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13 痴漢撃退

 鎧を着た男が三人いた。

 彼らは扉付近で突っ立っている。

 その中の中央にいる男が言った。


「ここにいるのはわかっているんだぞ! 無駄な抵抗は止め速やかに投降しろ!」


 アンリは椅子から立ち上がった。

 さっきまでの笑顔は消え、真剣な表情に変わっている。

 彼女は、私を見て小声で言った。


「短い間だったけど、ありがとう。楽しかったよ」


「待ちなさい。まだあなたの血を吸っていないわ」


「……あ、あはは。も、もうすぐ処刑されるから、そこで流れた血で我慢してくれ」


「ダメよ。そんなの美味しくないんだから。生きている状態で血が吸いたいの」


「諦めてくれ。命令は絶対なんだ」


「ゆるさないわ。逃げるなら死んでもらうわよ」


 するとメイドが私の肩を掴んだ。


「やめてください。仕方ないんです。このままだと――」


「何をモタモタしているんだ! 隠れても無駄だぞ!」


 三人の男は酒場の奥へ進んできた。

 彼らは私たちに気付き、こちらへやって来る。


「やはりここにいたか、アンリ」

「大変な事をしてくれたな」

「今すぐ刑を執行する。首を出せ」


 目の前まで来た彼らは、近くにあった椅子を手繰り寄せて座った。

 腕と脚を組んで、こちらを睨み付ける。


 アンリは彼らの前にひざまずいた。

 彼女の身体は震えている。

 鎧の金属の乾いた音が響く。


 私はアンリの横まで行って、彼の頭をなでた。


「き、キミ?」


 私は三人に言った。


「アンリは私の食料なの。彼女――じゃなかった彼の処分は私にさせてくれないかしら」


 すると三人は腹を抱えて笑った。


「アーハッハッハ! 何だコイツは? 俺たち王国騎士団に楯突こうってのかい?」

「クフフ、可笑しな事を言うお嬢さんだ。その可愛さに免じて今回はゆるしてやろう、クフフ」

「ガハハ! 笑わせるなよ、女! そいつは聖なる城門を閉め忘れたんだぞ。おかげで魔物が入ってきたんだ。死んで償ってもらうのが筋だぜ」


「それ開けたの私なの」


 さらに笑われた。


「んなわけがあるか! あれは女神に選ばれた者しか開け閉めできねぇんだぞ!」

「つくならもう少しマシな嘘を言ってほしいね」

「ったく、お前みたいな美少女はこうだ!」


「――きゃあ!?」


 男の手が、私のお尻にふれたのだ。

 その手は素早く真下へ行き、さらに前をさわったのだった。

 一連の動作を一瞬にしておこなわれたのだ。


 さわった男は嬉しそうにしている。

 その手を鼻に近付ける。


「すぅ~はぁ~すぅ~はぁ~。いい匂いだ。お前、処女だな! 間違いねぇ! 賭けてもいい!」

「相変わらずスケベな奴だな。しかし処女なら話は別だ。俺も遊ばせろよ」

「おい娘! 嫌がるんじゃねぇぞ! 男ってのはなぁ、いつも仕事で疲れているんだ! そんな一生懸命働く男を癒してやるのが女の役目だ!」

「そうそう。最近の女はちょっと触っただけで、騒ぎだすから酷いもんだ。我慢が無さすぎる」

「そもそも男に触られる事で、女は美しさを増すんだ。本来なら感謝しなければいけない」

「――というわけでもう一回!」


 お尻をさわった男は、今度は胸に手を伸ばしてきた。


 ――ガシッ!


