10 冒険者ギルド
「入ってもいいですよ、オシブさん」
「ありがと」
先に建物に入ったユーリアが言ったので、私も中に入った。
全く招かれないといけないなんて不便な制約だ。
私たちが入ったのは、冒険者ギルドと呼ばれている建物。
メイドに案内されて、ついて来たのだ。
「あれが獣人ですか。それにドワーフやエルフもいますね」
ユーリアが嬉しそうに言った。
部屋の中――酒場と言ったほうがいいな、そこには大勢の者がいた。
全員、私を見ている。
敵意……は向けられて無いようだ。
私は軽く髪を払った。
「ウッヒョ~! すっげぇカワイイ女の子が来たじゃねぇか!」
「うわ~。スタイル良くてうらやましいわ」
「ウヒヒ。見えそうで見えないミニスカートがたまんね〜な〜」
「黒ストッキングにガーターベルトなんて無敵じゃねーか! 最高だぜ!」
「上着でわかんなかったのじゃが、その下はもしやノースリーブではないのか? 若い娘の腋は香ばしい香りなはずじゃ」
「見ろ見ろ! 歩くたびに、おっぱいがブルって揺れていやがるぜ――いてて!」
「このスケベ! あたしって彼女がいるでしょ! あんな……あんな小娘のどこがいいの!」
「いいね~。エルフの娘か」
挑発……ではないようだ。
皆の声色から考えて、私に好意的な印象だ。
エルフと間違われたのは不愉快だが、それよりも疑問がある。
私ってそんなに見た目が良いのか?
魔界ではブスと罵られていたのに。
いくら人間界と魔界で美醜の価値観が異なるとしても、私が皆から喜ばれる女なわけはないだろう。
ユーリアが、私の肩に止まった。
「大評判ですね」
「お世辞でしょ」
「そんなことないですよ。同じ女として、オシブさんはすごい美少女です」
「魔界にいた時は、挑発でそんなこと言われたりはしたわ。でも本心じゃないのよ」
「いいなぁ。オシブさん脚が長いし、胸の形は良いし、それに何より顔がキレイだし。ああもう、憧れちゃうなぁ」
「こんな女みたいになっても、ロクなことにならないわよ…」
ユーリアは、私の顔と胸を交互に見ていた。
私を憧れるなんて、あまりいい趣味じゃないわね。
彼女といい、他の連中といい。
私なんて醜い女よ。
魔界に行けば、もっと良い女がたくさんいるわ。
私たちを案内したメイドは、カウンターにいた。
彼女は言った。
「お姉さんすごく強いから、きっと高ランク冒険者なんですよね?」
「何それ? そんなの知らないわ」
「またまたご冗談を」
メイドは口を大きく開けて笑った。
すると隣にいたユーリアが私に言った。
「オシブさん、もしかして冒険者をご存知ないんですか?」
「うん」
メイドは、今度は目を大きく見開いた。
「うわぁ、なにそのコウモリ? 使い魔なの? これはやっぱり貴女ただ者じゃないですね」
「違うわよ。ユーリアは私の……そうね……妹みたいなものかしら」
「ええ!? 本当ですかオシブさん!? わたしなんかを家族と思ってくれてたんですか! す、すっごく嬉しいです!」
「こら! 抱き付くんじゃない!」
私たちがじゃれついていると、メイドは続けた。
「使い魔か……ってことは貴女は魔法使いなのよね」
ユーリアの頭を撫でながら答えた。
「残念だけど魔法は全然使えないのよ」
「嘘? だって使い魔を使役しているじゃないですか」
「どっちかっていうと非常食ね。味の期待はしてないけど」
メイドは首を傾げた。
妹の自分はきっと美味しい、と言っているユーリアを私は無視した。
「んん? よくわかんないけど、まあホラ。取りあえずランクでも測定してみましょうか」
「つまり戦闘力を調べるってわけね。いいわよ」
メイドは、カウンターの後ろにある扉を開けた。
私たちはそこへ案内される。
部屋の中には大きな水晶が浮いていた。
真下には魔法陣がある。
メイドは嬉しそうに言った。
「その水晶に手を当ててみてください。そうしたらランクの文字が現れるんですよ」
「ふーん」
「貴女はきっと『B』いえ『A』ランクじゃないかしら?」
「意味がわからないわ」
するとユーリアが言った。
「説明しますね。ランクというのは冒険者の強さのことです。一番弱い人が『F』その次が『E』次が『D』ここまでは初級冒険者です」
「あっそ」
私は両手を、頭の後ろで組んで聞いた。
「中級は『C』そして『B』です。その次が上級である『A』になるんですよ」
「やっぱり上にいくと待遇が違うのね?」
私が聞くと、今度はメイドが言ってきた。
顔が近い。
「もちろん! Aランクの報酬はBの倍もあるんですよ!」
「つまりBで五人の生きた獲物なのに比べて、Aは十人もいただけるのね。フフ、面白そうだわ」
「んんん??? よ、よくわかりませんが、貴女も冒険者登録するってことですよね?」
「いいわよ、やってあげるわ。あの水晶をさわればいいのね」
「がんばってください。わたしはFだったんですけど、オシブさんならきっとAランクですよ」
ユーリアに目を合わせて、ウインクしてあげた。
すると彼女は頬を赤らめてしまった。
? 私の視線に攻撃力でもあったのか?
