「青薔薇のエチュード」
ブリテンを駆けずり回っておりました。申し訳ございません。新規鯖は引けませんでした。なんて時代だ。
オーバーズオリジナルメンバー、青薔薇。球体関節人形であり、プロフィール上での性別は『無し』となっている。男装の麗人とも、女装男子とも取れる外見と声でオーバーズの立ち上げから現在まで最前線を走り続けるトップランカー。チャンネル登録者数も10万人を超え、『七星アリアが居なければ彼女が最初の7人だった』という評もある程に、業界でもトップクラスで人気のあるVtuberの一人。
もう一人のオリジナルメンバーである雛菊ゆいがMCや公式案件、大型企画の主催等に力を入れる事で下支えを行い、七星アリアが独特の感性と人間力で業界を席巻し、青薔薇が自身の魅力を理解しきった言動でファンを魅了して沼に落とす、という形が作られた事が2017年当時のオーバーズの躍進に繋がったとみる有識者も多数いる。
「まー、顔が良いわ声が良いわの完璧超人よ。ゲームとかとは違う意味で『初見殺し』なんて言われてるレベルだ」
「竜馬くんの言う通り、ウチの亜依も堕ちたね。さっきから青薔薇さんをガン見してるもん」
竜馬がコーヒーを啜りながら解説すれば、芽衣が娘である亜依の様子に苦笑いを浮かべる。亜依は画面の青薔薇が一言発する度に黄色い歓声を上げていた。翼も声こそ出していないが、突然の推しの登場以降若干様子がおかしい。
「まぁでも廻叉くんは自分の演技に入ればブレないし、大丈夫さ。勝てるかはともかく、いい勝負はしてくれると思う」
「ですよね、廻叉さんなら……!」
「それに対してキャプテンの狼狽えっぷりが酷い……!」
要は廻叉の事を信じてはいるが、青薔薇の実力をよく知っているのも要だった。そんな気休めめいた言葉に勇気づけられる弓奈と対照的に、ほぼ同期であるブラックセイルの動揺具合に圭祐は不安を募らせていた。何にせよ、彼らも現在は一視聴者に過ぎず各々のスマートフォンなどから目立たない程度にコメントを打つか、祈りながら画面を見つめるしか出来なかった。
※※※
「という訳で、今回のテーマはこちら!バレンタインデー直前って事で、こんなシチュエーションを用意しましたっ!」
【本命チョコを渡してきてくれたのは、なんと貴方の思い人。カッコよく逆告白!】
「まず本命チョコを貰った記憶が無ぇんだ……」
「セイル、奇遇だな。俺もだ」
「既に声に哀しみを帯びていますが大丈夫ですか?」
《告白を告白で返すクロスカウンター》
《ブラックセイルと京吾、俺らと同類で草……いや、草生えねぇよ、笑えねえよ……》
《まぁ俺らはな……》
《自傷ダメージ受けてる奴多過ぎない?》
「という訳で、参加者のみんなとボクは自分なりのセリフを考えるシンキングタイムに入るので、審査員の皆さん自己紹介よろしくー」
「ちょっとドラちゃん!?こっちに丸投げぇ!?あ、地獄の底からわんばんこ。審査員の鹿羽ネクロだよん。是非、ボク様の創作意欲を掻き立てるようなセリフをブチ込んで欲しい所だねぇ」
《雑過ぎる進行で草》
《ネクロー!》
《物書きの視線は確かに気になる》
《一人称と語尾以外は真っ当な女の子だからな、ネクロは》
「審査員は二回目、鈴城音色です。バレンタインデー当日に歌動画出すからよかったら見に来てね。前回は同期が無駄にイケメン発揮しててカッコよかったけど、それ以上になんか腹立つという不思議な感覚になりましたが、今回はそういう相手は居なさそうで安心してます。っていうか、青薔薇さんを審査するとか畏れ多いんですけど……」
「気にしなくていいさ。君達は思うままに感想を言って欲しい。忌憚のない意見が一番重要だよ」
「は、はい……!」
《音色やんけ》
《番宣じゃねぇか!》
《音色は行事合わせで絶対出してくれるからな》
《オリメン除いて一番先輩だけど、それでも緊張するんか》
《青薔薇様もうイケメンなんだが》
《あ、好き……》
「どうもみなさんこんばんは。にゅーろねっとわーく所属、美少女占い師Vtuber、氷室オニキスでございます。念願のイケメニスト審査員の座に座ることが出来ました……パンドラさんにドネートで『審査員やらせてください』と賄賂を贈った成果が出ました」
「人聞き悪い!ドネートは確かに貰ったけども!!」
《おおおお?!》
《まさかにゅーろの子が来るとは》
《魔窟の主、第三の刺客やんけ!!》
《賄賂は草》
《欲望に忠実過ぎる》
《カプ厨の鑑》
「さぁ、これ以上ボクの好感度が下がる前に本編行きましょう!」
