2.迷いこんだのはどこですか?
「で。ここは本当にどの辺りなのかしら
日の位置からして、山の北東部なのは分かるけど」
深雪がペットボトルの水を飲みながら言った。
「ああ。俺もそれを目標に当たりを付けてたから、本当に、あともう少しだとは思うんだけど」
三葉が滴る汗をシャツの袖で拭いながら言った。
「やっぱり、相当大まかな目算だったんだな。
まあ、学校の屋上から市販の双眼鏡でそこまで分かるのがすごいが」
優一はやれやれと首を振りながら呟いてから、
「で、そのミステリーサークルとやらは、どのくらいの大きさだったんだ?」
と、三葉に尋ねた。
「んー。これぐらい?」
三葉は少し考える仕草をしたあと、左手の親指で人差し指で『コ』の字型を作った。
「・・・具体的な大きさを聞いたんだが・・・」
「優一。あんた、今さら三葉に何を期待してるの」
「いや、せめて『5cmぐらい』とか言われるもんだと思って」
「だって、三葉だよ?」
「それもそうだが・・・」
「でも、学校の屋上からの1kmで、あの大きさなら、100メートル以上あるんじゃない?」
「確かにな。それなら、俺ら以外にも気付いてる人がいて、騒ぎになっていてもおかしくないはずなんだが」
「でも、気付いたの三葉だよ?」
「・・・確かにな」
「・・・」
二人が話し合っているあいだ、三葉の指はずっと『コ』の字型だった。
「でも、それだと山が見えなくなるのはおかしいわよ。
御倉山は、樹海のどこから見ても見えるようになってるはずでしょ!」
一歩先を歩いていた深雪が、両手を挙げて振り向きながら言った。
「・・・確かに・・・これはいよいよミステリーサークルの出番か!」
不可思議現象に三葉が目を輝かせた、ら、
「「調子に乗るな!」」
二人に頭を叩かれた。
「だが、印を付けておいた木々には一本も遭遇してない所を見ると、同じ所をぐるぐる回ってるわけではなさそうだし・・・これは、あの『未踏の地』に迷い込んだか・・・」
「にわかには信じがたいけど・・・私も、大きく迂回した木にはリボンを結んできたけど、遭遇してないしね」
「ああ」
優一と深雪の会話を、三葉はポカンと見つめていた。
『こいつら。俺がテンション上がってガンガン進んでる間にそんなことを!?』
「そ、そうだな!まあ、俺はそれを確認しながら進んでいたわけだが・・・!」
「でも、振り向いても、印とかリボンがある木が見当たらないのよね。
さっき試しに、リボンを結んだ木が見えなくなる所を曲がったあと、振り返ってちょっと戻ってみたけど、もうその木が分からなくなってた」
「・・・」
「ああ。俺も見てた。俺たち全員の視界から消えた瞬間になくなるイメージが近いだろう」
「俺も・・・!」
「やっぱり。これは完全に『未踏の地』に迷い込んだわね」
「・・・」
「だとすると、かなり厄介だな。
噂でだが、脱出は非常に困難だと聞く」
「・・・その通り!」
「私も聞いたことがあるわ。時間の流れも違うから、ここでの1ヶ月が1日にも、1日が1ヶ月にも感じられるって。」
「・・・そう・・・そして、こここそがその・・・!」
「ああ。おそらく磁場が非常に強いのも関係するのだろう。すでに方位磁石は意味を為していないしな」
「・・・」
「ええ。
まあ、極限状態の人の精神なんて当てにならないけど」
「・・・」
「ああ。そうだな」
「・・・」
「あ、三葉。気が済んだら、アンタのリュックに入れといた予備のリボン出して。私のカバンに入れてきた分、なくなっちゃった」
「・・・はい」
二人に散々無視された三葉は、いつの間にか入れられていたリボンの束を自分のリュックから出し、深雪に渡した。