「MC備前のフリースタイル」
廻叉の出番をお待ちの皆様、弁解は致しません。筆が走りました。
『私、パンドラさんの事が、好きです……!』
「あ、ありがとう!ボク、ボクも!ボクもその、嬉しいし、その好きですっ……!!」
『本当、ですか?』
「本当本当!!本当だよ、うん!ちょっと、ちょっと驚いちゃったけど、ずっと好きだったから、ボクも!うん!」
【ネクロ:4 音色:4.5 オニキス:5.5】
「狼狽えすぎていっそ面白いけど、逆告白としてはどうなんだって話だよん。まぁ気持ちを伝える事に必死になった前のめりな姿勢だけは評価して4点」
「本当を連呼し過ぎて逆に嘘くさくなっちゃってるのがなぁ……もし本当に告白された時は、もっと落ち着こうね」
「なんとか伝えたいっていう誠意は感じましたね。進行もやりつつだったことと、ハードルが上がっていた点を考慮して、この点です」
「合計14点……はい、パンドラ・ミミックでしたー……次、春日野ユーマお願いしまーす……」
《あーあー……》
《草》
《辛辣な評価だなぁ》
《むしろ大分甘く付けて貰ってる気がしないでもないが》
《ド凹みしてるなw》
《今まで司会で愉悦ってきた分のツケが回って来たと考えると残当では?》
※
「これ、俺に?マジで!?うっわ、ありがとう!嬉しいわー!え、これもしかして本命だったり?」
『……そ、そうですっ、本命ですっ!!私、ユーマさんがずっと好きでした……!』
「……マジかー……いや、実は俺も君の事が、好きだったからさ。義理でも、ホワイトデーにお返しと一緒に告白しようかなって思ってたんだけど、今言っていい?俺も、君の事が好きだ」
『う、嬉しいです……!』
「俺も嬉しい。あー……もう、告白した直後に言うのもアレだけど、最終的には結婚まで見てるから。幸せにすっから。一生」
『え、結こ……えええええ!?』
【ネクロ:7 音色:5 オニキス:6】
「ギャップはあったよねぇ。告白した時の。いつものユーマと違う所を見せたのはいいと思うよん。7点」
「でも告白直後にプロポーズは、流石に重いよ?ガチのトーンで言われると、誠意通り越してヤンデレ感出てたよ?全体的に良かっただけにそこが残念かなぁ……あ、点数は5点です」
「私も音色さんと同意見で、プロポーズは流石に行き過ぎです。いつもの軽妙さと真剣さのギャップがあっただけに、ちょっとガチ感あり過ぎて……6点で」
「春日野ユーマは18点でしたー。いや、なんでプロポーズまで行ったん?」
「え、誠意って結婚じゃねぇの?最初はお義父さんに御挨拶に行くとこまで考えてたけど」
「馬鹿じゃねぇの?」
《途中までいい感じだったのに》
《誠意=結婚という責任感があるのか考えが単純なのかわからない思考回路》
《軽く引かれてて草》
《真剣なユーマが悪くなかっただけに惜しいな》
※※※
「やはり一番最初のハードルはかなり高くなっているね。青薔薇のインパクトを超えていくのは、流石にオーバーズの後輩達でも難しいのかな」
要が苦笑いを浮かべながらオーバーズ男子組の苦戦具合を眺めながら呟くと、バラエティー番組を見るノリでゲラゲラ笑っている亜依以外は神妙に頷いた。特に男性陣は「もし自分があの場に立っていたら」という事を考えて冷や汗を掻いていた。青薔薇という稀代のVtuberに存在感で負けないだけでも大変だという事はここまでの配信を見ているだけでも分かる。それを考えれば、パンドラ・ミミックも春日野ユーマも頑張ってはいるのだという事が伝わって来る。
「これ、デビューしたばっかりの個人勢とかが出てたら、完全に呑まれる奴だな」