「もう下限だよ、下限」
「京吾うっさい!そんじゃ順番はくじ引きで!抽選Excelドン!」
《下限までは行ってへんよw》
《京吾wwww》
《スタッフ謹製、抽選用エクセル》
《さーて、誰が来るかなー》
「名前入力完了、ランダム並べ替えっと!」
【青薔薇】
【パンドラ・ミミック】
【春日野ユーマ】
【MC備前】
【秤京吾】
【海賊ブラックセイル】
【正時廻叉】
「はい、お疲れ様でしたー!また次回お会いしましょう!」
「逃げんなぁ!戦え!!」
「お前が呼んだ青薔薇先輩だろうが!!」
「やだー!!青薔薇さんで上がったハードルをボクが下げる役目じゃんかああ!!!!」
《うおおおおおおおおおおおおお!!》
《初手でド本命ktkr》
《逃げるなパンドラぁ!!》
《草》
《ユーマと京吾が手を組んで捕まえに行ってて草》
「まぁまぁ、落ち着きなよ。そんな風に、私のハードルを上げられると困っちゃうよ。そんな意地悪をしないでおくれ」
「あ、カッコイイ……あと可愛い……」
「華がある、という言葉がここまで似合う方も滅多に居ないでしょうね……」
《ヒェ……》
《ひゃだ……》
《自分の脳から何かが歪む音が聞こえた》
《VIRTUAL-MC FENIXX CHANNEL:備前くんしっかりしろ!傷は深いぞ!!》
《執事が本気で感心してるっぽいな》
《オリメンやべぇわ……》
《まだ始まっても居ないのに大量リード奪われてない?》
《審査員の嬌声がすごい事に》
※※※
「えー、混乱も収まった所で始めまーす。シチュエーションは前述の通りで、お相手役の人からの告白を受けてから台詞を言ってもらう前回と同じ形ですね。お相手役も前回と同じく、『バ美肉開拓団』団長こと夜深志夢々さんでーす」
「ハロー☆毎度お騒がせ系女子の『バ美肉開拓団』団長!夜深志夢々でーす。今回も素敵な男子達に口説かれるのが超楽しみ!」
「これでボイチェン無しの男性だってんだから恐ろしいよねぇ。ぶっちゃけ、ボク様より声可愛くない?」
《団長ー!》
《今日だけで何人歪ませるつもりだパンドラ》
《ボイスでめっちゃ稼いでる人やんけ》
《バ美肉の第一人者なのにフットワーク軽いよなぁ》
《ネクロ、女性Vは多分全員そう思っとるぞ》
「それじゃあ、トップバッターの青薔薇さん、お願いしますっ!」
※※※
『あの、青薔薇さん……これ、バレンタインのプレゼントです……受け取って貰えますか?』
「そうか、そういえば今日は2月14日だったね。……うん、ありがとう」
『青薔薇さん、その、チョコは……本命チョコです。私、青薔薇さんが好きです……!』
「……ふふっ」
『な、なんで笑うんですか?』
「ズルいなぁって思っただけさ」
『ず、ズルい……?』
「だって、いつか私から君に、好きだと伝えたかったのに先を越されてしまったんだから」
『っ……!』
「先に言われてしまったら、私が『告白されたから好きになった』みたいじゃないか。ずっと、君の事が好きだったのに、ズルいなぁ夢々ちゃんは」
『そ、そんなつもりじゃ……』
「……でも、そんな君の困り顔が見たくて意地の悪い事を言う私もズルいのかもしれないね。これからも……君の事を困らせてもいいかな?」
『わ、私で良ければ……!』
「ありがとう……大好きだよ」
※※※
「くぁ……!!」
「オニキスちゃん!?しっかりして傷は深いよ!?」
「え、これ基準点になるのエグない?」
「むしろ最初だから満点が出ないだけ良かったまである気が」
《ひゃだ……》
《一番最後の大好きだよがトドメでした(自由律辞世の句)》
《うわああああああああ好きいいいいいいいいいいいいいいいいい》
《オニキスが大ダメージ喰らってて草》
《トップバッターでトップスピードを出さないで(懇願)》
《確かに青薔薇が最後だったら全員満点まであったからトップバッターで良かったかもしれん》
「うーん、流石青薔薇ちゃんだね。いやー役得役得」
「夢々さんの演技が良かったからね。お蔭でとてもスムーズに演技に入れた」
《よく平然としてられるな、夢々ネキニキ》
《照れが一切ないよな、二人とも》
「お二人とも素晴らしい演技力でしたね。これは、見習わねばいけませんね」
「おや、君ほどの役者にそう言って貰えると光栄だな」
「何を仰いますか。私など執事としても役者としても研鑽の途中ですよ」
「ふふ、噂には聞いていたけれど確かに無感情だ。押し殺している、という感じでもないし……うん、興味深いな。機会があれば、一度じっくりと語り合いたいところだけど」
