「星の使徒、星の意図」
少し短めですが、どうぞお楽しみください。
筆者、本気の仕掛けです。
ステラ・フリークスによるデジタルアルバム発売の情報はSNSを中心に一気に広まり、その日のVtuber界隈で大きな話題になった。スマイルムービーの『春祭』最終日と同日であった事もプラスに働き、そのイベントに出演していた彼女の後輩である正時廻叉、石楠花ユリアが話題になっていた事も相まって、Re:BIRTH UNIONの名前がトレンドトピックにまで押し上げられた。
結果的に、ステラだけでなくイベントで爪痕をしっかりと残した廻叉とユリアを筆頭に、Re:BIRTH UNIONのメンバー全員がチャンネル登録者数を大きく増加させた。
ファンの間では玄人好みの箱とされていたRe:BIRTH UNIONが、明確にライト層にまで知名度を伸ばした証左であると、SNS内では語られていた。
曰く、
「各個人のクセの強さこそあるが、敢えて表面的に見れば歌、演奏、イラスト、演技、ゲームとそれぞれの得意分野がある。メインの活動に絞ればかなり万人向けのラインナップ」
との事である。なお、「問題はそれぞれが万人向けじゃない性格ってところ(現時点でのユリアと四谷は除く。将来的には……まあ覚悟はしておいた方がいい)」というオチの付く投稿ではあったが。
俄かにVtuber界隈の話題の中心になりつつあるRe:BIRTH UNIONのメンバーは、事務所のミーティングルームに集まり、『STELLA is EVIL』についての詳細をようやく知らされていた。
「うわぁ……」
呻き声とも溜息とも取れる声を発したのは、小泉四谷だった。単純に引いている部分もあるにはあるが、それ以上にその発想が自分の頭に全く無い物だった事から漏れた声だった。
「言い方が正しいかは分かりませんけど、これって相当センシティブな部分に足踏み込んでますよね……」
「それもあたし達全員分だもんねぇ。いやー……下手したら、四谷くんのホラゲーや怪談話よりよほど怖いまであるよ、これ。でも、こういう形でのアプローチは他じゃできないからこれで正解なのかも」
率直な四谷の言葉に魚住キンメも同意するかのように感想を述べる。イラストレーターとしての顔を持つ彼女だからこそ、今回の企画から見える意図を掴んで見せた。それが間違いなく賛否両論を産むであろう事も、同時に気が付いていたようだった。
逆に期待感しか持っていないのが三日月龍真、丑倉白羽の一期生コンビだった。二人して笑みを浮かべてはいるが、どこか獰猛さを秘めた笑いだった。自分達の仕掛けが世間を驚かせる事を想像しているのか、企画についても積極的な姿勢を隠そうとしない。
「これだよ、これ。これをやってこそのRe:BIRTH UNIONだって話だよ」
「さっすが、ステラ様。話が分かる」
時折ファンから悪の組織呼ばわりされる事もあるRe:BIRTH UNIONだが、その理由の五割はこの二人なのではないかと、静観していた正時廻叉は考える。残りの四割がステラで、最後の一割が自分である。
「そうですね……私はこの機会を、私自身の『舞台』を進めるいい機会になりそうです。本当はもう少し長々と引っ張るつもりでしたが、これだけ注目を集めた機会を逸する訳にはいきません」
「まぁ廻くんはそう出るだろうな、って思ってたよ。それでなくても、MEMEママが気合入れてウチの動画班と打ち合わせしてたし」
正時廻叉のスタンスも賛成寄りではあったが、記念配信企画の続きを見せる機会が出来た事が大きい。元々『STELLA is EVIL』の原案ともなるシナリオを組んでいたのが廻叉である以上、彼がこの企画に反対する余地はない。
「さて、ユリちゃん的にはどうなのかな?」
「私は……その、この企画の動画が流れたとして……言い方がこれでいいかわからないですけど……気付かないふりをしようと思います」
「……なるほど」
「それ、逆にエグい奴なんじゃ……視聴者の胃が死ぬタイプの……」
石楠花ユリアは『企画を認識していない』というスタンスを取る事を明言し、正時廻叉は「その手があったか」とでも言いたげに唸り、企画書のシナリオ概案、その石楠花ユリアのページを読み進めていた四谷が冷や汗を流していた。
「……なんていうか、それが一番私らしい気もするんです。ピアノの練習配信も、今までやってきたものや、これからやるものの意味が、大きくなる気がして」
「ユリアちゃん逞しくなって……」
「間違いなく丑倉達の良影響」
「悪影響もあると思うけどな」
自信なさげではあるものの、自分なりに考えた『シナリオ』の理由を説明する姿にキンメが若干わざとらしいヨヨヨ泣きをし、白羽が誇らしげに胸を張る。そんな白羽を「何言ってんだコイツ」という目で見ながら龍真がボヤく。
「とはいえ、だ。ストーリー動画はある程度はこちらの動画班が担当してくれるので、こだわりがある面々は打ち合わせをしっかりしておこうね。それよりも、本命は――コラボ曲の方だ」
その言葉で、緩んでいた空気感が一気に引き締まる。
かつて、一期生・二期生がステラの希望で行った歌ってみたコラボ。今回は、アルバムのボーナストラックという名目であり、ダウンロード販売・配信販売という形ではあるが『商品として売り出される曲』だ。それも元々はアルバムのメインに収録される可能性のあった楽曲の中から、ステラが「この曲は〇〇と歌った方が映える」と判断した曲をボーナストラックへとシフトさせた、という経緯であり、楽曲自体は既にデモテープまでは完成済み。後は、歌うだけという状態にまでなっている。
