表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/232

「Y-STAG生前葬(前)」

色々と資料を引っ張り出しながら考えたので、ちょっと時間が掛かってしまいました。

「話題にはなりましたけど、本当に大丈夫なんですか?」

「良いんだよ、やるなら徹底的に、派手にやらなきゃ勿体ねぇよ」


 DirecTalkerの通話で最後の確認を取った廻叉に対し、龍真は一切の動揺すら見せない。


 現役HIPHOPミュージシャンであるREDSHARKから仕掛けられたBEEFは、唐突でありながらも界隈に大きな衝撃を与えていた。

 楽曲は主に三日月龍真個人への攻撃。内容はHIPHOPの名曲のカバー企画に対する物から始まり、顔出しをしていないVtuberはリアルではないという主張、リアルでないならばHIPHOPを語るな、という批判、「偽物の顔で媚を売っている」という半ば言い掛かりめいた主張、そして三日月龍真のVtuber以前の活動名義であるY-STAGへの「現場から逃げた負け犬」という痛烈な言葉で締められていた。


 TryTubeにアップロードされたその楽曲の評価は、文字通り賛否両論真っ二つとなった。REDSHARKのスタイルを支持するものはVtuberの『リアルでは無い』という点からREDSHARKの正当性を旗印にしてVtuber全体を批判し、龍真及びVtuberの支持者は前世暴きという界隈で蛇蝎の如く嫌われる行為に出た事を批判。BEEFを仕掛けた事自体を売名行為であると切って捨てる論調も多数あった。


 その論戦も、龍真が『Y-STAG生前葬』という企画を立ち上げたことで、どちらの支持者も軽度の混乱状態に陥る事となった。Vtuberファンは「なんで事務所も同僚も止めないんだ……?」と困惑を隠せずにいた。HIPHOPファンに至っては発表の直前までは龍真を『元ラッパーで現在はVtuber』、『現場から逃げて匿名でラッパーごっこ』など好悪含め様々な見方をされていたが、発表後からは『頭がおかしいやつ』という見解で統一された。


 一週間近い準備期間を挟み、生前葬当日を迎える。配信待機場には、Re:BIRTH UNION所属者の単独企画としては初の3,000人を超える同接人数を集めていた。




※※※




《来た!!》

《もう草》

《鯨幕と祭壇がもう葬儀会館のそれなんよ》

《ガチ実写の遺影!?》

《出すのかよ顔写真w》

《マジでY-STAGだ、これ。この写真、3年前くらいにライブのフライヤーで見たわ》

《体張りすぎでは?》

《丑倉白羽@RBU1期生:マジで当時の宣材写真らしいです》

《もう覚悟みたいなのを感じた》

《概要欄のピアノ演奏:石楠花ユリアってこのBGMかよw》

《じいちゃんの葬儀で似たような曲流れてたわ》

《Vtuberってこんなことしてんのか》

《いや、こいつらが特殊なだけ》

《一緒にするな、と言いたいけど全体的に頭のネジとブレーキが無い人が多いよ?》


「間も無く、元HIPHOPミュージシャン『Y-STAG』様の生前葬、通夜式を開式させて頂きます。御参列の皆様に置かれましては、合掌・礼拝をお願い致します。なお、本日は御香典ドネートの受付を行っておりません。後日、弊社所属Vtuber三日月龍真a.k.a.Luna-Doraの単独配信にて受付させて頂きますので、ご了承くださいませ」


《 人 》

《南無》

《本格的で草(小声)》

《★ラッパーVtuber・MC備前:この度は御愁傷様です……》

《執事が進行役やってるだけでちょっと笑いそうになる》

《やたら似合うんだよなぁ》


「まずは喪主である三日月龍真よりご挨拶が御座います。お願いします」

「……喪主の三日月龍真a.k.a.Luna-Doraです。本日は私の前世であるラッパーY-STAGの身バレに伴う生前葬にお越しいただき、誠にありがとうございます。なんか名指しでディスられるわ、Vtuber全体ディスられるわでしっちゃかめっちゃかでは御座いますが、とりあえず前世バレを放っておくよりはここできっちり葬っておく、という選択を致しました」


《神妙で草》

《喋ってる内容がちょっと愚痴っぽいのがもうw》

《葬るとか言うなw》

《異常者集団Re:BIRTH UNION(褒め言葉)》


「ぶっちゃけY-STAGはパッとしない関東ローカルのB-BOYでしたんで、割と未練はないので。彼を知ってる人も知らない人も、いや七割方知らないだろうけど故人を偲んだりしていけばいいと思います」

