「Y-STAG生前葬(後)」
『まずは、あー……悪い、畏まった喋りが苦手でな。ちと行儀は悪いが普段通りの喋り方で言うわ』
《OK》
《一人喋りで敬語だとやり辛いのは分かる》
《見た目厳ついけどいい人そう》
『俺の見解としては、REDSHARKのやった事は、Vtuberという世界に対するアプローチとして最適ではなかったと思う。ただ、三日月龍真は色々やってはいるけどメインにラップがあって音楽がある。彼個人にのみ向けたBEEFであれば何も問題はなかった』
《ほんそれ》
《クソデカ主語はいつだって舌禍一直線なんやなって》
《ぶっちゃけ前世暴きはこっちの界隈じゃ御法度of御法度だからな。世が世なら磔獄門待ったなしよ》
《音楽とか歌詞の内容以前で印象最悪になった奴多いだろうな》
《磔獄門は流石に過言》
『双方のファン共々思う事はあるだろうが、REDSHARKもY-STAGもそれぞれ才の有る発展途上のアーティストだ。過度な反応はせず、見守って欲しい。過去の名義を暴露したのは明らかにREDSHARKの過失だから、そこはまぁ……あいつも大人の対応を見せて欲しいところではあるけどな。こういう企画で消化してくれたお蔭で炎上も早々に消火した。どうかそのことは忘れてくれるなよ。俺からは以上だ』
《まぁ場外乱闘になってもなぁという気持ちはある。納得いかない部分もあるけど》
《前世暴きが今後増えたらって杞憂はするよ、流石に》
《先輩的な立場としてはこれ以上は言えないのもわかるけども……》
『それと、来月に俺ら南関CREWのニューアルバムがリリースされるんでよろしく。以上、S.O.M.A、蒼馬でした』
《結局告知すんのかい!!》
《CMの多いお通夜だなぁ……》
《草》
《レギュレーション遵守》
《南関CREWはいいぞ。真面目な曲とおふざけ曲の落差が凄いぞ。競馬で負けた反省をメンバー全員が粛々とラップする曲に新しいHIPHOPを感じたぞ》
《なんかこう、龍真の先輩だなぁって感じだったわ》
「以上、南関CREW蒼馬様より頂きました弔電です。龍真さん、一言どうぞ」
「俺らの事すげぇ考えてくれてるなぁと思ったらアルバムの告知ブッ込まれるとは思わなかったわ。いや、事情話して『お悔みのメッセージください。なんなら告知してもいいんで』とは言ったけど、本当に告知ブッ込んでくるとは」
「なんで喪主兼故人が弔電の催促入れてるのですか?」
「だってサプライズになるかなって」
《呼んだのかよw》
《そりゃ告知入れるだろ、入れていいって言われてんだからw》
《草》
《ぶっちゃけ実写の遺影だけでもこっちから見りゃ十分サプライズなんだよ》
《なんでこの企画が成立してるんだ……》
「蒼馬様、本当にありがとうございます。Re:BIRTH UNION並びに株式会社リザードテイルを代表して、御礼申し上げます。それでは、続きまして――喪主、三日月龍真a.k.a.Luna-Doraによります追悼ライブで御座います」
「Yeah!!!」
《!?》
《いや、Yeahじゃねぇわw》
《レゲエホーンのノリでおりん鳴らすんじゃねぇよ!》
《大不謹慎で草》
「ご参列の皆様、ご起立願います。指定席は御座いません、オールスタンディングです」
「もう手は合わせ終わったから次は手ぇ上げろお前らぁ!!」
《お、おお……?》
《本当に盛り上がっていいのか、これは》
《やかましいわw>オールスタンディング》
《この度し難い異常者どもめ》
「それでは最初の曲は、カバー曲です。どうぞ」
《このイントロ、マジか?!》
《あっ(察し)》
《曲名で盛大な皮肉をぶち込んでくるんじゃねぇよ!!w》
《入れ替わりそう》
《彗星降って来そう》
※※※
「いやー、やっぱボイトレは行っておくもんだな。昔だったらラップ以外の曲なんて、こうして人前で聴かせられたようなもんじゃなかった。そういう意味では、俺の幅も広がって来たんじゃねぇかと思う訳だよ」