表情から緊張感が隠せないのが、『商品となる歌』を初めて歌う事になる二期生・三期生の面々だった。
「私の演技はともかく歌はお金取って良い物なのかという疑問が常に頭にあります」
「廻叉くん、演技でなら金取れるもん出せるって言い切ってるよね。私とか四谷くんとかのプレッシャーったらないよ?」
「本当にそれですよ、はい……歌ってみたでドネート頂くのとは別種の申し訳なさがあるというかなんというか……」
「それ以上に、その、ステラさんと……歌えるんですよね……光栄、ですけど、緊張が……!」
そんな狼狽える後輩達をニヤニヤと眺める一期生は、完全に余裕だった。元々の出自が音楽系統であり、既にオリジナル楽曲を発表している。何よりも『音楽でお金を貰う』事を既に経験している二人からすれば、四人の狼狽え具合は取り越し苦労にしか見えない。
「まー、心配すんなって。本当にダメだったら企画段階でポシャってるって」
「そうそう。ハッキリ言っておくけど、みんなの歌唱力は間違いなく平均以上だよ?」
「歌唱指導はするからその辺は安心して欲しい。あと、龍くんと白ちゃんは動画の方の演技を廻くんから学ぶように」
「……ういっす」
「……はい」
「露骨にテンション下がった!?」
「前回の配信はまだ『普段の自分達』の延長線上でしたからね」
今後動画になる台本のセリフ量や心情表現の演技への不安からか、一転してテンションを落とす一期生達に場の空気が若干緩む。幸いというべきか、アルバム配信開始日まではまだ時間がある。それまでに、各々で準備を整えればいい……そう思っていた矢先に、ステラから爆弾が投げ込まれた。
「あ、そうそう。明日の夜に公式チャンネルで第一弾ティザーを公開するからね。まぁ……ハードルは、上がるんじゃないかな」
とても楽しそうに笑いながら言うステラの顔が、誰よりも邪悪に見えた。
Re:BIRTH UNION所属メンバー全員が、後にそう語っていた。
※※※
【Re:BIRTH UNION】『STELLA is EVIL』1st Teaser Trailer【STELLA FREAKS】
ステラ・フリークスが無人の荒野を歩いている。
そこが、地球ではないどこか別の星である事は一目瞭然だった。
一面の灰色。平たい岩場が延々と続く、非現実的な世界を彼女は歩く。
左目が、僅かに光を放つ。それに呼応するように、右目が黒い渦を巻きながら周囲の塵や砂埃を吸い込んでいく。
そして、画面に映っているもの全てが、黒い渦に飲み込まれ、映像は暗転する。
『STELLA FREAKS 1st Streaming Album』
『STELLA is EVIL』
シンプルなフォントで表示されたアルバム名。そして、十秒にも満たない長さにカットされたステラ・フリークスの楽曲が、彼女の個人チャンネルにアップロードされたミュージックビデオや、描き下ろしの一枚絵、新規作成されたミュージックビデオと共に流れていく。
最後の曲が終わると、画面にノイズが走り、再びブラックアウトした。
『BONUS TRACK------』
暗転とノイズを繰り返しながら、コラボ相手の名前と、大半が伏せられた楽曲名が表示される。
ノイズの合間に、何かが混線したかのように明確な映像が映し出された。
『01 feat. Ryushin Mikazuki - ××s× ×r×××× - 』
瘦せ衰えた龍が、深い洞窟の奥底に横たわっている――――。
『02 feat. Shiroha Ushikura - ×××天×××××理由 - 』
顔を手で覆った女性、その背の翼が枯れ落ちていく――――。
『03 feat. Kaisa Shoji - T××× ×××× ××N - 』
ベッドに横たわる男性、柱時計が時を刻む音が響く――――。
『04 feat. Kinme Uozumi - ××姫 - 』
海に沈んでいく女性、その体は少しずつ泡になってく――――。
『05 feat. Yotsuya Koizumi - F××× L××× - 』
神社の鳥居の下、和装の男がこちらを手招きしながら笑っている――――。
『06 feat. Yuria Shakunage - ×××××為の××歌 - 』
何処かの屋敷、無人の部屋に置かれたピアノが音を奏でる――――。
『07 feat. Re:BIRTH UNION』
『 - R×××××××××××× - 』
東京の街を歩く、ステラ・フリークスの後ろ姿が映る。
有名なランドマーク、ターミナル駅、学校、オフィス街、車の行き交う高速道路、無人の劇場、豪奢な屋敷、そこに居ながら、そこに居ないかのように、ステラ・フリークスは歩き続ける。
そして、どこかのビルの屋上で、彼女は夜空を見上げて手を広げる――。
東京では見えるはずがない、満天の星空が広がる――――。
まるで、銀河の中心に、地球が突如放り出されてしまったかのように。
「――やあ、こんばんは」
「先ほどから、顔も見せずに失礼した」
「この貌を見せるのは、そういえば初めてだったね」
「では、問題」
ステラ・フリークスが振り返る。
その貌は、顔ではなかった。
彼女本来の輪郭の中に、深淵の闇があるだけだった。
「私は、誰でしょう?」
『To Be Continued』
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