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「解:Re:BIRTH UNIONとは――」

 そもそも『Re:BIRTH UNION』はステラ・フリークスが同じ志を持つ仲間を求めた事から始まった事業だ。Vtuberという新しい世界にもう一度産まれるべく集められた者達。既存のVtuberよりも、更に尖った才を持つ者が自然と集ったのが『Re:BIRTH UNION』だ。


 それならば『REBIRTH UNION』という表記でも良かったはずだ、と以前に正時廻叉は考えた事がある。


『REBIRTH』という単語だけでも『再生』を意味しているのだから。


 或いは『REVERSE』でも良かった筈だ。


 逆転、やり直しという意味であれば、こちらの方がわかりやすい。



 なぜ、返信を意味する『Re:』という表記を選んだのか。





「それはね、廻くん。その『Re:』には返信するべき相手が、私達には居たからさ」





 このイベントの初日、リバユニをより売り込もうという話題から、改めてRe:BIRTH UNIONについての話になった。表記の由来について廻叉が尋ねたのが切っ掛けだったはずだ。そして、そう答えたステラ・フリークスの目は、笑みの形をしながら、一切の光を失っていたように思えた。





「私達は敗北者だ。敗残兵だ。既存の枠組みから弾き出された、落ちて、零れた者達だ」





 ステラ・フリークスは正時廻叉へと語った。


 ステラ・フリークスという名の由来は星だ。


 ただし、眩く輝く一等星ではなかった。


 大きな才を持ちながら、それを抱え込んだまま光と熱を失った星。


 ブラックホールという光をも飲み込む怪物へと変貌しつつある星。


 それがステラ・フリークスの正体、星野要の過去の姿であると。





※※※






「私なりの、考えでもいいなら……」


 質問に対して最初に反応を見せたのは、石楠花ユリアだった。司会である二人だけでなく、会場の観客や配信のコメントも少し意外そうな反応を見せた。

 それはユリアが答えようと声を上げた事ではなく、考え込むような沈黙を続ける正時廻叉に対する反応だった。


「うん、それじゃあユリアちゃんの答えを聞きましょう!Re:BIRTH UNIONとは?」


 軽めの深呼吸を一つ、ユリアが緊張を抑え込むような息を吸って、吐く。真横に居る廻叉には、彼女が覚悟を決めたのが見て取れる。

 半端な答えを出せば、多くの観客や視聴者に落胆とまではいかずとも、肩透かしを受けたような印象を与えてしまう。そんな恐怖感を、受け止めた上で息と共に飲み込んだユリアの姿は、これまでになく頼もしく思えた。


「元々私達の配信や動画を見てくれている皆さんには、今更かもですけど……私たちは、『Re:BIRTH UNION』は何かしらの大きな挫折を経て、Vtuberの世界に、名前の通り『生まれ変わり』ました。でも、それは私の意思だけでは……きっと、出来ませんでした」


 会場のざわめきが僅かに鎮まった。まるで、石楠花ユリアの言葉を一字一句に至るまで決して聞き逃すまい、という意識に統一されたかのような光景だった。


「生まれ変わる事で、私は……大袈裟かもですけど、幸せになれました。そんな私の姿を……私を助けてくれた人や、私を応援してくれている皆さんに見せる事が、皆さんへの返事……『Re:』だという風に、私は、思ったんです」

「うわあ素敵な解釈……!」

「ええ子やな……ウチの娘にならへん?」

「あげません」

「そこを何とかお願いしますよお義兄さん!いや、お義父さん!」

「なぜ義父に格上げされたのでしょうか?」


 ユリアなりの回答に七星アリア、月影オボロそれぞれが好意的な反応を見せた。オボロに至っては好意が高じて再び養子縁組を提案したが正時廻叉によって阻止される。そんなやり取りにユリアは苦笑い(会場は爆笑)しながらも、最終的な結論へと続けた。