 私は、その手を掴む。

 男は不機嫌そうに言った。


「おいおい、抵抗すんじゃねぇよ。おとなしくしねぇと、公務執行妨害でお前もアンリ同様処刑しちまうぞ。ギャハハ!」


「ま、待ってくれ! 彼女は悪くない! 殺すのはボクだけ――」


 アンリが叫んだから彼女の頭を、掴んでないほうの手でなでてあげた。

 そして出来るだけ笑顔で男に言った。


「私、魔界じゃブスだったけど、それでも身体目当ての男というのは多かったわ」


「おいおい謙遜(けんそん)大概(たいがい)にしな!」

「お前がブスなら、この世界の女は全員ブスになっちまうぜ」

「そんな事言っても駄目だぞ。次は俺がお前を犯すんだからな!」


「魔界の男よりもあんたの動きは素早かったわ。この私のお尻や……い、いろんな……所をさわったんだから。そこは褒めてあげる」


「グヘヘ。じゃあ褒美にお前のおっぱい揉ませろや!」


「――ふん!」


 私は手をぐるっと回した。

 腕伝いに男も回転し、床へと派手に叩き付けられた。


「いてぇぇ! いてぇぇよぉぉぉ! お、俺の腕がぁぁぁぁ!」

「……ひ、ひでぇ。あ、あり得ねぇ方向に曲がってる……」

「ち、ちくしょう! このクソアマ!」


 のたうち回る男と、剣を抜いた二人。

 私は髪をかきあげて、腕組みをした。


「殺されなかっただけでも感謝してほしいわね。魔界だったら、身体を狙った男は全員殺してきたのだから」


 するとアンリは悲しそうな声で言った。


「そ、それじゃボクも殺されるべきだよね。キミの身体を馴れ馴れしくさわっちゃったんだから……」


「あなたは特別よ。あとで血をいただくんだから、大切にするわ」


 だってあなたは女の子だし。

 女の血は美味しい。

 乱暴にしたら味が落ちる。


 アンリの顔は真っ赤のなり、笑顔に変わった。


「ぼ、ボクのことをそんな風に考えていたのかい? す、すごく嬉しい。ボクは逃げも隠れもしないから、好きにしておくれ!」


 何でそんな反応をするんだ?

 殺すんだぞ?

 もっと嫌がってくれないとつまらないだろ。


「おい! よそ見してんじゃねぇぞ!」

「俺たち王国騎士団に逆らって楽に死ねると思うなよ!」


 二人が襲ってきた。

 だから左の人差し指で応戦しようとした。


 ――ところが。


「やめておけ! 貴様らが敵う相手ではない」


 声がした方に目を向けると、入り口に男が立っていた。

 三人と同じ銀色の鎧を着ている。


 その男もこちらへやって来た。

 彼の後ろには、さらに三人いる。

 男が二人、女がひとり。

 部下だろうか?


 彼は言った。


「今のお前たちの装備では返り討ちにあうぞ。死にたくないなら、さっさと行け!」


「た、隊長」

「わざわざ隊長が出るまでもありませんぜ」


「私の命令が聞けぬか?」


「ひっ」

「も、申し訳ございません」


 二人は、腕が曲がった男を担いで、酒場から出ていった。


 隊長と呼ばれた男がその光景を見ていたが、やがて私に話しかけてきた。


「さて娘。貴様は吸血鬼だな?」


「ええ、そうよ。だったらどうする?」


「知れた事、ここで貴様を殺す」


「その殺気たまらないわ。いいわよ、かかっておいで」


 オオカミほどではないが、背は高い。

 長い金髪を襟元(えりもと)でまとめている。

 整った顔立ちで、酒場にいる女たちがキャーキャー騒いでいた。

 人間界ではああいうのがイケメンなのか?