「ありがとうございました。喪主挨拶でした」


《自分に対してなんてこと言うんだ》

《草》

《最後まで神妙にしろよw》

《何故最後に雑になってしまうのか》

《悪ノリの極致》


「続きまして、導師様ご入場となります。本日の導師様は、個人運営Vtuberにしてリアルの僧侶でもございます『滑玖寺縁旻(なめくじえんぶん)』様でございます。皆様合掌にてお迎えください」

「本日担当させて頂きます、滑玖寺縁旻にございます。読経の方を上げさせて頂きます」


《居るの!?》

《ナメクジ和尚!ナメクジ和尚じゃないか!》

《ガチ法話やってくれる個人勢のバーチャル僧侶の人やで。なおゾンビパニック系FPSがクッソ上手い模様》

《奥深ぇなVtuber業界……》

《ガチの読経だ……》

《ナニコレ……》

《般若心経?》

《流石の本職である》

正信偈(しょうしんげ)だな、これ》




※※※




「ではここで故人に所縁ある皆様と、特にない皆様から頂きました弔電を御紹介させて頂きます」


《草》

《特にないwwww》


「まずVtuber事務所オーバーズ様より七星アリア様からの弔電です。こちら、動画メッセージでいただいております」


《!?》

《ビッグネームキター!!!》

《おいおい生徒会長じゃねぇか》

《これは特にない方(確信)》


『オーバーズ所属、七星アリアです。本日は三日月龍真さんの前世であるY-STAGさんの生前葬という事で、オーバーズ一同より心より哀悼の意を申し上げます。実は特に絡みのない私と龍真さんではありますが、以前にMCバトル動画を貪るように見ていた際に、Y-STAGさんの試合も見たことがありました。その時は『なんか龍真さんに声似てるけど、ここまでガラ悪くなかったよねぇ』とか思ってましたが、まさかマジで同一人物とは思いもよらず。世間って広いようで狭いなぁと思い知った次第であります』


《弔電……?》

《思い出語りというか自分語りでは?》

《ごめん、俺もつい昔の動画探したけど確かにガラ悪かったわ。金髪にアロハシャツは完全にチンピラのそれだった》

《草》


『私はHIPHOPには詳しくないですけど、曲でこうして批判し合う文化があるのは知っています。REDSHARKさんの曲も聞きましたが、Vtuber全体に対する偏見を助長するようなアレは実にアレなのでアレしたい所存ですが、龍真さんの出方を見てからでも遅くないかなーって思ってたらこんなクッソ面白そうな事始めるもんだから超羨ましかったです。ちなみにウチのメンバーで同じような事が起きたらこういう企画していいか聞いたら社員の8割から止められました。何故だ』


《ディス曲にちょっとカチンと来てたのか》

《アレが多過ぎて何が何だか》

《相変わらず滑舌がバケモノ染みてるなあ》

《【朗報】オーバーズ運営、理性があった》

《リバユニはむしろ何故この企画が通ったのか》


『余談では御座いますが、明日私の新歌ってみた動画がアップロードされますので宜しければご覧いただければ幸いです。以上、オーバーズ七星アリアでした』


《告知じゃねぇか!!》

《弔電とは》

《正直最後は告知で〆るんじゃねぇかって思ってたわ》


「続きまして、MC備前様より弔電動画を頂いております」

『Y-STAG生前葬をご覧の皆様、こんばんは。MC備前です』


《歌番組のVTR出演のノリで草》

《備前ニキさぁ……》

《弔電という名の告知コーナー》


『彼とは実は面識があってVの世界で再会するという妙な縁があったりもしたのですが、何にせよこういう形でY-STAGとしての活動終了は残念ですが、彼の選択を尊重したいですね。それはそれとして、先週新曲の方をアップロードしました。俺、MC備前とMCカサノヴァとのコンビで出した曲ですので是非。以上、MC備前でした』


