく沈黙した。

 馬車は坂道を通っている。

 傾く車内に合わせて、私も腕組みしたまま傾いた。


 ヘッダは何やらそわそわし始めた。

 彼女の額に汗が流れている。

 だから私は言ってあげた。


「トイレに行きたいの? だったら馬車を止めて、草むらでしなさい」


「違うわ!」


「冗談よ、ごめんなさいね」


「オシブさん、わたしにもそんな恥ずかしいこと言いましたよね」


「何よユーリア。まだ気にしてるの?」


「もうしてませんよ!」


 そう言っている彼女は紫ボディが真っ赤だった。

 怒っているようだったが、すぐに笑顔に変わった。


 しかしヘッダは深刻そうな表情だった。


「……敵がいるの?」


 私は低い声で聞いた。

 ヘッダは男のような声で返してきた。


「いや、逆だ。そろそろ魔物に襲われるかと思っていたのだが」


 私は、飛んでいるユーリアを捕まえ、膝の上に置いた。


「警戒しなさい」


「は、はい」


 ユーリアから、ヘッダに視線を変えた。


「夜になったら襲ってくるんじゃないの? 今はまだ明るいわ」


「この辺りは昼間でも魔物が徘徊していると聞いていた。しかし、いまだに襲撃がない。どうなっているんだ?」


「私たちは西の方にある森から街へ来たわ。その間、魔物なんて見なかったわよ」


「何だと? あそこも非常に危険な敵が出る筈だが……」


「盗賊とエルフはいたわね。もしかして、あのエルフが黒幕なのかしら?」


「あ、あのお方は女神様です! 悪いことなんてしませんよ!」


「あなたをコウモリにしたじゃない」


「そ、それは……」


「今度会ったら殺すつもりだから。ヘッダ、そのボスって奴はエルフじゃないの?」


「いや、種族までは不明だ。ただ確かなのは、この馬車より図体がデカイというだけだ」


「ふーん。――!? あら? ねえ、ここってどこ?」


「何を言っている。ここは山の中――何だこれは!?」


「え、え、えええ! 何ですか、これ。街の周囲に、こんなものはありませんでしたよ!」


「落ち着きなさい、ユーリア」


「いえ、だってあの街から行くには何日もかかるはずなんですよ!」


 ユーリアは窓にへばり付いて叫んだ。


「海があるんですよ!」


 窓から見えるのは、山や草木ではなかった。

 地平線まで広がる水の集まり、巨大な池だったのだ。


 人間界では、これを『海』というのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