「いやー、企業所属でも相当経験が無いと厳しいですよ……俺も、今あの場に放り込まれたら空気になりますもん」
「俺の場合、青薔薇が居なくてもヒデェことになりそうだけどな。女相手にカッコよくキメるなんてやった事ねぇもん」
点数が振るわなかった二人へのフォローを入れつつ、改めて画面へと目を向ける。次の出番は個人勢の古株であり、バーチャルラッパー勢の元締とも呼ばれるMC備前。この中ではチャンネル登録者数は最も少なく、年末に投稿されたマイクリレー楽曲で伸びている事は確かだが、それでも5,000弱に留まっている。ある意味では大抜擢と言える出演ではある。
古参でありながら伸び悩むのは、彼の外見が典型的なB-BOYスタイルという没個性的なものである事や、目深く被ったキャップで目を隠している事でより個性を消している事も理由である。デビュー当初はラッパーというだけで一つの個性だったが、同様のバーチャルラッパー、また単純にVtuberの母数が増えれば増えるだけ、外見からして個性が溢れるようになっていった。
だが、彼は2Dモデルのリファインや新衣装といった要素ではなく、仲間の力を借りながらも楽曲という彼が最も魅せたいもので伸びるチャンスを掴んだ。そのストイックな姿勢があってこそ、後発のバーチャルラッパーたちに慕われている、
「備前、カマせ」
竜馬が静かに、だが力強く呟く。ありったけのリスペクトを込めて呟いた。
※※※
「次は個人勢からの参戦、MC備前さんでーす!何気に青薔薇さんとほぼ同期なんだよね?」
「17年の11月だから、ちょっとだけ後輩っちゃ後輩なんだけどな。まぁ、良くも悪くもアングラでやってた身だ。オーバーズオリジナルメンバーの活躍は遠い世界どころか、異世界の様だったな。逆にここで俺が青薔薇さんの点数ブチ抜いて、ついでにリスナーのハートも撃ち抜いてやるよ」
「凄い自信!なんかこう、場数を踏んだ落ち着きみたいなのがありますよねー」
「場数どころか韻も踏んでましたね、サラっと。遠<い世界>と<異世界>、<ブチ抜いて>と<撃ち抜いて>……流石ですね」
「惜しいな、執事さん。一つ見逃してるぜ。後で聴き返して探し出してみてくれ」
《備前ニキー!ブチかませ!!》
《ダルマリアッチ@Vtuber:トークの中でしれっと踏んでくるんだよなぁ》
《謎のラッパーV・MCカサノヴァ:備前さんの応援に歩いて参った》
《イル・ダ・リング-ill da ling-:カッコイイとこ見に来たぜー》
《大人の男だ……》
《渋いねぇ。自称三十路だっけか》
《うわぁ、ラッパーが増殖しとる》
《三日月龍真a.k.a.Luna-Dora:カマせ、備前》
《本当だ、巻き戻したら本当に踏んでた》
《あと一つ、どこだろ》
「それでは4番手、MC備前さんお願いします!」
※
「どうした?こんなとこに呼び出して」
『あの、備前さん……今日、バレンタインデー、ですよね。これ、受け取ってください!』
「お、ありがとうな。来月、ちゃんとお返しするよ。3倍返しはちとキツいけどな、はは」
『い、いえ、いいんです!それより……伝えたい事があって……!』
「……ああ、聞くよ」
『私……備前さんの事、好きです……!!』
「そっか……ありがとうな。嬉しいよ。俺も、正直君の事は前々から気になってた。たぶん好きなんだろうな、って思ってたし、それが今確信に変わった」
『本当、ですか……!?』
「でも、俺なんかでいいのか?俺はもう三十路の、甲斐性なしのオッサンだ。恋愛対象にするには、最上とはとてもじゃねえけど言えねぇよ?」
『いいんです……私は、備前さんがいいんです……!』
