「【Re:BIRTH UNION】緊急招集SPECIAL【公式配信】2」
評価ポイントやブックマークが増えているのを見る度に、より面白い作品を書きたいという意識になってきます。
それでは、前回の続きです。
少女は、その配信を見ながら昔読んだ天体に関する本の記述を思い出した。寿命を迎えた星は光を失い、縮んでいき、大爆発を起こし――質量の大きい星は、最後にはブラックホールになるという。
ステラ・フリークスは、Re:BIRTH UNIONの四人を「自分を超えていく者」と呼んだ。彼女は天に輝く星のような存在だと、少女は思っている。真っ暗闇の中で、ふと見上げた空に煌々と輝く星。強く、美しく、孤独な星だった。一部で天才と呼ばれ、リザードテイル運営のVtuberでは一枚看板として企業を支え、数多のリスナーを魅了し続けてなお、彼女は一人だった。Re:BIRTH UNIONは彼女が求めた存在の集合。彼女と共に輝くために選ばれた四人。
初めてのコラボを告知された時に、少女はどんな星座になるんだろう、と思いを馳せて――詩人を気取ったような自分の思考に、冷笑を浮かべた。そして、彼女の意識は画面上で行われる配信へと戻っていく。
※※※
《歌コラボだー!!!》
《うおおおおおおおおお!!》
《執事とメイドのお歌助かる》
《期待が、期待が重いよステラ……》
《こんな自己評価低い子だったんか、ステラって》
《これ、1期生喜び過ぎて配信中に死ぬまであるな》
《尊死不可避》
《歌だけの女が10万人登録はいかねぇよ》
「歌、ですか……」
「え、いや、そんな荷が重いですよぉ……!」
《執事困ってるな》
《執事が口ごもってる珍しい》
《キンメもだな。歌ってみた動画すらないもんな、2期生》
《しかもいきなり事務所の看板とコラボとか胃が痛いにも程がある》
「待ってた、待ってたんだよこの時を……!!」
「丑倉は……いや、丑倉と龍真くんはステラさんに憧れてここに来たんだから、こんな大チャンス逃すはずがない……!」
《1期生はそりゃ張り切るよな》
《むしろここで張り切らないなら音楽系Vやってねぇだろ》
《ここのコラボ楽曲はマジ楽しみ。オリジナルでもカバーでも楽しみ》
『ふふ、なんとも予想通りの反応だ。確かに、廻くんとキンメちゃんは歌の動画はやってないからそうなるだろうね。私を含めた先輩が音楽を主体にした活動だけど、君達二人は演劇・朗読とイラストが主体だ。そんな君達が、私と歌う事に不安を感じるのも分かるんだよ。足を引っ張らないか、とか。自分の歌声なんかでステラと一緒に歌って大丈夫なのか、とかね。ふふ、私はちゃんと客観視出来てるのさ』
《ドヤステラ》
《たまにドヤるよな、ステラ》
《そこがカワイイ》
《でも実際そうだよなぁ。素人がプロとデュエットとか、ハードル高いなんてもんじゃない》
「それを分かっていて尚、私達と歌いたい、と。そう、ステラ様は仰るのですね?」
『そうさ。これは私のワガママだ。君達が私の事が大好きだと知っているから、きっと頼みを聞いてくれると信じてのワガママ』
「そりゃステラ様は好きだけどぉ……!大好きだけどぉ……!!娘の次に愛してるけどぉ……!!でも、一緒に歌うのは無理ぃ……!!あたしの歌なんて本当に素人のカラオケレベルだもん……!嬉しいけど、あたしが手を出しちゃダメな領分だもん……!!」
《執事、ちょっと諦め入ったな》
《察しが良いから、ステラが折れないとお気付きになられましたか》
《おいたわしや執事上……》
《執事は本来下に付くべきでは》
《愛されてる自覚があるとはまた凄い自信だ》
《まぁこの反応見て気付かないのは鈍感系主人公だけだろ》
《おい、人妻。旦那の序列言ってみろ》
《だが真に迫ってるな……正直、気持ちわかる》
《娘を一位に置く理性がキンメにもまだ存在していた》
「……歌う事は吝かではありませんが、ステラ様との歌唱力に差があり過ぎて聞き苦しい作品になりかねない、という懸念があります。しかし、貴女の歌への拘りから考えるに――生半可なクオリティの作品を出す気はないでしょう?」
『ふふ、ふふふふふ、あははははは!廻くんは凄いなぁ!もしかしたら私より私を理解してるんじゃないかな?ますます君を執事として雇うのではなく、対等な同士にしたいと思った!キンメちゃんもだよ?そんな泣きそうになるくらい、私の歌を好きでいてくれている。それを邪魔したくない。だから苦しいんだよね?』
「ふぇ、あ、うん……本当にその通りで……でも、一緒に歌いたいって言ってくれたのは凄く嬉しくて……」
『そうか、嬉しいか……大丈夫、大丈夫なんだよキンメちゃんに廻くん。この私が保証する。何故なら……』
《あかん、ステラに何かのスイッチ入った》
《狂喜しとる……》
《な、なぜなら……?》
