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15 血のコウモリ

「馬鹿な馬鹿な馬鹿な! 絶対認めんぞ!」


「落ち着いてくだせぇ隊長!」

「そうですよ。きっと何かの手品ですよ!」

「あんな邪悪な吸血鬼が聖女な筈なんてないわ!」


 驚愕している騎士団。

 すると野次馬が彼らに罵声を浴びせた。


「オラオラ! いっつも良い思いしてるくせにどうした!」

「この能無しの税金泥棒が!」

「アタシたちにはデカイ態度取っといて、強い娘には手が出せないの!?」

「おいおい、さっさと嬢ちゃんに謝った方が身のためなんじゃねぇのか?」


 そういう言葉は私にかけて欲しいんだけどな。

 魔族というのは、相手から(さげす)まれるのを好む。

 忌み嫌らわれるのはもっと好む。


 などと考えていると、ユーリアが私の顔をなめた。


「まだちょっと傷が残っていました。で、でもこれで元に戻りましたよ」


「あら、ありがと」


 私は握っている剣を見た。

 これにも赤黒いオーラが漂っている。

 切れ味が増していたりして。

 まあ、ちょうどいい試し斬りの相手が四人もいるから確認できる。


 私は騎士団に言った。


「さっきまでの勢いはどうしたの? そっちが来ないなら私から攻撃するけど?」


「ふざけるな! 貴様が聖女であってたまるか! すぐに後悔させてやる!」


「ユーリア」


「はい、何でしょう?」


「あなたは、あの二人の子どものそばにいなさい」


「で、でも、それじゃオシブさんが」


「私は平気よ。それより、あなたはあの子どもたちを守りなさい」


「やっぱりオシブさんって優しいんですね」


「――か、勘違いしないでよね! そ、そろそろ幼い子どもの血が欲しいだけよ」


「はいはい。そういうことにしておきます」


 ユーリアは意地悪な笑みをして、二人の所へ飛んで行った。

 ふーん、彼女も結構魔族みたいな表情をするじゃない。


「うわぁ。おっきなコウモリさんだ」

「かわいいね」


「ちょっとやめてください! こ、コラ、頬を引っ張らないで」


 子どもと戯れているユーリアの血は、きっと特別な味がするのだろう。

 騎士団に視線を戻すと、彼らは再び呪文を唱えていた。

 そして手から光を発生させた。

 私は剣で防ごうと構えた。


 しかし。


「うぎゃああああああ!」

「ひいいいいぃぃぃぃ!」

「痛いいいいぃぃぃぃ!」

「脚が脚があああああ!」


 騎士団は光の玉を、私ではなく野次馬に飛ばした。

 道の左右にそれぞれ飛んだそれは、大爆発をおこした。

 土煙が晴れると、2つの死体の山ができあがっていた。


 隊長は勝ち誇った風に、私に言った。


「これで邪魔物はいなくなった」


「何も殺すことはないんじゃないの?」


「ほざけ。私は名誉ある王国騎士団だぞ。奴らのような負け組とは違うのだ」


 部下も続いた。


「その通り。我らは超エリート部隊」

「底辺でめもが! 我らを愚弄してただですむと思うな」

「全く身の程をわきまえてほしいわね」


 私は髪を払った。


「困るのよねぇ。お腹が空いたら、彼らの血を吸おうと思っていたのに。私の所有物を勝手に殺さないで」


「ふん、本性を表したな魔族め! そんな偽のスキルで我ら騎士団に勝てると思うなよ! 今度こそトドメをさしてやる!」


 そう言うや否や、四つの玉が飛んできた。

 避けることもできたが、それをするとユーリアたちが危ない。

 彼女は翼を広げて、子どもを守ろうとしているが、やはり心もとない。