「私にとってのRe:BIRTH UNIONとは、生まれ変わって幸せになる為の場所、です」


 会場から拍手が沸き起こる。3Dアバターのアリアとオボロも拍手をしていた。その音が少し収まったタイミングで、廻叉が一つの質問をユリアへと向けた。


「ユリアさん、今、幸せですか?」


 ユリアは即答する。


「はい!」


 再び沸き上がった拍手は、数十秒間鳴りやまなかった。




※※※




「もう大団円感あるし、ここで終わってもいいんじゃないですかね」

「なんて事言うんや……そりゃ、執事さん絶対不穏なこと言うやろな、って確信はあるけども」

「お二方が私にどのようなイメージを持っておられるか興味があります」


 いい感じのまま終わらせようとしたアリアにオボロが即刻ストップをかける。余計な一言が付いてはいたが、何より廻叉自身とリバユニのリスナーがその言葉に対して明確に反論できなかった。そもそも龍真と廻叉のラジオに至っては『ドキドキ引火チャレンジ』『火薬庫を喫煙所と言い張って煙草吸いながらやってるラジオ』という別名がSNS上で広まっている程、彼らの発言には安全性の担保がない。


 とはいえ、自身の大先輩であり、業界の最上位格に位置する二人からどのような印象を持たれているかが気にならない程、正時廻叉、或いは境正辰は人間性を捨てきれては居なかった。


「え?ステラちゃんの忠実で冷血な左腕。右腕はラッパーの龍真さんで」

「無慈悲な悪の幹部やな。ってか、リバユニさんヴィラン化してたからその印象が未だに強いねんな」

「お褒めに預かりまして」

「褒め……?」


 なお、その最上位格の二人から人間性皆無な例えをされたが、自分に人間性が殆ど残っていない事を最も理解しているのが当の本人であるので何の問題も無かった。そんな廻叉の反応に観客とユリアだけが戸惑ってはいたが。


「茶番はさておき、廻叉さんから見ての『Re:BIRTH UNION』とは、どういったものでしょうか!?」

「茶番て」

「茶番を否定はできませんが」

「あは、は……」


 ユリアの苦笑いの後、僅かに間が開く。ステラ・フリークスの語った言葉が、今までの自分が思っていたRe:BIRTH UNIONという存在に対する解答を補強する材料になった。だからこそ、その言葉は恐ろしくあっさりと口に出された。


「私の思う『Re:BIRTH UNION』とは、()()()()()です。人生で手酷い敗北と、大きな挫折を背負い、心を殺されるような目に遭いながら、そこで今までの自分を『死んだもの』として生まれ変わった者達が、ステラ・フリークスという極星に惹かれて再誕した――そんな場所です」


 会場が、ざわめいた。淡々と語る廻叉の言葉は大袈裟ではあったが、それが真実であるという説得力を持っていた。


「心機一転、とは言いますが――実際には、やはり、魂の底に澱のように残った物が、あるのでしょうね、私にも。とある方は、それをこう言いました。『無念』である、と。『執念』である、と。そして『私達を敗者にした者への怨念』である、と」


「『Re:』とは、返信の意味です。ユリアさんの言う通り、自分を支えてくれている皆様へのアンサーであるという解釈も正しい。しかし――こういう考えに到った辺り、やはり私は悪の幹部なのでしょうね」


「私は『Re:』を略称であると解釈しました。『Revenge』の略であると」


「そして、私達を敗者へと貶めた者達へこう返信するのです」




 お前達に殺された私は、お前達より成功を収めました。




 ざまあみやがれ。





「私にとっての『Re:BIRTH UNION』とは、敗者による再誕の物語です。そして、それは現在進行形で紡がれている――貴方達の目の前で。もしよろしければ、私どもの物語を読んでみてください。極星の眩さと、その裏に潜む闇と、星座になろうと輝く新しい星の物語を見れる事でしょう」




「……怖っ!!!!」

「アリアぁ!!言い方ぁ!!!」


 まるで一人芝居の様に朗々と語り切った執事の言葉に、会場が息を呑むような沈黙に包まれたが――七星アリアの心からの叫びと、月影オボロのド直球のツッコミによって『オチ』が付いた。結果、観客もようやく安心したかのように笑い声と拍手を始めた。


「我ながらちょっと興が乗ってしまいましたね。反省しております」

「そんな淡々と……すいません、この感じがその、廻叉さんらしさなので……!」

「うん、知ってる知ってる。執事で役者ってのは本当なんだなぁってむしろ感心する次第でしたよ。そりゃウチの某ドラちゃんが執事さんのボイス全購入するくらいドハマりする訳だって納得も出来ました」