これからは気をつけよう。
私は気持ちを切り替えて水晶をさわろうとした。
とその時だ。
「城門が開いたって聞いたんだけど、本当かい?」
甲高い声が部屋に響いた。
振り返ると人間がひとり立っていた。
短い金髪で鎧を着ていた。
騎士というやつかな?
少女――いや少年か。
人間だった頃のユーリアより少し年上の印象だった。
少年の問いにメイドが答えた。
「デカいヘビが侵入したんですよ」
「そ、そんな」
「でも安心してください。そこのキレイなお姉さんが倒したんだ
ですって」
「ええ!? き、キミがかい?」
「そうよ」
私は髪をかきあげ、腕組みをした。
彼の青い目は揺れている。
頬も赤くなった。
ユーリアの時もそうだったけど、無意識のうちに攻撃しているのかな?
すると彼は、顔を横に振って、両手で頬をパンパンと叩いた。
そして背筋を伸ばし、頭を下げた。
「ありがとう。ボクはアンリ。おかげで助かったよ。ボクの失態で魔物を街に入れたのに、それをやっつけちゃうなんて。なんてお礼をしたらいいのか」
「お礼なんていらないわ。それに門を開けたのは私だから」
「いいんだよ。罪をかぶらなくても。門番であるボクが、ちゃんと確認しなかったのがいけないんだから」
「いえ、だからあの門はしっかり閉められていたわ。それを私が無理矢理開けたのよ」
「大丈夫、大丈夫。キミには何にも責任はないんだから。ウソなんて言わなくていいんだよ」
完全に誤解されているな。
門を開けるなんて悪い奴だな、と罵声を受けたかったのに。
この街の住民はやはりおかしい。
早く出ていったほうが良さそうだ。
私は部屋から出ようとした。
するとメイドに呼び止められた。
「ちょっと貴女。まだ登録はすんでいませんよ」
「もういいわ。やっぱりやめる。ごめんなさいね」
「はっはーん。初めてだから怖いんですね? まあ、無理もありません。触った途端、電撃を受けるんじゃないかって思いますよね」
何でそうなるのよ。
吸血鬼が落雷くらいで死ぬか。
それに、冒険者なんて別に興味ないんだけど。
しかしメイドは腕組みをしてニヤニヤ笑っている。
こいつも誤解しているな。
するとアンリが言った。
「キミ初めてなのかい? じゃあボクがお手本を見せるよ」
「なになに。カワイイ娘がいるからって、良いところ見せようっていうんですか?」
「う、うるさいなぁ。き、キミはさっさと受付に戻れよぉ」
「あの娘の冒険者登録が済んだら行きますよ」
そう言うとメイドは私の横に来た。
そして耳元で小声で喋る。
「あの子って男に見えるでしょう? でもね、ここだけの話。実は女の子なんですよ」
「ふーん。そうなんだ。嫌いじゃないわよ、そういうの」
だって男より、女のほうが血は美味しいんだから。
男装騎士は水晶にふれた。
すると青色だった水晶は、赤色へと変わった。
さらに文字が現れた。
「人間界の文字はわからないわ。ユーリア、あれ何て書いてるの?」
「はい。『B』と表示しています」
少年のふりをしている少女アンリは、こちらに振り向いた。
白い歯を輝かせる笑顔をしている。
「どうだい簡単だろ」
「仕方ないわね。あなたの顔を立てるために、さわってあげるわ」
秘密を知ってしまったのだ。
借りは作らないことにしている。
もし作ってしまったら、すぐに返す、それが私の主義だ。
「ええ! ぼ、ぼぼぼ、ぼ、ボクなんかのために?」
金髪碧眼のアンリは、今度は顔中が真っ赤になった。
そして床に倒れてしまったのだ。
すぐにメイドが介抱してやる。
「ちょっと彼女――じゃなくて彼は無事なの」
「へーきへーき。貴女ってすごい美少女だから興奮しちゃったんですよ。身体は女でも心は男なんですよ」
意味がわからない。
さっさと登録とやらを終わらせて、街を出よう。
私は水晶にさわった。
「……何も起きないわ」
「嘘? 赤ちゃんが触っても『F』って出るのに」
「……大人で『F』って出たらかなり恥ずかしいわね」
「オシブさん。水晶に反応があります」
飛んでいたユーリアが肩に止まった。
青かった水晶が赤色に変わった。
そして紫、緑、黄色に茶色とどんどん変わっていく。
水晶は真っ黒になった。
暗黒を思わせる色だ。
そこから稲妻が現れる。
さらに部屋全体が揺れた。
メイドが悲鳴を上げる。
「きゃあ! ちょっと、ちょっと、どうなってるのよ!」
「き、キミ! 早く水晶から離れるんだ!」
起き上がったアンリも叫んだ。
ユーリアは私にしがみついている。
彼女の表情は酷くおびえていた。
「ひっ、怖いです」
「そうなの?」
こんなの魔界じゃ日常茶飯事なんだけど。
人間界の住民というのは、巨大な門を造れる技術は優れていても、精神面は未熟なのだな。
などと生意気なことを考えていると。
バァリリリリィィィィィンンンンンン!!!
ド派手な音を立てて、水晶は木っ端微塵に砕け散った。
たださわっただけなのに、どうして壊れたんだ?
手のひらをつけたのがダメだったのか?
小指だけでさわったほうが良かったか。
「あらら。ごめんなさいね」
すると、部屋の奥まで吹き飛んでいたメイドが言った。
「ま、まさか? 貴女って『S』ランクなんですか?」