「忌々しい神々の光よ! 消えてしまいなさい!」


 やけくそになって怒鳴ってしまった。

 すると光は、目の前で止まってしまった。


「なななななにににいいいぃぃぃぃぃぃ!?」


「あらあら、どうなっているのかしら?」


 騎士団はアホ面で固まり、私は首を傾げた。

 するとユーリアが声をかけた。


「血液の波動の効果です。ほ、ほらよく見てください」


 彼女の言うとおり目を凝らすと、玉には赤黒い炎のような物におおわれていた。


 やがて白かった玉は完全に赤黒に染まってしまった。

 そして小さくなり、霧となって消えてしまった。


「あり得んあり得んあり得ん! 認めんぞ!」


 騎士団は二方向に玉を撃ってきた。

 私と、ユーリアにだ。


「チッ。厄介ね」


 私は、自分に飛んでくる玉に手を突き出した。

 すると手から赤黒いオーラが、濁流のように玉めがけて飛んでいった。

 オーラに包まれた玉は消滅する。


 しかしユーリアの方は間に合いそうになかった。

 彼女と子どもらは目を閉じた。

 私は、相手に剣を投げようとしたけど、次々と飛んでくる玉のせいで、投げることができない。


「このダメスキル! もっと役に立ちなさい!」


 すると剣から血が吹き出した。

 やがて剣は赤黒い霧に変化した。

 さらに今度は無数のコウモリへとなった。

 コウモリの群れは、ユーリアの前で羽ばたいた。


 直後に玉が群れに直撃した。


「ユーリア!?」


「大丈夫です!」

「うわぁ。ちいさなコウモリさんがたくさんとんでるよ」

「すごいすごい。こっちにきてー」


「フフ、無事で何よりだわ」


 彼女たちを守っていたコウモリの群れは、私の方へと飛んできた。


「ああ、ちょっと困るわねぇ。ユーリアが危険にさらされると戦いに集中できないのよ。私はいいから彼女たちの所へ行って」


 すると群れは指示どおり、再びユーリアたちにまとわり付いてくれた。


 さて、これで敵に専念できるな。

 騎士団を見ると腰をぬかしていた。


「や、やはりアイツは……せ、聖女なんじゃないのか?」

「だとしたら俺たちは天罰を受けるぞ」

「イヤ! 私まだ死にたくない!」


 いい反応だ。

 相手のおびえた態度がたまらない。

 それでこそ殺しがいがあるというもの。


 隊長は首を左右に何度も振っていた。


「おぉぉ、おぉぉ。お、俺は……こ、こ、こ、こんなところで、し、し、し、死んでいい人間ではない!」


「……だったら命がけで抵抗するのね」


「へ?」

「き、消えただと?」

「隊長! 吸血鬼は何処です!?」

「う、上!? 違う、右!? ひ、左? まさか後ろ! ど、何処にもいない? もう何処にいるのよ!」


「あなたたちの前にいるわよ」


「なんだと! ワープしたのか?」


「いえ普通に歩いて来ただけよ」


 本当に見えなかったのか?

 私は一時的に透明になれるのか。

 いや私にそんな能力はない。

 盗賊の時はちょっと走っただけだから、まだ話はわかる。

 けれど今回は理解できない。


 これも血液の波動の影響なのかしら?


「ウソだ! ウソだ!」

「姿が消えてたぞ!」

「ああ、ごめんなさい聖女様。ど、どうか私だけでもゆるして……」


「ああ! きたねぇぞ!」

「いやここは俺を見逃してもらおう」

「何よ! あんた達は年上でしょ! 私はまだ若いの! まだこれからなの!」


 部下三人の漫才をもう少し見ていたかったけど、背後からの殺気が鬱陶(うっとう)しくてそれどころではなかった。


 カキィィィィィィンンンン!