『君達が私と一緒に歌っても負けないレベルにまで、私が主導で歌のレッスンをするんだよ。私が産まれてから、今日までに学んできた歌の事を、君達に伝授する。厳しいレッスンになるだろうけど、君達なら出来ると確信しているよ』
《はあああああああ!?》
《うわああああああああああガチだあああああああ》
《ステラと一緒に歌えるほど上手くない>わかる だからステラが一緒に歌えるレベルまで鍛える>わからない》
《何がステラをそこまで駆り立てるんだ》
《重い……期待が……っ!!》
《善意のパワハラで草》
《圧ゥ!!めっちゃ売れてる先輩の圧ゥ!!!》
《とんでもねぇな……》
「……キンメさん、ここまで言われて、引けますか?私は、無理だ」
「……ここまでしてくれるなら、応えたい」
《キンメ涙声やんけ》
《なかないで》
《いや、泣くだろ》
《憧れの相手が本気で手を尽くしてくれて、その理由が自分と一緒に歌いたいから、だぞ。そりゃ泣くわ》
《執事腹括ったか》
《もう応援することしか出来ん》
『……ありがとう。もしかしたら、本気で嫌がられるかもってちょっと思ってた』
「いえ、むしろ光栄なことです。ここまでステラ様が私共を高く評価されている、というのは本当に予想外でしたが」
「頑張る、頑張るよ……!!」
『そして、龍くんと白ちゃん。君らは、まさか自信が無いなんて言わないよね?』
「当然。いつでも行けるぜステラ様」
「むしろ廻叉くんたちとのやり取り聞いてて、燃えて来たよ」
『うんうん、二人ならそう来ると思ったよ。だから君達二人には条件を付けようと思う』
《ドヤったりビビったり忙しいな》
《ステラ、リバユニ勢への愛が重い》
《そりゃ事務所で唯一10万人登録の歌手が、登録者1万人未満の新人にここまで入れ込むなんて誰も思わん》
《嘘、執事とメイドまだ4桁なん!?》
《執事に至っては5千すらまだだ》
《Oh……》
《1期生の気合の入り方がヤバイ》
《条件……?》
『龍くんはラップ禁止、白ちゃんはギター禁止ね?』
「ふぉああああ!?ちょ、マジかステラ様!?」
「アイデンティティーの喪失ー!!!」
《ご覧ください、これが゛”圧”でございます》
《憧れの存在という立場を全力で活かしてやがる……》
《じゃあくなうたのおねえさん》
『君たちが私の事を好きでいてくれているように、私も君たちが大好きなんだ。大好きな人の新しい一面が見てみたいって思うの、ダメかな?』
「ぐっ……!!それは、それはズリぃよステラ様よぉ……!!ときめいちまうだろうよ……!!」
「しゅき……すてらさま、しゅき……ぅしくら、がんばるぅ……」
《チョロい》
《草》
《ダメだコイツら早くなんとかしないと》
《ダルマリアッチ@Vtuber:バーチャルラップバトル企画で死ぬほど擦られるだろうな、今のルナドラの姿》
《2Dモデルで小首傾げる姿可愛すぎてヤバイ》
《魔性や……魔性の女やでぇ……!》
《VIRTULE-MC FENIXX CHANNEL:あきまへん……ステラはん、それはあきまへんてぇ……!!》
《2期生よ、これが1期先輩の姿だ》
《コテコテの関西人がコメントに並んでて草》
《片方個人勢のラッパーじゃねぇか》
《カオスだなぁ》
『まぁ何はともあれ、私は君たちが大好きで、君たちと一緒に歌うためには手段を選ばないということさ。これは先輩だからとか、登録者数が多いからだとか、そんな理由じゃない。私だ。ステラ・フリークスという一人の人間の、人間性そのものの問題だ。私はね、歌と君たちの為ならどんな労力も苦じゃないんだ』
「……正直に申し上げますと、そこまで私達の事を買って頂ける理由がわかりかねます」
『それは、今言うべき事じゃないな。そうだなぁ……何かの節目にでも、話すとしようか。さて、1期生とキンメちゃんが色々と限界みたいだし、配信時間もそろそろ一時間だ。まだ、告知することがあるだろう?』
「そうでしたね。……今更ながら、私が司会を任された理由がよく分かりました」
《重い、重いよステラ……》
《なんかストーリー始まってるな?》
《いや本当に執事司会で助かった。チャンネル登録してくる》
《まだ告知あるの!?》
《歌コラボだけでもお釣りが出る程ヤバイ告知だったんだが》
「はい、ではこちらは画像にて発表させていただきます。では、こちらをご覧ください」
【Re:BIRTH UNION 3期生オーディション開催!!】
《あああああああああああああああ!!!》
《3期生!!!》
《これは重大発表》
《かなり速いペースだな》
「という訳で、我々の新しい仲間を募集する次第になりました。テーマは変わらず『生まれ変われ、自分』、夢や目的を持っている事が最大にして最低条件です。その他、詳細は公式ホームページをご覧ください」