「是非。歓待の準備もありますので、事前にご連絡を頂ければ幸いです。コーヒーと紅茶、どちらがお好みでしたか?」
「紅茶で頼むよ。ふふ、君にはいつも苦労を掛けるね」
「青薔薇様、それは言わぬ約束で御座います。先代様の御遺志だけでなく、私自身の意思でお仕えしております故」
「君の忠節には本当に感謝しているよ。きっと亡き父上も草葉の陰で喜んでいるだろう。君が居なければこの伯爵家も没落の一途を辿っていただろうさ」
「微力を尽くしはしましたが、青薔薇様の才覚あっての事で御座いましょう。御謙遜されずとも良いのです」
《執事対抗意識燃やしてるなぁ》
《ロールプレイガチ勢VSロールプレイガチ勢、ファイッ!!》
《無感情だけど押し殺してない、はすげぇ分かる》
《サシの対談なり朗読なりあったら見たいよなぁ》
《なんか始まったぞw》
《会話のキャッチボールが突然テニスのラリーになった感》
《設定も何も言ってないのに何となくで合わせてるの草》
「はーい、そこまで!企画で出来そうな即興芝居を審査待ちで消費しないの!」
「興が乗ってしまいまして」
「いいね、君の番を楽しみにしてるよ」
「それじゃあ、審査員の皆さん0.5刻みの10点満点で点数付けてくださいどうぞ!」
【ネクロ:9 音色:9 オニキス:9.5】
「27.5点!いきなり高得点でました!それじゃあネクロからコメントお願いしまーす」
「もう声と台詞選びは完璧だよねぇ。本当に自分を分かってるって感じ?ただ『困らせたい』は賛否あるんじゃないかな、って事で9点だよん」
「私も9点になったのはそこかなー。青薔薇さんらしさは凄く出てるけど、ちょっと人を選ぶかもって感じ」
「最後の大好きだよがヤバ過ぎです。10点点けなかったのは最後の理性です」
《おおおお》
《トップバッターだけど優勝まであるぞ、これ》
《流石に強い》
《確かに困らせたいが良いかは諸説ある》
《最後の理性は草》
《さぁ、ハードルが超えれるギリの高さにまで上がったぞ》
※※※
「よし、青薔薇勝ったな。風呂入って来る」
「ま、まだ決まってませんから……!」
竜馬が席を立とうとするのを弓奈が慌てて止めるが、全員が全員、薄らとこのまま青薔薇が優勝するのではないかという考えになっていた。気取った台詞、ともすれば歯の浮くような台詞ですら「それを言う事が自然である」と思わせる青薔薇の表現力の底知れなさを感じ取っていたのかもしれない。
「いやー、実際凄いよね。あれ目の前にちゃんと演技の相手出来る夢々ちゃんも大概だけど」
「しゅき……」
「カッコいい……なのにカワイイ……」
「あのー、娘さんと翼さんの目が完全にハートになってるんですが」
「とりあえず今は放置で。さて、これ廻叉くんはどうするんだろうね」
芽衣の表情は真剣そのものだった。圭祐からの報告を聞き流しつつ、SNSの実況投稿を眺める。そちらでも青薔薇絶賛の声で埋まっているような状態だった。特に、オーバーズのファンと思しきアカウントは推しが最下位でない事だけを祈るような投稿も多々見受けられる程だ。
そんな中で、唯一対抗馬として目されているのが正時廻叉だった。舞台出演経験があり、先程も審査の合間に即興劇を青薔薇とこなして見せるなど、そのポテンシャルの高さに初見の視聴者も気付き始めている様だった。
「まぁ、ウチの同期は凄いんだから大丈夫でしょ」
「同感。竜馬くんのあの態度だって、九割方ネタみたいなものだしね。負けず劣らずの物をきっと見せてくれる」
「そうです……青薔薇さんも素敵だけど、廻叉さんなら……!」
2番手のパンドラ・ミミックが夢々のアドリブ気味な問いかけにしどろもどろになっている様が流れているテレビモニターに視線を戻し、Re:BIRTH UNIONメンバーは正時廻叉の出番を待っていた。なお、約一名ほど廻叉の出番直前まで限界化していた挙句、その事をエピソードトークのネタにされる1期生が存在していたが、今この場においてはスルー対象となっていた。
【現在順位】
1:青薔薇(27.5P)
2:パンドラ・ミミック(14P)
残念な結果に終わった面々は申し訳ありませんがダイジェストになります。テンポアップの為にもご了承ください。女性への対応をトチり続ける様は、書くのも読むのも心苦しいという一面もあります。
御意見御感想の程、お待ちしております。
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