「馬鹿な! 銀製だぞ!」


 乾いた音と、隊長の声が響いた。

 彼の剣が真っ二つになったのだ。

 私が手を後ろにやったら、そこへ剣が振ってきたのだ。

 手からは赤黒い無数のコウモリが吹き出ていて、それらは剣を持っていた者にまとわり付いた。


「クソ! 何だこれは!」


「どうやら私の血液みたいね、隊長さん」


「貴様のような魔族が、血液の波動を使えるはずがない!」


「そうね。まだ使いなれていないわ、全然」


 私はコウモリで動けなくなった隊長を持ち上げた。


「お、おい貴様! 何をするつもりだ!」


「何って、おしおきよ」


「止めろ貴様! さっさと下ろしやがれ!」


「安心なさい。メイドから殺すと冒険者になれないって聞いたから」


「おいお前ら! 早く俺を助けろ!」


 三人の視線が私に集まった。

 だから睨み付けてあげた。


「ひぃぃぃぃぃぃぃ!」

「お、お助けぇぇぇ!」

「お願い、命だけは!」


「クソ! 約立たずが! いやとにかく貴様、早く下ろしやがれ! いや、下ろしてください! お願いします! 何でもしますから!」


「心配しないで。あなたを片付けたら、お仲間もしっかり遊んであげるから」


 私は隊長をブンブン振り回した。


「ぎゃあああああああ! 目が回るぅぅぅぅぅぅ!」


「さあ、お空のお散歩を楽しんでらっしゃい!」


 彼を真上に投げ飛ばした。


「ぎゃあああああああ! 高い高い高い高い……い、家があんなに小さい! 街が米粒みたいに小さい! ぎゃあああああああ! 落ちる落ちる落ちる落ちる落ちるおちるおちるおちるおちるおちる! ――お母ちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!」


「はい、お帰りなさい。楽しかった?」


 私に受け止められた隊長は、白目を向いて口から泡をブクブク吹いていた。


「さて、それじゃ残りをやりますか」


「ひっ」


 三人同時に白目を向いて倒れた。


「何よ、これからだっていうのに。つまらないわね。そうだわ、四人を棺桶に入れてあげましょう。私一人用だっていうけど、その身体を小さく折り畳んであげれば、余裕で入れられるわね」


「そんな残酷な事はしないで頂きたいな、吸血鬼よ」


 凛とした声がした。

 すると酒場から女が一人出てきた。


「横暴とはいえ、彼らは私の部下だ。勝手な真似をされてるのであれば、見過ごせぬな」


 彼女も鎧を着ている。

 私は髪を払って腕組みをした。


「あら、嫌だわ。ずっと出入口にいたんだけど、いつの間に中へ入ったの?」


「すまんな。裏口を使わせてもらったよ」


「ふーん。あなたが親玉? だったら殺し合いをしましょうか」


「待ってくれ! もうこれ以上、戦うのはやめてくれ!」


 彼女の後ろからアンリが現れた。

 両腕を後ろに回している。

 縛られているのかしら?


「あら、人質? 嫌いじゃないわ。勝つために手段を選ばないって」


 すると女はムッとして言った。


「誤解するな。そのような騎士道に反する事など出来るか!」


「この四人はずいぶん無駄な殺しをしていたけど?」


「それについては謝罪しよう。もちろん遺族の方々にもだ」


 彼女からは殺気が感じられないから、私は肩の力を抜いた。

 すると私をまとっていたオーラは徐々に消えていった。


 ある程度の制御はできるようになった、と考えていいのかしら?


 振り向くと、他の騎士たちが二人の子どもを保護していた。

 ユーリアは、私の胸に飛び込んできた。


「オシブさぁぁぁぁぁぁんんんんん! カッコよかったですよぉぉぉぉぉ!」


「汚いわね! 服に鼻水がついちゃったじゃない!」


「ごぉめぇんなぁさぁいぃぃぃぃぃ!」


「はいはい良い子良い子。だから、もう泣かない」


 私たちが戯れているのを見ていた女は少し笑った。


「仲むつまじいのは結構だが、話がある。中へ来てもらおう」


「……断ったらアンリを殺すのね?」


「彼の生死は君しだいだ」


「わかった、わかったわ。降参してあげる。だから、ゆっくり話しましょ」

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