「楽しそうで何よりです」
「ああ、楽しいね!Y-STAGだった時は楽しさよりキツさ、辛さの方が上回っちまった!今はなんつーか……そうだな、魂が自由だ。そんな気分だ」
「自由過ぎて参列者をライブゲストにするくらいですからね」
《普通の歌でも上手いんだよなぁ》
《イキイキしてんなぁw》
《しれっと重いのやめよ?》
《魂が自由か……》
《ある種、Vtuberの本質だよな》
《は?ゲスト?》
《そういえば参列希望ってSNSで言ってた人が》
「それでは皆様、拍手でお迎えください。エレメンタルより照陽アポロさんです」
「やっほー!バーチャルアイドル、照陽アポロでーす!!……この度は御愁傷様です」
「いえいえ、俺みたいなもんの企画に、それもこんなド不謹慎極まりない企画に来て頂けて光栄ですよ。あ、初めまして。三日月龍真です」
「自覚はありましたか。それはそれとして、配信の場では初めまして。正時廻叉です」
《ふあああああ!?》
《アポロだああああああああ!!!!》
《マジかよ!!!!!!!》
《フットワークがタンポポの綿毛より軽い女の本領発揮》
《エレメンタル運営、アポロにコラボのフリーハンド渡してるらしいからなぁ》
《急に神妙になるなw》
《いつもの元気な挨拶からの落差で草》
《ド不謹慎草》
《俺みたいなもんは謙遜が過ぎると思うがド不謹慎はその通り過ぎる》
《初めましてがこの企画でいいんか》
「執事さんやっとこっち側で会えたね!あ、実はリバユニさんの事務所にVCFの打ち合わせに行った時にばったり会って挨拶だけしてたんだ!」
「あー、そういえばそんな話ステラ様から聞いたわ。アポロさんのタックルでステラ様が吹っ飛ばされたのをスタッフと廻叉とで受け止めたとか」
「勢いがアメフトかプロレスのそれでしたね」
「ちょっとー?!そこまで話しちゃうの!?」
「ステラ様より伝言がありまして。『こんな美味しい話、黙っておくのはもったいないからコラボする機会があれば話していいよ。心配せずともエレメンタルのマネージャーの方から許可は取ってある』との事です」
「ああああ!?そ、そんな……!ボクはただテンションが上がり切って突撃しちゃっただけなのに……!」
「アポロさん……流石にそれを『だけ』で済ますのは無理があるでしょ……」
《意外な繋がりが!?》
《事務所で鉢合わせたんか》
《草》
《草》
《もう絵面が浮かぶ》
《何やってんだアポロw》
《ステラ様GJ》
《エレメンタルのマネージャー氏に敬礼》
《アポロとステラの仲じゃなきゃ即炎上案件だぞ、こんなの》
「しかし、参列希望を出された時は流石に弊社も若干ざわつきましたが」
「そうだねー……ステラちゃんの後輩さんが、ちょっと大変な事になってるってSNSでも結構流れて来ててね。ファンの人達も、同じような暴露騒動に巻き込まれる事をどうしても心配しちゃってる空気が、ね」
「それは確かに散見されてましたね」
「そんな心配とか不穏さをまとめて薙ぎ倒す剛腕具合に驚いちゃって!これはと思って参戦希望しちゃった。本当はメッセージ送るだけのつもりだったんだけど、何故かライブの逆オファーが帰って来て……」
「通ると思ってなかったけどな!」
「お二人とも勢いだけで行動するのは控えて頂けると弊社社員並びにエレメンタルの社員の皆さんの精神的安寧に繋がるのですが、是非御一考を」
《正直こういう形での前世バレはマジで予想外だった》
《クソまとめ動画とかと違って、ほぼ確定情報みたいだったしな》
《あれで間違ってたらガチで大恥だし大迷惑だけどな……》
《なんでお互いに思い付きでオファーして受けてんだ》
《草》
《社員を慮る執事の鑑》
「で、何歌うかって話になって……アポロさんのリクエストに応えて」