《やっぱり告知じゃねぇか!!》

《途中まで割といい感じだったのに》

《備前ニキも現場の人だったんだな》


「続きまして、龍真さんと仲良く殴り合うでお馴染みダルマリアッチ様よりご挨拶の方をお願い致します」

『いぇーい。ダルマリアッチだぜ。今日この後、俺からREDSHARKへのアンサーソング出すんでよろしく!あ、Y-STAGは成仏しろよ!』

「あの野郎何しに来たんだよ」

「また、MCカサノヴァ様からは文章で来ておりますので代読させて頂きます。『え、ルナさんY-STAGだったん?全然スタイル違うから気付かへんかったわ。化けて出てくるのは勘弁やけど、お盆くらいは帰って来てもええんちゃう?』とのことです」

「あいつも適当だなぁ!?」


《草》

《短っ!》

《これには龍真も流石に苦言》

《アンサーソング出すんだ》

《執事の関西弁助かる》

《お盆に帰ってこいは草》

《なんか新しい活動スタイルと考えるとアリなのでは……いや、気のせいだな、忘れてくれ》


「あ、俺もアンサーソング出すんで。今日のラストで。もう予告しとくわ」

「言ってしまって良かったんですか?こういうのは最後にサプライズ的に出すべきでは」

「いや、だってさぁ。ダルの野郎が先に『アンサー出すぜ』って言っちゃったら、『え?龍真は出さねぇの?』ってなるじゃん。先に言われちゃったら、後で無予告で出してもやっぱり感出ちゃうだろ?」

「まぁ、正直こういうのは先に言ったもん勝ちな所は否めませんが」

「だろ?まぁとにかく出すは出すよ。この生前葬はVtuberとしてのアンサーで、ラッパーとしてのアンサーは曲で返すよ」

「それなら私から特にいう事はありません。REDSHARK氏に対しても『わあ偏見』としか思いませんでしたから」

「その無関心具合が何よりもREDSHARKへの返しとして痛烈だわ」


《おおおおおおお!》

《だよな、出すよな、龍真なら》

《あれ?無軌道ラジオかな?》

《ダルニキに矛先向いてて草》

《ダルマリアッチ@Vtuber:悪かったって。お前の場合、この企画より先に曲を出すと思ってたんだよ》


「えー、文面での弔電は多数いただいておりますが、後ほどRe:BIRTH UNION公式サイト特設ページにて発表させていただきます。およそ8割が『チャンネル登録よろしくお願いします』で〆られていました」

「この世界の連中のそういう貪欲なとこ、俺好きよ」

「最後の弔電ですが、こちらも映像で頂いております。ではご覧ください」


《草》

《サイト用意すんの草しか生えない》

《だろうな!>チャンネル登録》

《弔電の体での自己PRの場になってて草》

《この面子で最後に回されるって誰だろう》



『Vtuberファンの皆さん、初めまして。HIPHOPアーティストとして活動しています。南関(なんかん)CREWの蒼馬(ソーマ)です』


《!?》

《実写!?》

《南関CREWってメジャーデビューしてるグループじゃん!》

《金曜夜八時に見た事ある人だ……!》

《マジか、マジでか?!》



『この度は、Y-STAGが活動終了……まぁ生前葬、という形ですが、彼がマイクを握って現場に立ち始めた頃を知っている先輩という立場で、このようなメッセージを送る事にしました。正直に言えば、Y-STAGともREDSHARKともそれなりに親しくしているので……軽く板挟みの立場ではありますが、俺なりのこの騒動への見解を伝えに来ました』

次回まで引っ張っておいて言うべき事ではありませんが、引っ越し等の家庭都合によりしばらくの間『約5日間隔』での更新になりそうです。

お待たせしてしまって申し訳ありませんが、御容赦くださいますようお願い致します。


御意見御感想の程、お待ちしております。

拙作を気に入って頂けましたらブックマーク、並びに下記星印(☆☆☆☆☆部分)から評価を頂けますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 社員の8割から止められました。残りの2割は? 1)8割 不許可、2割 大不許可 2)8割 不許可、2割 その場にいなかったので聞いていません 3)8割不許可、2割・・・賛成反対以前にお…
[良い点] 面白過ぎて見つけてから一気読みしました!! [気になる点] 友達からVTuberを進められてたのに、この作品のせいでハードルが上がりすぎて観れなくなりました!!(理不尽)
[良い点] ま、まあ実際お坊さんが宣伝がてらダンス踊ってみたとか上げる時代ですし、和尚系vtuberがいてもおかしくはないよな [一言] オーバーズでも躊躇うような企画をノリノリでリバユニ いいぞ、も…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