4.本格的に迷いこんだわ
木は一段と高くなり、鬱蒼としてきた。
薄霧も出ていて、視界はすこぶる悪い。
気温も下がり、とても7月上旬とは思えない。
「さ、さむい・・・」
三葉は半袖で剥き出しになっている腕を自分で擦りながら震えていた。
ジーパンとブーツカットなのが唯一の救いだ。
優一と深雪は共に、三葉と同じような格好の上に、上着を着ている。
三葉はハーフパンツで行こうとしていたが、それは優一と深雪に頭を叩かれて止められた。
「でも、確かに山の中とは言え、気温が下がりすぎじゃない?」
深雪は震える三葉を横目に、同じように軽く腕を擦った。
「霧が出てるしな。それに、ここが本当にあの『未踏の地』ならば、すでに常識は通用しないと考えた方がいいだろう」
優一はそう言って、口端をわずかに上げた。
「まったく。なんなのよ。その漫画みたいな設定は・・・ていうか、優一。あんたはなんでそんなに嬉しそうなわけ?」
深雪はやれやれと言った感じでため息をついた。
「いや、にわかには信じがたかったが、実際に自分がこんな都市伝説に出くわすとは、と思ってな。実際に体験してみると、本人には何も分からないものなんだな。ネットやらなんやらで、なんでも答えが分かるこの時代に、こんな体験は非常に貴重だ。好奇心を刺激されずにはいられない」
優一は珍しく、目を輝かせながらそう語った。
「そうだよな!それで、『俺たちの壮大な冒険はここから始まった!』みたいな感じでタイトルコールバーン!だよな!」
「そうそう。それで俺たちが特殊な能力に目覚め、魔物と異能のバトルワールドに突入だな」
「・・・やれやれ、これだから戦闘脳の男どもは・・・」
ワイワイ盛り上がっている男子二人を尻目に、深雪は樹海を進んでいった。
『まあ、その場合、この中の誰が瀕死の重傷を負うか、殺されたりするのも定番なんだけどな。
ま、ありきたりすぎるか』
三葉と設定話をしながら、優一はそんなことを考えながら深雪の後を追った。
「それにしても寒い。寒すぎる」
「あ。三葉。あんたの上着もリュックの中に入れてあるからね」
「え!?ありがとう!でも、もっと早く言ってくれるかな!?」