「ボーカル部分は歌えるけど、男性のラップパートが難しくてね!この機会に是非って感じで!」
「生配信ライブ一発勝負だからトチっても勘弁してくれ」
「完全版ちゃんと録ろうね!」
「え、あ、はい」
「ちょうど今日はスタジオからの配信ですし、この後打ち合わせくらいはしていってくださいね」
《そういえばライブだった》
《たまにあるよな、ラップが難しくて歌えない奴》
《完全版!?》
《龍真が押されとるw》
《そして逃げ道を的確に封じる執事》
※※※
「嵐の様に現れて、去っていきましたね。太陽を冠する方なのに」
「いやー、やっぱトップランナーはパワーがすげぇわ。人間力って奴なんかね。俺らバーチャル生命体だけど」
「ちなみにこの後に歌った曲の収録の打ち合わせの為にブース外で手を振っております。マネージャーの方が申し訳なさそうに頭を下げる様に悲哀を感じざるをえません」
「ウチのスタッフが『気にしなさんな』的な笑顔なのが凄いコントラストだな」
《草》
《嵐の様な太陽の娘》
《まだ居るのかw》
《リバユニのスタッフって大らかというかなんというか……w》
「さて、ここで廻叉にも戻ってもらう。ここからは、俺の話だ」
「では、そのように。司会進行、正時廻叉でした。これにて失礼いたします」
※※※
暗転する。真っ暗な背景の中に、三日月龍真の立ち姿が浮かぶ。
「俺はあくまでもVtuberだ。ラッパーでもあるが、最初に名乗る肩書はVtuberだ」
その姿にモザイクが掛かる。そのモザイクが晴れると、そこには同じような服装の実写の男が現れる。
「Y-STAGは死んだ。何かを成したわけでもなく、静かに消える様に死んだんだ」
その男が薄く笑うと、足元から灰になるように消えて行った。
「墓暴きなんてしたって、俺はもう帰ってこねぇよ。既に俺は生まれ変わった」
画面にノイズが走り、再び三日月龍真が現れる。
「なあREDSHARK。お前が俺の事をどう思ってるかは知らねぇよ。ただ、俺は俺なりにお前に答えを返した。お前が馬鹿にしたVtuberとしての返答だ。こっからは、ラッパー三日月龍真a.k.a.Luna-Doraとしての返答だ」
低く、重い音が響き始める。
「これが俺のアンサーだ。返信無用だ」
それは彼なりの誠意だった。
決してY-STAGとして復帰することはないという事。
――火葬された過去、仮想電脳へ魂コンバート
三日月龍真として残りの人生を歩むという覚悟。
――既に一度は死んだこの身、二度目の死まで貫くストーリー
同じVtuberを揶揄した事に対する反論とこの世界の可能性。
――偏見の目で見るお前にゃわからねぇ、先見の明の意味を教えてやるよ
最後に、一つの火種をVtuber界隈に投げ込んで高らかに笑った
――このビートは無料で配布、サメ釣りたい奴は刻めよライム!
※※※
「……戻って、こねぇか。仕方ねぇ」
自宅のタブレット端末で通夜の配信を見ていた一人の男は配信を閉じ、DTMを立ち上げる。
「何かを成したわけじゃない、だと?どの口が言いやがる」
憮然としたまま、作りかけのビートを磨き上げていく。
「お前の先見の明、見せてもらおうじゃねぇかよ。燃えただけじゃ済まさねぇぞ俺は」
三日月龍真が最後に投げた火種がもたらす結果を予測し、新たな曲を産み出していく。
後にVtuberから送られてきた十曲以上のアンサー曲、ディス曲に全て返す事で下がり切った評価を跳ね上げる事に成功するラッパー、REDSHARKはその牙を研いでいく。
いずれ道が交わる事があると、心のどこかで期待しながら。
一番苦労したのは、お察しの通りラップ詞の抜粋みたいなところです。
ちゃんと踏めてるか不安。
御意見御感想の程、お待ちしております。
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