「……そっか。なら、ホワイトデーに改めて伝えるよ。その時になっても、まだ俺で良いって言ってくれるんなら……俺と付き合ってくれるかい?」
『はい、勿論です……!待ってます、待ってますから……!』
「……俺には勿体ないくらい良い娘だな、君は」
※
「ひゅぇ…………」
「ああ!オニキスちゃんの呼吸がおかしいことに!」
「大人だ……!大人の魅力だ……!!」
「え、最近のラッパーって演技も出来んの?」
「驚いたな……」
《ひゃあああああああああああ》
《やだ、カッコイイ……!!》
《謎のラッパーV・MCカサノヴァ:しゅき……》
《ダルマリアッチ@Vtuber:抱いてくれ》
《オニキスー!!!しっかりしろ!!》
「備前くん、ほぼ素でしょ、これ」
「あー、まぁそうっすね。夢々さんにはわかりますか。フリースタイルやる時も特に考えてねぇし、そのノリでやった感じっすわ。ビート無しで対話する感じで」
「おいセイル、どうすんだ俺らのハードルがまた上がったぞ」
「最下位にならないのが目標だな……!!」
「悲観的になるの早すぎませんか?」
「さぁ、コメントも現場も騒然としてますが!審査に行きましょう!!」
【ネクロ:9.5 音色:8 オニキス:9】
「26.5点!!!惜しくも2位!!ですが、これは凄い結果!!」
「いや、もうボク様的には完璧に近い対応だよん。まだ全員分終わった訳じゃないから9.5点だけど、仮にこれが最後の出番だったら迷わず10点だったねぇ」
「凄く素敵な対応だったと思います。相手の事もちゃんと気を遣ってて。でもちょっと自虐があったのと、答えを結果的に先延ばしっぽくしちゃったのが惜しかったな、って。私だったら、自分の好きな人が自分を卑下するの、ちょっと嫌だなって思っちゃうから」
「なんかこう、歳の差のある恋愛ってこうあるべき!みたいなところが全部出ててこう大好物です。ご飯4杯行けます。ただ、青薔薇さんのインパクトが私には強すぎて……そこで点差つけました」
「いやいや、望外の評価だ。20点の大台に乗っけて、これで1位取れねぇのはしょうがねぇさ」
「うーん、最後まで大人の対応!ただ、これで備前さんのファンは間違いなく増えたと思います!ありがとうございました!」
《うおおおおおおおおおおおおお》
《三日月龍真a.k.a.Luna-Dora:ブチ上げてくれた、それでこそ備前だ!》
《VIRTUAL-MC FENIXX CHANNEL:あかん、なんか泣きそう》
《チャンネル登録して来ます!》
《やっぱ2017年組って凄い人多いんだな……》
「さぁ、盛り上がってきた所で次は秤京吾!同期のフィリップと正蔵おじさんは過去2回で8点と6.5点で最下位!同期のやらかしを払拭できるのか!お願いしますっ!」
※
『京吾くん、これ、受け取って欲しいの……!』
「もしかして、バレンタインの?おおお!ついに初めてだわ、貰えたの!わ、マジでか!ありがとうな!義理でも嬉しいわ、マジで!」
『喜んでくれて嬉しい……!あと、ね、私……その、京吾くんの事がずっと好きでした……!義理じゃなくて、本命なの……!!』
「え、あ、なあああ?!好きな人から本命チョコとかマジで想定外だどうしよう!?どうしたらいい!?」
『あ、その……お返事、くれると、助かるかな?』
「そっか、返事か!……好きだ!!俺も好きだ!!今まで言えなかったのは俺がヘタレだっただけで、ずっと好きだった!!付き合ってくれ!!」
『も、勿論……!!』
「……っしゃあああ!!最高の日だ!!サンキューバレンタインの元ネタになった誰か!!」
【ネクロ:7 音色:7.5 オニキス:8】