「ふん、あんな下っ腹を倒したぐらいで、いい気になるなよ。私はこれまで数多くの吸血鬼を退治してきたのだからな」


「ふーん。天敵なのね」


 もしかしたら死ぬかもしれないけど、あまり怖くはなかった。

 別に血液の波動があるからじゃない。

 あのスキルは頼りない。


 恐れを感じない理由は単純。

 強い奴と殺し合いができるからだ。

 魔族とは好戦的な種族なのだ。


 ――と、あることに気付いた。

 いつの間にか、血液の波動はおさまっていたのだ。

 メイドがペペロンチーノを片付けていたのね。


「ま、些細なことだわ。私が殺すか、私が殺されるかの、ふたつにひとつなのだから!」


 隊長は後ろにいる部下と思われる三人に言った。


「おい。銀製の剣を用意しろ。それと聖水と棺桶だ」


「はっ」

「直ちに」

「頑張ってください、隊長」


 するとユーリアが声を出した。


「やめてください! オシブさんは吸血鬼ですが悪い人ではありません!」


 隊長の整った顔が少し崩れた。


「何だ! この気持ち悪い生き物は! お前たち、さっさと始末しろ!」


「なに言ってるの。不気味なのはあなたのほうでしょ」


 私は椅子に座り、脚と腕を組んで言った。


「……何だとう?」


 彼の頭に血管がふくれていく。

 すると今度はメイドが言った。


「待ってください。彼女はSランクの強さを持っているんです。きっとこの街を救ってくれますよ」


「所詮、冒険者ギルドごときでしか働けない知能だな。その吸血鬼が魔物を引き寄せたとは思わんのか?」


 嬉しいこと言ってくれるわね。

 そうそう、全ての諸悪の根源は私。

 災いの責任は私になすり付けなさい。

 みんなから恨まれるのは魔族のステータス。


「違うよ、彼女は悪くない! もとはと言えばボクが閉め忘れたのがいけないんだ」


 せっかく喜んでいたのに、アンリに水をさされた。

 だから、あれを開けたのは私だって言ってるでしょうが。


「貴様か! 約立たずの能無し門番は! 安心しろ。吸血鬼を片付けたら次は貴様だ!」


「いいえ! オシブさんは良い人です!」

「水晶壊したんですよ! 隊長さんより強いですよ!」

「や、やっぱりボクが戦うよ。キミを危険な目にはあわせられない」


「あのねぇアンリ。あなたは私のごはんなの。わかる? 食べ物を危ない所に置いたらダメでしょ? わかったら、さっさとあっちに行く」


 隊長は、目が飛び出そうなほど怒っていた。

 無視されたのが、よほど悲しかったのだろう。

 すると部下のひとりが棺桶を引きずってきた。


 隊長は落ち着きを取り戻した。

 そして部下からもらった武器を装備する。

 彼は鼻で笑う。


「ふん。これは貴様を入れてやる棺桶だ」


「あら、嬉しいわね。それで寝るとすっきりするわね」


「吸血鬼の死体は、放置しておくと疫病の原因になるからな。だからこれに入れて燃やしてやる」


「なに勘違いしてるの。その棺桶に入るのはあなたよ」


「――き、貴様ぁ。……ふ、ふん。ま、まあいい。偉そうにしていられるのも今のうちだぞ」


 彼は剣を抜いた。

 私は椅子から立った。


「おい吸血鬼。頭大丈夫か? 貴様の弱点を用意しているんだぞ」


「へぇ、そうなの」


 用意されたのは弱点だったのか。

 剣と腰に下げたビンが。


 などと考えていると、ユーリアが肩にとまった。


「あの剣は気を付けてください。彼が言ったとおり銀製です」


「それも弱点なのね?」


「はい、銀で作られた物にふれると身体が崩壊します。それに彼の腰に下げられたビン」


 私はそれをチラッと見た。


「あの中身はおそらく聖水です。かけられると太陽の時と同様、身体が燃えてしまいます」


 ビンはキラリと光った。

 私の背筋は冷たさを感じた。

 寒気というやつか。


「アドバイスありがと。あなたは下がってなさい」


「嫌です。わたしは従者です。ご主人様と一緒にいます!」


 ユーリアを見た。

 紫色の瞳がうるんでいる。

 私と離れるのが本当に嫌なのだろう。


 彼女ははっきり言って戦力にならない。

 彼女の『なめる』という治療は、戦闘中では効率が悪すぎる。

 それに身体も弱く盾代わりにもならないだろう。


 しかし嫌ではなかった。

 自由を愛し束縛を憎む私にとって、相棒など不要だと思っていた。


 でも今は。

 敵じゃないなら別にいてもいいか、と思えるようになっていた。


「……私って人間界に来て少し丸くなったのかしら?」


「どうかしましたか、オシブさん?」


「何でもないわ……いいわね、足を引っ張ったら殺すわよ」


「はい!」


「あとメイドとアンリ。あなたたちは水晶があった部屋にでも隠れてなさい。邪魔だから」


「お店のことは気になさらず。修理代はあとで騎士団からぶんどりますから」

「し、死なないでね。ボクを殺すまで死んだらヤダよ」

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