『そして、今回は前回同様の動画・書類選考の後に二回の面接がある。一次面接、オンライン通話での面接官はRe:BIRTH UNION運営スタッフと、Re:BIRTH UNIONメンバーだ。ただし最終決定権はスタッフによるので、合否に関する問い合わせや苦情を四人にぶつけるのはやめるようにしてもらえると助かる』
《所属タレントが面接官?!》
《これは新しい》
《実際、同僚になるのがどんな人かは見ておきたいわな》
《最終決定はスタッフってのも上手いな。絶対落ちた奴が逆恨みで凸るの目に見えてる》
「我々に皆様の合格や不合格を左右する力はありませんが、我々の心に触れる何かを残された方、この人とならば一緒にやっていきたいと思わせてくれた方には、我々もスタッフへと推薦させて頂きます。さて、最後の面接ですが……こちらは弊社社長並びに統括マネージャーとの実地面接になります。また、弊社所属タレントであるステラ・フリークスも面接官として、3Dアバターとタブレットを通して参加いたします」
《最終面接怖っ!!》
《社長&有能マネ&ステラ、地獄かな?》
《むしろそれを乗り越えたリバユニメンバーがすげぇわ》
『Re:BIRTH UNIONは私が企画段階から関わって来た事務所だ。故に私が最後の面接官になるのは妥当だろう?とはいえ、私が長の様な形……例えば、学校ならば校長、といったような肩書ではなく、0期生と名乗っているのは――私が“同志”を求めているからに他ならない。先ほどまでハシャいでいた龍くん、白ちゃんやキンメちゃん、廻くんは私に敬愛を向けてくれていると同時に、いつか追い付くという意思を感じる。そして、そうなるだけの可能性を私は感じている。だから彼らはRe:BIRTH UNIONなんだ』
「私からも敢えて言うならば……『生まれ変われ、自分』という言葉の意味を、どうか考えてみてください。ただのキャッチフレーズではないのです。この言葉は――Re:BIRTH UNIONに関わる全ての人の決意表明です」
《すげぇな……本気でリバユニだからこその人材探してる感》
《オバズみたいにいろんな人が居るのもいいけど、こういう一貫したコンセプトがあるのも良いな》
《ただしハードルはクッソ高い模様》
《こんなシリアスなオーディション告知ある?》
《生まれ変われ、自分の意味……》
「さて、それではお時間となりましたので……龍真さん、白羽さん、キンメさん。そろそろ戻ってください、正気に」
「失礼だなぁおい!?」
「うしくらはしょうきだよ」
「ごめん、もう゛ちょい゛待っで……」
『あはははは!もうさっきの言葉の説得力が消し飛びそうだね!』
《シリアスさんご帰宅です、拍手でお送りください》
《ほんま草》
《こいつら……w》
《シリアスさんは帰ったのに丑倉のSAN値が帰ってこない》
「とにかく、お時間ですので〆ます。お相手は、Re:BIRTH UNION2期生、正時廻叉と」
「同じく2期生、魚住キンメと!」
「Re:BIRTH UNION1期生、丑倉白羽とー」
「1期生、三日月龍真a.k.a.Luna-Doraと!」
『Re:BIRTH UNION、0期生。ステラ・フリークスでした』
『それじゃあみんな、良い夜を』
配信時間:1時間25分
最大同時接続者数:3206人
チャンネル登録者数:15711人(公式チャンネル)
※※※
生まれ変われ、自分。今の自分が大嫌いな少女にとって、その言葉は他の視聴者の誰よりも深く刺さっていた。配信が終了すると同時に、部屋を飛び出した。階段を下りれば、リビングがある。テレビの音が聞こえる。父と母がそこにいるはずだ。数ヶ月前まで、怖くて開けられなかった扉を、嘘のように簡単に開けることが出来た。
「お父さん、お母さん……どうしても、挑戦したい事があるの。私の貯金を、使わせてほしい」
学校生活に馴染めず、長い間自宅学習――少女は引きこもり生活ではあったが、兄とその恋人が家庭教師を買って出て居た――を続けていた娘が、何の兆候もなくこのような事を言い出した事に、少女の両親は面を喰らった。
最近になり、自室だけでなく居間で食卓を囲むようになったりと、少しずつ自分だけの世界に閉じこもる事から脱却しつつあるのは、喜ばしい傾向だと思っていたが。何かに挑戦したいと言い出すまでになっているとは露ほども思っておらず、ただただ困惑していた。そんな両親を真っ直ぐに見つめたまま、少女は言った。
「……私は、生まれ変わりたいの」
後にRe:BIRTH UNION3期生のメンバーとなる少女、三摺木弓奈の目は、強い決意に満ちていた。
ようやくタイトルのもう一人を出すことが出来ました。まだ生まれ変わる前の姿ではありますが。
次回以降から配信やネット通話だけでなく現実世界での描写も少しずつ増えていく予定です。
御意見御感想お待ちしております。