「基本的にうるさいんだよねぇ……まあ、変にこねくりまわさず直球ブン投げたのは良い事だよね。7点で」
「どうしたらいい、って聞き返すのはちょっと減点だね。でもこれだけ喜んでくれたら嬉しくなっちゃうよなぁ……うーん、7.5点!」
「特に変な事はしてないですし、等身大な感じが初々しくて可愛いなって思います。絶対大事にしてくれそう感はあります……8点でお願いします」
「22.5点!これは予想外の高得点!やるじゃん、京吾!」
「いやー……流石にダメな見本を同期が二回もやらかしてるとな……嬉しい以上にホッとしたわ、マジで」
《うるせぇ!w》
《勢いはここまでで一番だなw》
《元ネタになった誰かは草》
《いや大健闘よ、大健闘》
《フィリップと正蔵おじはマジで反省しろ》
※
『ブラックセイルさん……これ、受け取ってください……!あなたが、好きですっ……!』
「おいおい、お嬢ちゃん。海賊からハートを奪うなんて、とんでもねぇ大海賊だな。それじゃあ、俺はお前さんから唇を奪わせてもらうぜ……」
『え、あ、ひゃああ!』
「ふっ、海賊に惚れたら、こうなるってわからなかったかい?」
【ネクロ:1.5 音色:2 オニキス:2】
「何故だ……!!」
「なんかもう、狙い過ぎててスベったよねぇ……」
「海賊であることを活かすにしても他にやり方あったと思うんだよね……」
「ワイルドさの出し方を完全に間違えましたよね……」
「ぷっ……くく、失礼しました……海賊ブラックセイル、5.5点で、現在最下位です……くひひ……!」
「ぶはははははは!!!」
「お前スゲェな。正蔵おじ下回ったぞ」
「……すいません、こういう時にどういう顔をすればいいのか」
「なんだ、その、頑張れ?」
「クロムー!助けてくれクロムー!!」
《草》
《うわぁ……(ドン引き)》
《審査員が目を背けてる感じがもう草よ》
《ユーマ笑い過ぎだろw》
《外部ゲストが気を遣ってる……w》
※※※
「セイル……!!何やってんだ……!!超面白かったけど……!!」
「ある意味逸材だと思うけど、いやー……カッコ付け方をあそこまで間違える人って居るんだ……」
「備前の高得点の感慨が全部吹っ飛んだわ。オーバーズ、流石に層が厚いな」
ほぼ同期である海賊ブラックセイルの大やらかしに圭祐が頭を抱える中、翼と竜馬が逆に感心したような表情で画面を見つめていた。個人勢MC備前の高得点、秤京吾の予想を覆す高評価と新人であるブラックセイルの失敗と、企画の中盤の中だるみしやすい時間帯を盛り上げて終えた三者を労うように、要と芽衣が拍手をする。
「いやー、見てる側は面白いけど出てる方は大変だよね、これ」
「そしてトリは我らが廻叉くん、と。……おや、出てる本人より緊張してるね、弓奈ちゃん」
「……だ、大丈夫です、ちゃんと、見届けます……廻叉さんは、きっと、青薔薇さんにも負けませんから……」
敬愛する正時廻叉による告白シーンを一言一句見逃すまいと力を入れる姿に、二人は微笑ましく見守るだけだったが、そんな中に直球をぶつける存在が一人居た。
「弓奈お姉ちゃんは、正辰お兄ちゃんが好きなの?」
顔を赤くして絶句、そのまま応答なしの状態に陥った弓奈の姿こそが答えだという事を、純粋な質問をした清川亜依と、要の膝上で喉を鳴らす飼い猫、清川ペコ以外の全員が悟っていた。
自分が続きを読みたくなる引きにして執筆モチベを上げるというライフハック。
御意見御感想の程、お待ちしております。
また、拙作を気に入って頂けましたらブックマーク、並びに下記星印(☆☆☆☆☆部分)から評価を頂けますと幸いです。