「お買い上げいただきありがとうございます」

「それはドラちゃんに直でお願いしますね」

「ウチのカスミも執事さんの演技力について語っとったけど、入りがスムーズってこういう事なんやなって」


 二人が褒める度に拍手が飛び交い、それに対して廻叉が丁重に礼を述べるという流れがあり、廻叉の語った衝撃は大分和らげられていたようだった。


 だが、石楠花ユリアからRe:BIRTH UNIONの正の側面を、正時廻叉からRe:BIRTH UNIONのある種の負の側面を語られたことで、『よく分からないけど尖った箱』というライトリスナーの認識を大きく一変させることに成功していた。


「しかし、やっぱり一筋縄じゃ行かない箱ですよね、リバユニさん。敗者、って側面はちょっと意外でしたけど……あ、でも龍真さんの前世生前葬とかでもちょっと話してましたもんね。私も弔電という名の告知動画を送らせて頂いた身ですが、改めて皆さんVtuberに命懸けだなぁって」

「そうですね……本当に、Re:BIRTH UNIONに居なかった自分を想像すると、ちょっと怖いです」

「やはり、色々な意味でステラ様の影響は大きいです」

「ステラもなぁ。ただ歌の上手い子だけやあらへんって初めて見た時から思っとったもんなぁ。そんなあの子が集めた子なら、さもありなんって感じやな」

「ステラさんは、私の目標なんです……でも、すごく良くしてくださってて」

「というよりも、ユリアさんは弊社の女性陣から猫かわいがりされてますからね」

「わかる」

「わかるわー」

「えええ……」


 どこかしみじみと語る四人の姿は古い知り合いの様だった。ほぼ初対面だったにも関わらず、客観的に見てそう思えるまで距離を詰めるMCとしての技量の高さを示していたが、自然過ぎてそこに気付いている観客や視聴者はごく一部だったという。結果的に、Re:BIRTH UNION全体のチャンネル登録者を増やす事に成功していた。


 なお、最終的に石楠花ユリア養子化計画が何度も計画されては廻叉に阻止されるという流れが話のメインであった。




※※※




 控室へと戻った二人を他の待機中のVtuber達が盛大に拍手で出迎えた。特に女性陣から引っ張りだこのユリアはもはや遊園地で子供たちに取り囲まれるマスコットかのようだった。本人がやや小柄な為か、ぬいぐるみの奪い合いの様にも見えたが。

 その輪に加わっている女性陣からしきりに『清楚!』『真の清楚!』『ユリアちゃんを見習え私達!』という謎の声が多発していたが、正時廻叉は「これはツッコミを入れる事が藪蛇案件である」と看破した。断腸の思いを装って石楠花ユリアを彼女たちに一時的貸与することを決めた廻叉は自分の席に腰を下ろす。すると、トークライブ開始前に話していたオーバーズの秤京吾がスマートフォンを片手にこちらへと寄って来た。


「執事さん。SNSで、丁度今のタイミングに流れてきたんだけど、これマジ?」


 訝しむ様に彼が広げた画面を廻叉が覗き込む。その文面と、CDジャケットのような画像を見ると、僅かな驚きと、納得の表情を浮かべた。


「ああ、ようやく形になり始めましたか。しかし、先程言った『Re:BIRTH UNIONとは』の解がまた変わりそうですね。先に公表してくれたら、告知も出来たのですが」



 その画像は、ステラ・フリークスが宇宙空間を漂うような画像だった。


 その右目がまるでブラックホールの様な渦を描いている事が印象的なイラストだった。


 そして、彼女はどこか不気味な笑みを浮かべていた。


「是非お楽しみに、とだけ」


 SNSの投稿主は、Re:BIRTH UNION公式。


【ステラ・フリークス、デジタルアルバムリリース決定】

【全12曲+ボーナストラック6曲、ダウンロード配信限定販売】

【ボーナストラックではステラ・フリークスとRe:BIRTH UNION所属メンバーによるユニット曲を収録】


【『STELLA is EVIL』 coming soon.】

リバユニ、本気の仕掛けのはじまりはじまり。


御意見御感想の程、お待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です 何処か滲み出る叛逆精神 身に付けたもので相手を見返す ふとした時に垣間見える闇が最高(語彙力低下中 からのお嬢完全ガード しかし、身の安全を確保した後はサラッと投げ込…
2021/09/09 22:43 怪文書書きたい
[良い点] 『ユリアちゃんを見習え私達!』ほんと謎で笑うw [気になる点] evilかー……どう邪悪なんやろな
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